安心と涙
ソラが力一杯込めた拳を振り放つと、とても巨大な魔力の光の球となって撃ち放たれた。
翼はそれを目の前にして、口上を述べる。
「夜空浮かぶ、黄金の獅子よ! 第5の輝きを放ち、全てを打ち砕く一撃とならん!」
拳を強く握りしめ、左足を前へ突き出し、後ろは大きく右腕を振り上げ、先程とは比べ物にならないほどの魔力を拳に込める。
(俺の全身全霊の一撃だ! 受けてみろ!)
全ての力を込めた自身の右腕を目の前ある光に向けて黄金に輝く右拳の魔力を撃ち放った。
「『ゴールドストライク・レオ』!」
撃ち放った黄金の魔力は光輝く百獣の王の姿なり、大地をかけ、巨大な魔力の塊に向かって走り出した。
百獣の王の姿をした黄金の魔力は正面から襲いかかって来る魔力の塊に向けて大地を強く蹴って、飛びついた!
百獣の王が飛びついた瞬間、魔力の塊は弾けるように霧散し、消滅した。
塊が霧散したのを確認すると、すぐにそれを放ってきた男の子、ソラを方を翼は見た。
ソラは拳を突き出し、魔力を放った状態で停止しており、顔や体、腕や脚から大量の血が流れ出ており、ソラを中心に血だまりを作っていた。
目には完全に光が失われており、意識がないことはすぐにわかった。
そんな意識の無いソラに向けて百獣の王は力強く大地を駆け出した。
巨大な魔力の塊がなくなった以上、翼の放った百獣の王はその勢いを保ったまま、敵に向けてただ駆け抜けていく。
敵とはソラのことであり、すでに意識が無くなり、まともに戦える状態ではなかった。
それに気づいた翼は急いで、意識の無いソラに向けて駆け出そうとしたが、直前に放った百獣の王に全ての力を注いでしまったため、脚に力が入らず態勢を崩し、手を地面につけてすぐに駆け出す事が出来なかった。
「蓮! 待て!」
そう叫ぶものの、もう既にソラに向けて飛び上がっていた。
『Guoooo!!!』
黄金の百獣の王が咆哮をあげながら、前足から力強く襲いかかった。
「『アクエリアス・スフィア』!」
百獣の王が真っ直ぐにソラに飛来し、ソラのいた地点に大きな光とともに大きな爆発を引き起こした。
その爆発により、大きな砂埃が上がり、ソラの姿を隠す。翼重くなった体に鞭打って起き上がり、砂埃が落ち着くのをじっと待っていた。
砂埃がどんどんと風で払われていき、砂埃の中が少しずつ払われていった。
砂埃が払われるとその中央にはふわふわと浮かぶ水色の球体が存在していた。
「あれは……アクアの『アクエリアス・スフィア』」
翼は目の前に浮かぶ水色の球体を知っていた。
それは自分が最も愛している最愛の妻が使用する1番の得意技であり、先程放った『ゴールドストライク・レオ』と同等の力を持った水の防御技であった。
水の球体の中には先程まで戦っていたソラが球体の中央に浮かんでいた。
「ごめんなさい、翼くん……」
横からそんな声が翼の耳に届き、そちらの方に視線を向けるとそこにはここに来る前に涙を流していた翼の妻、エレナであった。
「エレナ……どうして……」
「ごめんなさい、翼くん。
この子は……この子はだけは……」
そう言って涙を流すエレナ。翼はそんなエレナの姿に言葉を失い、戦っていた戦意を消失してしまった……。
*
フサッ……。
誰だろう……。
誰かが頭を触ってる……。
ポカポカする……。クロスフォードさんの時の感じに似てる……。
暖かい………。
「……っん……」
「……目を覚ました?」
頭に感じた暖かさによって目を覚ますと、僕を覗き込むようにして見下ろしているとても綺麗な女性が微笑みかけてきた。
「……ここは」
「私のお家よ。小さな戦士さん」
「……。……っ!」
「あ、ダメよ、まだ動いちゃ。体の傷は塞いでいても、まだ壊れた痛みがなくなったわけじゃないわ」
ベットに横になっている事気付いた僕は体を起こそうと体に力を入れると、身体中に激痛が走った。
体を起こす事が出来ず、ばたりとベットに横たわる。それを見た女性は体に触れたいようにしながら、少しだけシワが寄った毛布をかけ直した。
「……あの、あなたは?」
「私? 私は『エレナ』。『大空 エレナ』。あなたの体を魔法で治療したのは、私。亭主はあまり、魔法が得意ではないから」
「……そうなんですか」
説明を交えながら微笑みかけてくるエレナさんに僕はなぜすごく安心して、ほっと胸をなでおろした。
「それにしても、翼くんに戦いを挑むなんて、すごい無茶をしたものね」
「! つばさ……くん?」
「ええ。彼は私の亭主で、『レオーネ』と呼ばれる十二星宮の人の力を貸してもらっている」
「っ!」
「と、同時に、十二星宮は私達の敵でもある」
