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空っぽの武装魔道士δ  作者: 火琉羅
中央国協同魔法学校
228/246

対峙

『翼!』

「!」


 翼は蓮の声に振り返ると、そこには小さな少年が森から飛び出して、こちらに向けて突撃して来ていた。

 突撃してくる少年の体には強いオーラのようなものが纏われており、そのオーラが二足歩行で歩く大きな牛の形をしていた。


(牛の形をしたオーラ……強力な上に、魔装の力に酷似している……。それにこの力は虚無の魔力! だが、虚無とはまったく別の力が感じ取れる……どういうことだ?)


 翼は突撃してくる少年を観察し、その力が虚無であることを見破ったが、それ以外の力もあることに気が付き、虚無の力とそれ以外の力を両立しているさせていることを疑問に思った。


 しかし少年は考える余地を与えないほど、素早く突撃し、振り上げた拳を蓮に向けて振り下ろした。


『ッチ! 失せろぉぉお!』


 襲いかかってくる少年を見て、蓮は大きな咆哮とともに体を剥がし輝かせる。

 それを見た少年は、すぐに勢いを殺し、身に纏っていた牛の形をした魔力を消し、両腕をクロスさせ、両足を抱え込むように守りの態勢を取ると、白い綿が少年の体を包み込んだ。


 翼、そして蓮は少年の行動に目を見開いて驚いた。


 輝きが激しく照らされると、綿はそのまま後方へ吹き飛ばされ、地面に落下し、少しだけ跳ねると、その綿から再び少年が現れた。


(完全に読まれた。蓮のあの攻撃を)


 蓮の攻撃はあるものを模倣した技が多い。今の技も模倣技の一つ。それを完全に読み切り、防いだ上に距離取りながら立て直された。


 まるで、()()()()()()()()()()()()()……。


 二人は綿から出てきた少年に目を向ける。

 少年は安堵の息を漏らしていた。




「……今のは危なかった。まさかお前の同じ技……といってもかなり()()けど、似たような技を使える奴がいるなんてな」

『同じ技? お前の目は節穴か? あんなのは、俺の技の劣化版だ。

 威力が無ければ、力もない。その上破壊の力が含まれてもいないあの力に大した能力があるわけないだろう』

「だから、似たような技って言ったんだろうが。お前に比べて全然威力が違うってのは、僕が1番わかってる」


 以前、ソルガの攻撃をこの身で受けたソラは今の力がどういったものなのか、どのような力であるのかを理解していた為、輝き出した瞬間にすぐに防御策に出た。


 一度見た技であることもあり、光を完全に遮断すれば、こちら受ける痛みはないということはわかっていたので、すぐにフワちゃんのウォール・クッションを体全体に覆い、光を防いだ。


「でも、今のでわかったけど、こっちから力はあいつらに全然届いていないな」


 そう言って軽く腕をさする。

 さする腕は軽く焼けており、ウォール・クッションで防いだものの、全ての光を防げだわけではなく、一部が壁を貫き、ダメージを負ってしまった。


「これは……こっちの戦いかも考えないとな……」

『……おい』


 先程のことを計算に入れ、どのように倒すか思考していると、突如、獣の方がソラに向けて話しかけてきた。


『お前、今の技を知っていたな』

「……知ってる。今のはあいつの技の真似した技だろう? 威力は弱かったけど、よく知ってるよ」

『……ほう。それほどの実力者が、何の用だ?』

「!? ……わからないのか?」

『? どうし、』

「お前らは俺の敵だ! お前らさえいなければ! ……いや、きっと僕もいなかった、その可能性はもっと高まったんだ」

「? ……君は一体……」

「全員ぶっ倒す。お前ら十二星宮も、オヒュカスも、全員まとめて!」

『! なぜあの者の名を知っている!』

「お前には関係のない話だ!」


 ソラは地面を蹴って獣に襲いかかる。『(タウロス)』を使い拳を何度も殴りつけ、何度も蹴りを放つものの、獣はそれらをひらりとかわし、ソラから距離を取りながら側にいる男の元へ下がった。


 ソラは獣が男の元にまで下がって、そこで男の存在を思い出し、攻撃をやめて立ち尽くした。


 静かに互いを向き合う二人。先に言葉を放ったのは、ソラであった。


「……お兄さん、そいつから離れてください。そいつは、危険です」

「お兄さんか……。これでも、かなりの年なんだがな」

「私は、自分以外の男は見た目はともかく、ご高齢の方しか見たことがないので、あなたのような人はお兄さんとしか思えないんです」

「それはどうもありがとう。こいつ、蓮は俺の相棒でね。蓮は人間を守るいい奴なんだ。だから、拳を降ろしてくれないか?」

「信じられない。十二星宮は人間を道具としか思っていない連中だ。()()()()()()()()()()()()()()僕は、誰よりもわかってる!」

「!? 君は!」

「もう話すことはない! 『(タウロス)』! お前にもちゃんと名前をつけてやるから、もうちょっと力出せ! 『牛鬼(ぎゅうき)』!」


 ソラは自身に纏わせていた『(タウロス)』の力がいつもよりも力が弱いことに気がつき、ここは落下する直前のことを思いました。


『感情を持ち始め、名前がないことが気に入らない』


 であるならば、この力にも名前をつけよう。簡単で分かりやす、そして力をより引き出しやすいように。


 新たに『牛鬼(ぎゅうき)』と名前をつけ、いつものように『(タウロス)』を発動させると、いつも以上の力と魔力が体の奥底から噴き出してきた。


 現金な奴らだと、ソラは思わず笑みをこぼした。


「さあ! 行くぜ!」




「……魔装の真似事でも、そこまでくれば立派な魔法だな」


 翼は蓮の体を撫でながら、懐からあるものを取り出し、それを体から凄まじいほどの魔力を張っている少年に見せつけた。


「『クリアプレート』。人によって様々な形へと変化する魔装を記録、内包し、発動する簡易的にするのもの」

「?」

「『ウィザード・リボルバー』。魔力を強力な弾丸として打ち出す魔道具」

「だから、それがなんだって言うんですか?」

「つまりは……こういうことだよ」


 取り出した二つを見せつけた翼は少年にその意味を教えるかのように動作を開始。


 ウィザード・リボルバーの中心を持ち、パキンッ! 二つに折った。

 少年は目を見開いて、驚いた様子だったが、これは仕様である。


 折ったリボルバーのバレル部分を覗くと、そこには何かを挿入できそうな挿入口が二つあった。


 翼はその挿入口の一つに取り出したクリアプレートを差し込み、ガチャ! と、元に戻した。


「まあこれ言う必要も無いから、ただ単に気合の入れようのようなもんだから、あんまり気にしないでくれ……」


 そう口ずさむと翼は手に持ったリボルバーの銃口を空に向けて掲げた。


「……変身ッ!」


 翼は手に持ったリボルバーの引き金を引いた!

次回は10月24日に投稿します。

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