魔装武具と怨みの念
朱雀との対話から月日が流れ、僕は子供達の年で言う六歳になった。
それが僕らのもうひとつの始まりであり、のちの未来の計画の最も重要な鍵となるだった……。
*
『そうだ。思い浮かべたイメージを魔力を使って形にする。心獣がいないお前には、お前個人の特別な力が必要だ』
(うん、わかってる。
形は……とりあえず、移動優先で馬車とかでいいかな……)
ソラはここ最近、ソルガの指示の下、とある事のために特訓? のようなものを行なっていた。
それは魔装で使用される武器、『魔装武具』の制作である。
魔装武具とは、魔装で使用される使用者オリジナルの特別な武器。人によって性質や能力が異なり、多種多様の力を持っている。
しかし本来であるならば、ソルガの言う通り、心獣とその主人であるその人の心が重なった時、心獣がその人に最も適切な武器に変化し、形となる。
だがソラはにはそもそも心獣がいない。
いや、ソルガがソラの心獣の代理を務めているが、本来の心獣ではない。そもそもソラの自身の心獣は自我が生まれる前に消滅させられた為、もう存在しないのだ。
そこで考えられたのが、自身の魔力を使って魔装武具を作るというものだった。
ソラはこれまでの生きてきた時間の中で、虚無の力を用いた四種類の力を作り出した。それもとある一つ、『牛』に至ってはほとんど魔装と呼べるほどの高い完成度となっており、それを少しだけ弄れば、魔装と言っても支障ない程までになっていた。
なのでソルガはそれをソラに提案すると、ソラは朱雀との戦いの時に現れた青いリンゴ。そのことが頭を過ぎった。
(時計の剣……もしかしたら、魔装武具でならそれが作れるかも)
そう思って魔装武具の制作を開始した。
最初は頭の中にあるあの時計のイメージを作り、触感、重さ、冷たさなどを思い浮かべ、それに魔力を通して形にしようとした。
結果を言えばそれは失敗した。
作り出したイメージを形付けようと魔力を注いだが、どういうわけか、異常に魔力を消費する結果となり、形付けるどころから魔力切れを起こした。
その原因が全くわかっておらず、渋々時計の剣の魔装武具の制作は断念。
代わりとして一から魔装武具をソルガの指南を受けながら制作を開始した。
そして現在、ソラの頭の中には以前見たことがあった馬車のことを思い浮かべながら形を作っていた。それ以外のものをあまり知らないということが恥ずかったが、一番最初に思い浮かんだ物が馬車だったこと。武器や防具なんかは、魔力を使えばそれを簡単に越えるできる力を身につけていることから、今まであまり必要性を感じなかったことも相まって、武器らしくない道具が一番最初の魔装武具の制作対象となった。
ソラはかなり意識を集中させ、イメージないの馬車に魔力を注ぎ、形を作っていく。
そして長い時間をかけてようやく完成まで残り一、二割と言ったところで、
「デルタ=Ⅳ。すぐに修練室へ来い」
と、呼び出された。
ソラとしては決して従いたくはない。しかし、それで妙に勘付かれて、コレットやコレットのお父さんとお母さん、そして王都のリボーンで出会ったクロスフォードが危険な目に合うことだけは避けたかった。
ソラは渋々その呼び出しに従って、修練室へ向かった。
*
修練室とは、修練室とは名ばかりの実験場であった。
真っ白な部屋で行われるのは薬品の投与や戦闘データを得る為の魔物との殺し合い。
それが基本だった。
「それでは、最後の実験を行う」
その言葉か聞こえ、僕は嫌な予感がした。
その瞬間、僕の手足は突然壁からから現れた鎖が巻きつけられ、身動きが取れなくなった。抵抗してみるも、その鎖は目の前にいるマスターの考案なのか、虚無の力が纏われており、魔力や同種の虚無の力を使用してみると、自分よりも強い虚無の力が使用されており、僕の力をあっという間に飲み込んでいった。
「……これは?」
「お前にはもう必要性がなくなったのだ。虚無の魔装為の制作実験も全て終え、あと残るは貴様を我らが王の依り代にすることだけだ」
それを聞いた僕はさらに抵抗をしようとしたが、鎖は決して外れることはなかった。
そんなことをしている間に、この修練室と呼ばれる実験場黒い瘴気が漂い始める。
黒い瘴気はあっという間に部屋中を充満させ、俺の身体包み込み、そして黒い瘴気が僕の口の中に無理矢理侵入し、身体の内側に入り込んできた。
すぐに抵抗をしようとしたが、いきなり意識が保てなくなり始め、感覚が少しずつ途切れ始める。
『……憎い』
突然そんな声が聞こえた。
その声は次第に大きくなり始め、はっきりと聞こえ始めてきた。
『憎い。憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎いにくいにくいにくいにくいにくいにくいにくいにくいにくいにくいにくいにくいにくいにくいニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイ!!!
死ね! しね! シネ!』
そんな声がひたすら頭の中を響いていた。
『『オヒュカス』と呼ばれた神がこの世界に君臨していた頃の話。
光の中から現れた三体の神獣を従え、長い年月を経てそのものを打ち倒すことに成功した』
ふとマスターの「我らが王」という言葉を聞いて、朱雀から聞いたそんな話を思い出した。
(王様とか神様と言われていても、やっぱり、この世界に生きている人なんだ……)
純粋に、ただ何も考えずに、そう思った。
他人を憎む。それだけのことをちゃんとした思いがあって、意識がないと思えないもんね……。
「……でもごめん」
この体はあげられない。この心はあげられない。
僕には、守らなければならない約束が、誓いがある!
だから、この体を君に渡すわけには、
「いかないんだぁぁぁぁあ!!!」
そんな僕の思いの呼応するように突然体が輝きを放ち始め、黒い瘴気がその輝きを浴びて払われ始めた。
やがて身体から放たれている輝きが部屋中を包み込むと、この部屋にあったものや壁に亀裂が走る。そして輝きを浴び続けた部屋はさらに亀裂が走り、部屋が完全に崩れ去った。
そんな時の僕は鎖に繋がられて身動きが取れなかったが、身体の中に入り込んだ黒い瘴気を取り出そうとして、気持ちに呼応して輝き始めたことがわかっていたので、さらに思いを込めて輝きを増大化させた。
そして放たれる輝きに耐えることが出来なくなった黒い瘴気は僕の身体分離した。
それと同時になぜが僕も背後の方へ吹き飛ばされた。
崩れていく瓦礫に背中をぶつける僕。
あたりにあった瘴気も完全になくなっており、一安心と思ったその時、理解できないものを目にした。
目の前にはどういうわけか先程まではいなかった珍妙な生物がいた。
その生物は、完全に鉄の塊だと言っても支障はないのだが、その生物は完全に呼吸をしており、生きていた。
そしてその生物は馬の形をしたり、今の僕よりも何倍も大きな姿をしていた。
そんな馬は、僕が先程までいた鎖で繋がれていた部分をこちらを睨みつけながらぐるぐると回っていた。
気になって僕は体を起こし、引きずりながらその場に着くと、目が飛び出るほど衝撃的なものを目にした。
そこにいたのはなんと……僕とまったく同じ姿をした僕であった!
次回の9月22日に投稿します。




