結託
あの後、意識を失っていたソラは元の場所、十二星宮が住まう神殿に戻ってきて、そのまま意識を失っている間に回収された。
ボロボロで血だらけのソラを回収した十二星宮は十二星宮の唯一の研究者であると同時に医術に精通しているアリエスの治療を受けていた。
ソラはまだ……眠っている……
*
「……すぅ……」
「……アリエス様。デルタ=Ⅳはいつ目を覚ますのでしょうか……」
「わかりません。これほどまでの怪|我
《・》をこの子はしたことがありませんでしたから……」
未だ意識の目覚めないソラの様子を伺いにやってきたレオナが健診をしていたアリエスにソラの様子について尋ねていた。
二人は知らないが故の発言だが、現在のボロボロの状態ですでにわずかに治療状態であり少しだけだが、すでに少しだけ傷が癒えている状態であったり、さらにすでになかったことになっているが、昔には脚や腕が消滅するほどの大怪我を負ったこともあるのだが、それを知っているのは本人だけである……。
「怪我の状態から見て、体の方が壊された……というよりも自壊したという風のが近いのだけれど……。
本人に聞いてみないとわからないわ」
「……デルタ……」
「……」
ソラの体を健診して体がどのような状態なのかの予想をレオナに伝え、その話を耳に入れながら意識の目覚めないソラの手をずっと握りしめていた。
「……やっぱり、この子達には、もっと人並みの幸せを……」
「……アリエス様?」
「……いいえ、なんでもないわ。夜も遅いし、今日はもう休みなさい」
「いえ……もう少しだけ……」
「……もう少しだけよ」
もうかなり遅い時間なので、休むように伝えるが、もう少しだけと言って止まるレオナを優しく了承した。
*
『ーーーおい、いつまで寝てるつもりだ?』
……うるさい。ちょっと考え事しているだけだ。
『なにを考えているんだ?』
……翼さんとエレナさんのこと……。
あの二人は、初めてコレットやコレットのお父さんにお母さん、それにクロスフォードさんのような、警戒して、いざという時は身を守ろう……って、ならなかったんだよな……。
『だったらなぜ最初に攻撃を仕掛けた?』
僕が狙ったのは、今の君によく似ているあの黄色い心獣の方。
彼は間違いなく十二星宮だった。それはこの世界で彼らに1番触れている僕だからわかる。纏っている雰囲気がほとんど同じだったから……。
でも……その雰囲気の中にも優しさのようなものもあった。
あの雰囲気はコレットのお母さんの雰囲気によく似ていたと思う……。
それから……よく知っている誰かにも……。
『……そう思うのなら、今頭によぎった本人に話を聞くんだな』
*
「……っ。………ここは」
「っ! 目を覚ましたのね。よかったわ……」
目を覚ますと、よく見覚えのある医務室の天井だった。
僕の側にはこの医務室の先生? であるアリエス様が安堵した表情をしていた。
「あ、アリエス様……。そうか、戻ってこれたのか……」
少しだけ、この場所に戻ってきたことを残念に思った。
「……目を覚ましたところで悪いのだけれど……検査をさせてもらうわね」
「は、はい。お願いします」
そういってアリエス様は怪我以外に悪いところがないか、調べ出した。
しばらく検査をし、怪我以外に目立った症状がなかったことを確認し、ふぅ……息を漏らした。
「……ありがとう。怪我以外には目立った傷がなくて、安心したわ」
「そうですか」
「……」
「……?」
アリエス様から強い視線を感じる……。
どうしたのだろうか?
「……デルタ=Ⅳ」
「……あ、自分の名前でしたね、すみません……」
いつも『ソラ』って呼ばれてたから本当に忘れてた……。
気をつけなければ……。
「……」
「それで? 何かご用ですか?」
「……。デルタ。あなた、レオナを連れて、ここから逃げ出しなさい」
「……は?」
突然のことに一瞬なにをいっているのか理解できなかった。
「これは命令です。あの子を連れて逃げなさい。逃げ出すための手伝いならいくらでも手を、」
「ちょ、ちょっと待ってください! いきなりなぜそんなことを? 突然そんなことを言われたって、「はいわかりました」なって言って従うことなってできません!
