炎に尋ねて
数が癒され、フェニクスとの戦いが終わり、先程の位置へと戻ってきた。
階段の一番上の段に着地すると、意外なことにクロスフォードがソラの体を強く抱きしめてきた。
「ク、クロスフォードさん!? い、一体何を……」
「……君みたいな子供が、こんな無茶をするものではない」
「……」
「炎に飲まれた時、心臓が止まるかと思った……」
「……ごめんなさい」
ソラはクロスフォードに抱きしめられながら謝罪をした。初対面でこんなに心配されるなんて思っていなかったということと、自分のことをこんなにも心配してくれたことがすごく嬉しくて、どのように反応していいのかわからず、正直に謝罪をした。
ソラが正直に謝罪をすると、クロスフォードは少しだけ力を弱め、頭を押し付けている手を離し、ソラの顔を覗き込むと、ソラは恥ずかしさで顔を赤くし、クロスフォードから顔を晒した。
それを見たクロスフォードは嬉しそうにソラの頭を撫でた。初めてそんなことをされ、驚いてあわわと慌てるのであった。
『継承者よ』
そんなことをしていると、ソラの背後から先程まで戦っていたフェニクスが語りかけてきた。
ソラはフェニクスの声を聞き、顔を赤くして慌てていた表情を硬くして、意識を集中させる。
「……すまない。お前が静かに眠っていたところを無理矢理起こしてしまって」
『それ対する事情。それを語っていただけるのでしたら』
「わかりました。僕個人としての目的はお話しいたします」
そう言ってソラはクロスフォードの体に触れ、少しだけ振り返る。
クロスフォードはソラから視線を離さなかったが、ソラが自分を見上げ、視線を重ね、微笑んでくる姿を見てクロスフォードはソラを抑えていた手を離した。ソラは笑顔を作り、ゆっくりとクロスフォードから離れ、フェニクスの方へと振り向いた。
『して。あなたの目的とは、一体なんなのですか?』
「……本当ならば、あなたに戦いを挑む必要はありませんでした。ですが、自分の力がどこまでか、己自身で知っておきたかった。まずはそのことについての謝罪を。
申し訳ございませんでした」
『いいえ。あなたは最初から力量を測るということを言っていました。それを受け入れた上で私もあなたに挑みました。
果実の力を使いこなすことができれば、確実に私と同様の力を持つものであれば、打ち倒すことができるでしょう』
「ありがたき言葉です。それではもう一つの本題……あなたにお尋ねします。一つ目は、今から語る者たちについて。もう一つは、私自身についてです」
『私自身?』
フェニクスはソラの言葉に首を傾ける。ソラはそれを無視して言葉を続ける。
「私が目を覚ました時、私の目の前には名も知らない男がいました。そのものは私に言った。「我らが王の依り代」と。彼らは自らを『十二星宮』と名乗り、十人のものが私の依り代としての成長を手助けしています。
彼らは一体何者なのですか?」
ソラがそう尋ねると、フェニクスは少しだけ黙り、空を見上げた。
『……十二星宮とは、そもそも一体の神であった。
今からおよそ九百年よりも遙か昔。この世界に未だ名前が無かった時代。存在そのものがこの世の全てを消滅させる言われた唯一無二の存在、『オヒュカス』と呼ばれた神がこの世界に君臨していた頃の話。
光の中から現れた三体の神獣を従え、長い年月を経てそのものを打ち倒すことに成功した。
しかし、オヒュカスは自らの力を十二の力にわけ、自らの肉体を空の彼方へと送り、眠りについた。
その十二の力こそが十二星宮そのものなのだ』
「……そうですか。まさか、この世界に誰も記されていない神が存在するとは……」
『しかし……かのものの復活は一度失敗しているはずです』
「へ?」
『それこそ、およそ九百年前。『次元の果実』を用いた復活の儀式。一人の少女を無理矢理依り代にしようとして、十二星宮内で対立が起き、そのリーダーであった『レオーネ』、そして『アクエリアス』が復活の儀式を行おうとした主犯、『カプリコーン』を消し去り、二人は行方知れず。結果、復活は失敗したものだと耳にしています』
「九百年前の裏には、そんな出来事が……」
『正確には、それが世界が一つに融合した本来の目的であったと思います。
最も、多くの者たちはそれを理解できないようでしたが……』
意外な裏事情をソラは知ることとなり、現存している文献だけでは知る由もなかった出来事を聞くことができて、純粋に感動した。
『あなたが目を覚ました時、と申していましたが、それはどういうことなのですか?』
「……わかりません。気付いた時、私は水槽の中に入れられていました。
虚無の力を人工的に扱えるようにしたと、資料には記載されていましたが……」
