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空っぽの武装魔道士δ  作者: 火琉羅
中央国協同魔法学校
229/246

黄金の輝きと……

 翼が『ウィザード・リボルバー』のは引き金を引くと、魔法の弾丸が空に向けて打ち上がり、それを追うように蓮が光の球となり飛び上がった。


 弾丸の軌道を螺旋状に追いかける光の球。

 そんな光の球が打ち上げた弾丸と重なると、五つの光の飛来物となって真っ直ぐに翼の体に飛来した。


 光は翼の腕に激突すると、光の球がゲートのようなものを作り、中から黄金鎧が身に纏われた。

 そして光の球が、次々と翼に飛来されていき、両腕、両足、そして体に激突した。


 腕や脚、体を守る全ての金属が黄金で纏われており、その下に着ているぴったりとした黒いタイツや背中のマントがより黄金を引き立たせる。

 背中をなびかせる黒いマントには獅子座の模様が浮かび、そして後ろ首あたりには黄金の獅子のたてがみが覆い尽くしいた。


獅子王の黄金鎧(ゴルド・レーベ)。黄金の一撃、我が心! 受けてみよ!」


 翼が黄金の鎧を身に纏い、戦闘の準備が整った。


 それを見ていたソラは、突然体に鎧が現れたことに驚きつつも、魔力がそれほど感じられないことで、そんなに対したものではないのでは、と思っていた。


 だがあの形態にいち早く反応したのはソラの中にいるソルガであるであった。


『ソラ! 気を引き締めろ!』

「ソルガ?」

『あれはお前が使っている偽物とは違う! 完全な魔装!

 それも()()()()()()()()()()を持っている!』

「第一と第二? なにそれ?」

心獣(しんじゅう)の力を全て引き出すことができる魔装を『第一魔装』、自身に適合する心獣となり得るものから力を借りて引き出す力を『第二魔装』と呼ばれている。

 それ二つとは別に、別のものから力を借りること、それが『第三魔装』だ。

 これら三つは第一、第二、第三と力が弱まっていくが、ごく稀に、第二魔装の力を使いながら第一と同等、もしくはそれ以上の力を引き出す者達がいる。

 それは、心獣の力と適合するだけでなく、その人間が適合する力と全く同じ質、力を持っている場合がある。

 それらの魔装の力は俺や十二星宮のような神獣(しんじゅう)にあたるものと適合するものしか発現しない魔装の大元となった原初の魔装、『第零魔装』だ』

「第零魔装……。ソルガやフィアーラの前の宿主が君達を使う時はその魔装を使っていたの?」

『……不本意ながら、その通りだ。

 俺達の魔装の力はそいつの力に()()()()()()()()作られた心獣だからな』

「そうか……。嫌なことを思い出させて悪かったな」

「話は済んだかな? ……そろそろ始めさせてもらうよ」


 臨戦態勢を取っていた翼は右腕をあげ拳を作ると、力を込め、魔力をその拳一点に込める。

 どんどんと魔力が跳ね上がっていき、右拳が黄金の輝きを放ち始めた。


「……。確かに。あれにあたると体が一瞬で消滅するかもな」

『呑気に構えるな』

「呑気じゃねえ。分析だ。突破方が見えない。

 とりあえず、牛鬼(ぎゅうき)とフワちゃんで防御に力を使いながらカウンターで攻めるしかないか」


 強い魔力を体に纏わせ、戦闘の態勢を取りながら、彼が放っている魔力に気圧されないように気を引き締める。


(隙はない。実力差や実践経験は僕よりも上だ。考えていたら、一瞬でやられる!

 考えるな。全神経を纏わせている『牛鬼(ぎゅうき)』に集中させろ! それが出来たら、今の彼に並べられる!)


