異世界
それを聞いたのは偶然であった。
「ここ最近、異世界から強力な魔力を探知した。
この魔力の質は我らが母、オヒュカス様に非常に酷似している。
だがそれはあってはならぬこと。我らが母の力は母にこそふさわしき力。故にその存在はあってはならぬ存在……。
その存在を調べ、そして……消せ、キャンサー」
「別に構わないが……今まで命令はほとんどデルタに命令してきたではないか。なぜ今回に限ってやつに命令しない?」
「……奴には奴なりの考えを持ち始めいたな。我々の目に届かない場所で変な事を吹き込まれて困る。
異世界は流石に我々同士でしか念話が届かないからな。
それに……あいつがいる世界でもあるのだ」
「!? あいつの……わかった。そういうことならば俺達十二星宮の方が適任だ。
デルタの場合、奴の思想に飲まれる場合があるからな」
「これは内密に頼むぞ。特に、スコーピオンにはこのことを耳に入れさせるな。やつは我らの中でもかなりプライドが高い奴だ。人間が俺達と同じ力を持っているなんてことを耳にした時は、きっと怒り狂い、荒れるだろうからな」
「……異世界」
*
リブラとキャンサーの会話に聞き耳を立てていたソラは異世界という言葉に妙な違和感を覚えた。
そのことを確かめようとすぐに自室に戻り、腰掛けながら中にあるソルガに語りかけた。
「ーーーソルガ」
「……」
「……ソルガ〜?」
「うん? ああ、ソラか……」
「ソラか……じゃねえよ。いつまで寝てんの?」
「トロイに奪われた力がなかなか戻らなくてな。いつまでも調子が悪いんだ」
「そうなのか……。僕達が二人に分かりてから、結構月日が流れていたけど……大丈夫か?」
「……」
「やっぱり、魔力が不足してるのかな……。俺はソルガほど魔力が多いわけじゃないから、あんまり足しにはならないだろうし……」
ソラは体調の悪いソルガ本当に心配して不安げな表情を浮かべる。そんなソラをソルガは呆れたように息を漏らした。
「……自身の心獣にそこまで心配する奴がどこにいる。大丈夫だ、安心しろ。休んでいればすぐに良くなる」
「……そっか。なら、よかった」
「……それで、何か聞きたいことがあったから、わざわざこんなところまで来たんだろう?」
「そう! さっき、マスター・リブラがキャンサーと話していたことがあったんだ。
異世界? とかいう話」
「! それは本当なのか」
「間違い無いと思う。オヒュカスがどうとか言ってた」
「……」
ソラは先程あった耳にした話をソルガに伝えた。ソルガその話を聞きながら、何かを考えるそぶりを見せた。
そして考えがまとまったのか、ソラに話し始めた。
「ソラ。まず異世界ついて話。異世界とはこことは別の隣り合う無数の世界のことだ。今俺達がいる世界とはまったく別の世界で、その世界独自の日常や世界が広がっている。
例えば、この世界には古くからウィザードやコンバットとという言葉を耳にしたことがあるはずだ」
「う、うん……。ここじゃあ、あんまり聞かないし、もうほとんど無くなりつつある言葉だから、気にしたことはなかったけど……」
「その二つもその世界独自の違いだ。
数百年前、二つの世界が合わさって一つの世界が完成した。片方には魔術師の世界。もう一つはコンバットの世界。その二つの世界が一つになかったからこそ、今のこの世界がある。
そして奴らが言っていたのはこことは別の世界。無数に広がる異世界の一つのことだ」
「なるほどね。ソルガはそんな異世界にあいつらが赴く理由があると思う?」
「単純な理由なら、きっと翼だな」
「? どうしてそこで、翼さんが出てくるんだ?」
「それはな、翼がいる場所は今説明した異世界だからなんだ」
「……嘘!?」
ソラは驚いて大きな声を上げた
「え? ええ!? つ、翼さん達がいたあの場所が異世界!? ってことはつまり……既に僕たちは異世界に行ってたってこと!?」
「そうだ。そして、あいつらが感知したオヒュカスと同じ力というのは、きっと目を覚ましたもう一人のお前のことだ」
「………不味いじゃん! めちゃくちゃピンチじゃん!」
状況が飲み込め始めたソラは焦った。今まで隠してきたもう一人のソラの存在。それをあいつらに知られては今まで隠してきた努力が!
そんな風に焦るソラにソルガあっさりと言葉を返した。
「大丈夫だ、安心しろ」
「どこが!」
「翼が簡単にやられると思うか?」
「いや、全然」
「それに、翼のそばにはエレナがいる上に、もう一人のお前中には朱雀……フィアーラがあるんだぞ。
ここまで負ける要素がない奴らに十二星宮たった一人で勝つことができてると思うか?」
「……ない」
ソラの頭の中で翼が負けるような姿が思い浮かぶことができなかった。
「それに、そういうことは翼やエレナが一番わかったる。狙われているのがお前たってことがな」
「……なら……安心……かな」
ソルガの説明に安堵の表情を見せるソラ。落ち着きを取り戻したソラは、何かを決心した表情となり、ソルガの方に向き直した。
「でも、より安全にするために、対策を取っておいても良いよね」
*
「あら? どうしたのかしら?」
「少し相談がありまして……」
ソラはソルガとの話が終わった後、アリエスの元にやってきていた。
「それで? そうたってなにかしら?」
「……端的に言います。アリエス様、今回あなたにお話があるのはあなたに誠意を見せてほしいからです」
「せいい?」
「……(なあ、ソルガ。本当にやるの?)」
『当たり前だ、さっさとやれ』
「(……)あなたが本当に十二星宮の彼らを敵に回すというのであれば、その誠意を見せて欲しんです」
「……なにをすればいいの?」
「簡単です。オヒュカス復活に関する情報の全て、それをください」
「……」
「俺に必要なのはまずは自分がなににされかけたのか。
結局あれがなんだったのか。それをまずはちゃんと知っておきたい」
「いいですよ」
「え?」
「最初から、そうしようと思っていたので、情報を集めていたの。こんなのでよかったら、参考して」
「は、はぁ……」
「後、これで誠意を見せたとは思っていないから。使うならもっと非情になって、こき使うぐらいしなさい!
悪意も何もかもをした奴の責任みたいに!」
「は、はいすみません」
いつのまにかソラが頭を下げる状況となっていたため、心の中にいるソルガは頭を押さえながら呆れ果てていた。
そして軽い説教なのか授業なのかわからないやりとりを済ませ、密会はお開きとなった。
「……ねえ、これってする意味あったの?」
『お前がアホ過ぎて、他人を利用するなんてできないということがわかっただけでも収穫だよバカ』
「結局説教ですか、そうですか。トホホ……」
次回は12月1日に投稿します。