理由を教えてください!」
「……」
僕の言葉に少し悩み、意を決したように語り出した。
「……あなたには、自分の意思がある」
「?」
「私達は最初、我が神を復活させることだけを考えて二人を作りました。一人は私達の力に耐えうるものを。もう一人は我らが母が復活される体を……。
そのために、二人には意思のない、なにも考えない。ただ人形を作り出し、私達の手となり脚となるものとして作り上げました。
しかし、あなた達と過ごしていくうちに、あなた達自身にも自分の考えや意思を持ち、思いが目覚めた。
そんなあなた達を、私は道具としてみることなんてできない」
「……」
「これは私のわがまま。あなた達に人として、幸せな日々を送って欲しい。どんなに苦労しても、互いに笑いあって、笑顔あふれる日々を過ごして欲しい。そう思ってる」
「……」
……そんな気はしていた。アリエス様は僕達にとって誰よりも身近な十二星宮だ。
無茶をして怪我をしても一緒にいてくれた。僕やエレナの話し相手や遊び相手なってくれた。任務から帰ってきた時、誰よりも僕やエレナの帰りを喜んでくれたのは、アリエス様だった。
僕はこの施設で一番好きな場所はエレナやアリエス様が近くにいるこの場所だ。すごく安心して、この場所での心の拠り所のようにいつも思っている。
そんなアリエス様の本音をこんな風に聞いたのは初めてだった。
すごく嬉しかった。僕達のことをすごく大切に思っていることを肌で実感した。
本来ならその頼みを聞き入れてあげたい。従ってあげたい……。
「だから!」
でも……。
「ごめんなさい」
「え……?」
「それは、できません!」
アリエス様の命令……いや、これは頼みに近いものを僕は断った。
「ど、どうして……」
「僕には、やらなければならないことがあります。そこから逃げることはできません。
その役目を果たし、帰らなければなりませんから!」
「……。………そう。あなたには、もう居場所があるのね……」
僕の言葉を聞いてとても悲しそうな表情を浮かべた。
「……すみません」
「いえ、いいのよ。あなたにもあなたの居場所がある。それがわかっただけでも嬉しいわ……。
教えてちょうだい、これからどうするつもりなのか」
アリエス様の表情は覚悟を決めた顔だった。なら、僕はそれに答えるだけ。
「……詳しい方法は考えていません。
ただあなた達の母がこの体を支配する前に、マスター・リブラを利用して、力をつけていこうと思っています」
「つまり、私達も倒し、そして我らが母をおも倒す、ということでいいのね?」
「……最初は、そう思っていました」
「思っていた?」
「……あの人達の姿を見て、もしかすると、十二星宮の人達ももしかすると共存ができるのではないかと、考えるようになりました……」
「あの人達!? 答えて! そのものは名前なの!?」
翼さんとあの心獣のことを思い出しながらその可能性があるのではと思っているとアリエス様が僕の肩を掴みかかり、そのものが何者なのか尋ねてきた。
「え? ご、ごめんなさい。こちらも事情がありますから、お話しすることは……」
「……なら、私はあなたのサポートに付くわ」
「さ、さぽーと?」
「あなたの手助けをするってこと。倒す以外の方法があるって考えているんでしょ? 私も協力するわ」
「え、いや、て、敵ですよ、自分……」
「共存ができるって思っているのよね? なら私も、あなたの考えに協力するわ。それで作戦を一緒に考えて信頼に足ると思うのなら、その人のことを教えてちょうだい」
「……わかりました。信頼はすごくしていますが、あなたの後ろが僕の敵なので、しばらくは様子を見させてください」
「わかりました」
僕が了承し、アリエス様が頷いたので右手を前に出した。差し出した意味がわかり、アリエス様は僕の握手に応じた。
「……あ! あと、僕……いや、これからは一緒に敵を倒していくんだから、強めの一人称を使って威張って見せるようにしなきゃ……。
えっと……俺! 俺の名前は『ソラ』です! 決して、『デルタ=Ⅳ』なんて呼ばないでください!」
「……。クスッ。ええ、わかったわ。二人っきりの時はそう呼ばせてもらうわね、ソラ」
こうして、僕とアリエス様は互いに力を合わせることになった。
次回は11月17日に投稿します。