 自分のすべての意識を『牛鬼』に回し、その領域に侵入してきたとき、それに体が反応し、攻撃を回避し、反撃をする。それがソラが唯一の翼に攻撃をするチャンスであった。


 だが、相手がそんなことをするのを待ってくれるはずもなく、地面を強く蹴っただけで、距離のあったソラの目の前にまで瞬間的に移動し拳を振り下ろしていた。


 魔力を解き放っているソラの牛鬼の壁をバチバチと音立てながら軽々と打ち砕き、黄金に輝く拳が襲い掛かろうとしていた。

 ソラはその拳に一瞬反応することができなかったが、拳が目の前にまで来ると、それを防ぐために腕を盾にし、さらにその間にクッション・ウォールを部分的に発動させ、拳と腕の間に作り出し、体を低くして、振り下ろされた拳を頭上を越えさせてダメージを最小限に抑えた。


 しかし、すべての意識が拳に向けていたので、それとは反対の脚にまったく完全に意識の外にあった。

 拳を防いだことに安堵し、少しだけ気を抜いたとき、翼の膝蹴りがソラのみぞおちに突き刺さった。


「……ッ! カッ!?」


 安堵したことにほとんど無防備な腹に容赦なく突き刺さり、あまりの痛みに呼吸が出来なくなるほど衝撃を受けて解き放っていた魔力のコントロールが不安定になり、溢れ出ていた魔力が消え、完全に無防備な状態となった。


 腹を抑えながら、膝から崩れ落ち、地面の上をのたうち回ろうとした時、胸ぐらを掴まれ宙に向けて投げ飛ばされる。


 痛みで身動きの取れないソラは上空に放り投げられ飛ばされつつも、うまく態勢を立て直すことが出来ず、何の抵抗出来ず、ただ落下することしか出来なかった。


 翼はそんなソラを手加減無用で蹴り飛ばされた。


 背後にある木に激突し、その木を真っ二つに叩き折り、山道にある斜面に転げ回り、地面の上に横たわった。

 あちこちの痛みで、中でもみぞおちの痛みが1番苦しく、その部分を抑えながらその場で動くことすらできなかった。


「クッソ……」

『しっかりしろ! 今ここで動かなければ、()()()()狙われる可能性があるんだぞ!』

「……」


 苦しさにのたうち回り顔を歪ませながら、ソルガの言葉を耳にし顔を上げると、そこには先程隠した彼が木に寄りかかりながら眠ていた。


「……やるんだ……。やってやる……。止まってる時間ねえ!」



 *


 ソルガはフィアーラに会いに行く直前、あることをソラに語っていた。


『奴らがやろうとしたことはわかっているだろうが、オヒュカスの復活だ。

 オヒュカスはお前の体を復活のための依り代、もしくは媒体としてこの世界に復活させようしようと目論んだ。

 しかし、それはお前の体が黒い瘴気を取り込んだとき、お前の体が二つに分離するほどの凄まじい拒絶反応を引き起こし、オヒュカスの復活は失敗に終わった。

 もしあいつらがお前らを一つにする方法を知り、お前達を元の一人の人間に戻した時、世界は虚無に包まれる……。

 絶対に囚われるな! 十二星宮から、どんな手を使ってでももう一人のお前自身を守れ!』



 *



「差を詰めれないなら、()()()()()()()()()()()()()()!!

 ソルガ! 死にたくなけれは力貸せ!」


 ソラの声が耳に届いたのかいつもとは比べ物にならない力が奥底から湧き上がってきた。


 この感覚をソラは知っていた。フィアーラと戦った時にあったあの青色のリンゴの力? を一時的に使えた時と同じ感覚に似ていたが、あの時の力よりも安定して力を引き出すことができた。


 どんどんとソルガの力が引き出されていき、その力が今までと比べ物にならないほど、力が溢れ出してきた。

 今までの『(タウロス)』が新たに牛鬼と名前をつけた時のような単純なものではなく、まるで()()()()()()()()()()()()()()()()ほどの圧倒的力……。


 蹴り飛ばした翼もこの場にやってきたが、先程とは比べ物にならないソラの力の膨張に目を疑った。


「この力……やめろ! 死ぬつもりか!」

()()()()! あの子にもう一度会うまで……」


 ソラの脳裏にコレットの笑顔が過った。


「死んで、たまるかぁぁぁああ!!!」


 未だ溢れ出る全ての力を右拳に集約させ、正面にいる翼に向けて全力で撃ち放った。


 そして、撃ち放った直後、ソラの体が突如としてぶちぶちと悲鳴をあげて、まるで袋が弾けたよ体から大量の血が噴き出した。


 体が血が噴き出した時、同時にソラの意識も暗闇中に落ちていった……。

次回は10月31日に投稿します。

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