十二星宮の使い手であるあの男の人のことを知り、急いで距離を撮ろうと、体の痛みをぐっと堪え、起き上がろうとした時、エレナさんが続けた言葉に動きを止めた。
「敵って……どうしてですか?」
「少なからず、長い因縁とそして……怒り」
「……」
「……子供が私達の事情を気にしなくていいのよ。今は、ゆっくりと休みなさい」
「はい……。あ、あの、」
「エレナ、入るぞ……お、起きたか」
「あ、あなたは……」
「俺は『大空 翼』だ。十二星宮を敵だというのなら、俺は君の味方だよ」
僕はあることを訪ねようと、エレナさんに声をかけようとした時、部屋に入ってきた人物によって、それが遮られた。
入ってきた人物は、あの時の黄金騎士……大空 翼さんだった。この人も、エレナさんが言っていたように、十二星宮の敵なのだろうか……。
「……」
「そう警戒するな。お前が守ろうとしていたあの少年は、何事なく無事だ」
「!? ……すみません。ありがとうございます」
「なに。気にするな」
「……」
彼のことを言われた瞬間、人質に取られたと警戒したが、彼の言葉の自分自身が簡単に受け入れる事が出来た。
どうしてなのか理由がわからず、疑問符を浮かべていると、
「それで、君はどうしてあんなことをしたんだ?」
「説明して……くれないかしら?」
「……わかりました。僕がお応えできることでいいのでしたら……」
「ええ……。あなたのことを、教えてちょうだい」
意識を失う前のこともあり、とても真剣な表情の2人に、応えないという考えは浮かばなかった。
僕は僕自身が記憶している出来事をありのまま話した
*
「……そうか」
「……」
ソラが自身の出来事を説明すると、翼は納得したような声を漏らし、エレナはうっすらと目尻に涙を浮かべていた。
「……大変だったのね、ソラくん」
「いいえ……」
「好きな女の子にキスとは、やるな〜」
「……すき?」
「……。これからは、時間があるときに勉強をしてみるのもいいと思うぞ」
「はあ……」
自身が言った「好き」という言葉に反応して首を傾けるソラを見て、わからない相手にどう説明すれよいのかわからず、深く考えてみることを翼は進めた。
「それで? これからどうするんだ?」
「……もしよろしければ、彼をここに預けていいですか?
あなた達なら、きっとあいつらから彼を守ることが出来ると思いますから」
「構わない。ただこちらとしては、こちらなりの手順を踏ませてもらうが……」
「引き取ってもらえるなら、あとはそちらにお任せします。僕はそこら辺はよくわからないので……」
「任せてくれ」
「君は、どうするの?」
「このまま、あいつらのところに戻ります。この体の状態を利用して、得た情報を使ってあいつらを騙します。それで少しだけでも時間が稼げると思うので……」
「無茶よ! そんな体で!」
「無茶は承知です。でも、あいつらの目を誤魔化すためにも、行かないと……」
痛む身体を抑えながら、ベッドから起き上がり、部屋の外へと歩き出した。
外出て、空を見上げると既に太陽が昇り始めており、夜が明け始めていた。
「……頼む、ソルガ。僕を元の場所に戻してくれ」
『いいのか?』
「うん。おねが、」
「ソラくん!」
ソラの内側にいるソルガにお願いして元の場所に戻してもらうとしたそのとき、背後からソラを呼び止める声がした。
振り返るとそこには翼とエレナがじっとソラを見つめていた。
ゆっくりとソラの側に近づくと、地面に膝をつきながら、
「……あなたを、抱きしめていい?」
そう、尋ねてきた。
「……いいですよ」
特に断る理由もなかったソラは抵抗をすることなく、両腕を広げたエレナに強く抱きしめられた。
その力はとても強く少しだけ苦しくも感じたが、とても暖かく感じた。
そんなソラとエレナの側に近づいた翼は抱きしめているエレナと抱かれているソラをいっぺんに腕の内側は包み込んだ。
ソラは抵抗なくエレナ達に抱かれ、満足して離れた二人に対して、
「それじゃあ、彼をお願いします」
「ええ。あなたも気をつけて」
「……行ってきます」
ソラがそう口にすると、突然白い光の球体が現れ、その球体にソラは包まれた。
ソラは球体の中から二人を見つめながら、なぜか別れたくないという思いが溢れ出そうな気持ちをぐっと堪えて、空の彼方へ飛び去っていった。
ソラはしばらく下を見続けたあと、疲労や痛みによって、再び意識を落としていった……。
ソラが飛び去っていくのを見送った二人は互いに強く抱きしめ合いながら、嬉しさのあまり、涙を流していた。
次回は11月7日に投稿します。