『……なるほど。
もしかするとあなたは、この世界でかなり有力な力を持った者が持つ遺伝子から作られた『クローン人間』である可能性がありますね』
「クローン?」
『遺伝子組成によって形付けられた人間ということです。彼らはそれだけの技術力を用いて彼らが崇める王の力を受け止めきれる存在を作り出したのでしょう……。
あなたは、あなた自身が何者であるのかを尋ねたいのですか?』
「はい。その通りでございます」
『これは私の予想なのですが……おそらく、あなたに使用された遺伝子とそれ受け止められる入れ物は、王の力を受け止められる存在。
例えば、九百年前に依り代とされかけた者のような、そんな方。そんな方の完全に生きている遺伝子を使用されたのではないかと思います』
「……完全に生きている遺伝子?」
『そうですね……妊娠をしている母体からそれらを無理矢理引き抜いて、それを人間の形となるまで育て上げる……そう言ったところでしょうか……。
流石に情報量が少なすぎて、全て机上の空論。憶測となっていますが……これだけでもあなたが求める答えのヒント程度にはなりました?』
「……はい。今のお話で充分です。
それに、私が知りもしなかった出来事を知ることができ、感謝しております」
『……今あなたについて語った内容は全て憶測です。全てが正しいのかと聞かれれば、わからないというほかありません。私はただ、その可能性もあるということを語っただけです』
「それだけでも充分です。何も知らない、わからないだけよりはずっといい」
『そうですか』
フェニクスはそう言って翼を広げる。
『それでは、私は再び眠りにつきます。
……もし、私に用があるのであれば、今度はあんな訪問の仕方ではなく、普通に語りかけてきなさい。あなたの声ならば、必ずお答えしましょう』
「ありがとうございます……眠りつく前に純粋な疑問なのですか……どうして炎のあなたが水の泉を?」
『……私の体はとても熱いので、体を冷やすために』
「そ、そんな理由だったとは……」
それだけの理由で大量の水が湧き出しているとは……正直迷惑この上ないと思うソラなのであった。
『……ああ、そうそう。一つ言い忘れていました』
「はい、なんでしょうか」
『……私の名前はフェニクスではなく、本来の名前は『朱雀』。しっかりと私名前は伝えておきなさい、白虎』
「!? ……フェ! ……朱雀様。私からも申し上げますが。私の友の名前は『ソルガ』と申します」
『あら。新しい名前をもらったのね。では次に会うときは、私にも、名前を授けてくださいませ』
そう言って翼を広げているフェニクス……朱雀は力強く羽ばたいて、泉の中へと飛び込んで姿を消した。
それを見届けると背後からドンドンッ! 強く扉を叩く音が聞こえてきた。
「国王! クロスフォード様! 返事をしてください!」
「し、しまった!? あれだけ暴れれば、気付かれて当然だよな!
彼らに存在を気付かれる前に行かないと……」
「……ソラよ」
「は、はい?」
扉の向こう側から聞こえてくる声に慌てて逃げ出そうとすると、隣いたクロスフォードが尋ねてきた。
ソラがそちらに体を向けると、クロスフォードは自らの手をソラの頭の上置いた。
「……もし何かあれば、私を尋ねろ。
必ず、力になろう」
「……はい」
ソラは頭の上に置いてあるクロスフォードの手に自分の手を重ね、頷いた。
「……すごい、暖かい……」
「……そうか」
頭の上に置かれた手に自分の手を重ね、無意識に口にしたソラの言葉にクロスフォードは嬉しそうに返事を返した。
「……ではな」
「はい。本当に、お世話になりました」
そして手を離し、別れの言葉を口にすると、ソラは深く頭を下げてお辞儀をした。
それに反応するかのように勢いよく扉が開かれて外にいたものたちが流れ込んできた。
「クロスフォード様! ご無事ですか!?」
兵達がクロスフォードにそう尋ねる。
そこにはすでにクロスフォード一人だけが佇んでいた。
「……大丈夫だ。私は無事だよ。少し、この泉の主人と二人っきりで話し込んでいただけだ」
「泉の主人って……そんなものはただの伝承ですよ」
「ふふ。それもそうだな。では、戻るとしよう。
せっかくだ。私の孫の話でも付き合ってもらおうかな」
「お手柔らかにお願いしますよ」
そう言って、少し興奮気味なクロスフォードは嬉しそうな足取りで、神殿を後にする。
とある一日の誰も知らない小さくな出会い。
クロスフォードにとって、それは本当に夢のような素晴らしい出会いであった。
だがその意味を知るものは誰もいない……。
次回は9月12日に投稿します。




