再生の火
ズバッ!
炎を切り裂き、その中から現れたソラ。
その手には先程までなかった透明だが、しっかりと形のある長い時計の針を握りしめていた。
二つに分かれた炎はゆっくりと落下するソラの背後で一つとなり、再び鳥の姿となった。
ソラは干上がったフロアの床に着地する。
すると手に持っていた透明な時計の分針が突如ひび割れ、パッリーンッ! と砕け散った。
ソラはそんな砕け散った透明な時計の分針を握りしめていた手を寒さに震えながら見つめていた。
(あれは……なんだったんだ……?)
ソラの体が炎に包まれる直前、ソラの目の前に青色のリンゴが現れた。まだ成熟していない緑色の青リンゴではなく、完全なる青いリンゴ。空よりも濃く、海のような青いリンゴ。
そのリンゴを必死に掴んだ時、リンゴはまるでソラの中に吸い込まれるようにして消えていった。
その瞬間、炎に包まれている体の内側から凍てつくような寒さが襲ってきた。
体の表面は纏っている魔力が意味をなさないほど熱量が体を包み込み、体が焼け落ちそうになりながらも体から湧き上がっていくる凍え死にそうなほどの寒さ。それ幾度も幾度も繰り返され、その時間が無限に続くものだと思われたその時、頭の中にあるものが浮かび上がった。
浮かび上がったものは三つのもの。一つ目は時計にある数字が書かれている文字盤、ダイヤル。二つ目は時計において、時間を指す針、時針。それとついを成す三つ目、分針。
それら三つが頭の中に浮かび上がった。
しかし、その浮かび上がったうちの一つ、ダイヤルはソラが認識し、眺めたいるうちにあっという間に砕け散った。
ソラは大きく見開いてそれを眺めていたが、やがて同じように時針もダイヤルひび割れ始め、分針も同様に崩壊を始める。
ソラ慌てて手を伸ばす。
時針のがパッリーンッ! と砕け散ったが、手を伸ばしていた分針にようやく手が届いた。
手が届いた分針を力強く握りしめた時、まるで剣のように扱うイメージが握りしめた分針から流れ込んできた。
ソラはそれに従い、握りしめた分針を力強く、勢いよく横に振るった。
そして、ソラですら予想していなかった、炎の体を持つフェニクスの炎を両断するという出来事が起きたのであった。
自分の手を眺めた後、背後にいるフェニクスに向けて振り返ろうとしたが炎によってできた傷によって焼けるような痛みが体を走りながらも体の中を芯から凍てつくような寒さが包み込み、痛みと寒さによってまともに身動きを取ることができなかった。
ソラは焦った。急いで動けと体に命令するが、身動き一つ取れない。
(後ろにいるんだ、さっさと動け!
こんなところで……こんなところで死なないんだよ!)
そう心で叫びながら必死に動かそうと努力したが、態勢を崩し、前の訛りに倒れてしまうこと以外に体を動かすことができなかった。
そんなソラの視界に小さな火の粉がひらひらと舞い落ちる。
近付いている。それはすぐにわかった。
しかし、横たわっている体を無理矢理這いずってもあの者の焔はいとも容易く自身の体を焼き尽くすだろう。
(チクッショー!!!)
ソラは強く目を瞑り、奥歯をギギリッと噛み締めながら自分の弱さに怒りを覚えつつも、悔しさに表情を歪めた。
そんなソラを尻目にフェニクスは巨大な炎の翼を大きく広げ、地面に横たわるソラの体をその炎で包み込んだ。
表情を歪めたソラだったが、いくら時間が経とうと、さらなる痛みや熱さが襲ってくることがなかった。
それどころか、少しずつ痛みが和らいでいった。
ソラは目を見開いて、空を見上げる。
空を見上げるとそこにはフェニクスの大きく炎の翼を広げ、ドーム状に円を作りながら、ソラの周囲を包み込んでいた。
フェニクスの翼からゆっくり降り注ぐ火の粉がソラの体に触れる。
その火の粉がソラの体に触れると、すぐに火の粉を払おうとしたが、火の粉はソラの体に触れた瞬間、すぐさま鎮火した。
そして火の粉が消え去った部分から先程まであった痛みがスゥーっと消えて無くなった。
ソラは目を疑い、火の粉が触れた部分を見てみると、そこにあった怪我の跡がほとんど治りつつあった。
尚も舞い落ちる火の粉に今度は自分から震える手を伸ばし、触れてみるとその部分から今度は凍りつくような寒さがなくなっていった。
ソラは起きている現象が一体何なのか、理解できず、ただ呆然と眺めていることしかできなかった……。
*
しばらくしてフェニクスが覆っていた翼を広げ、火の粉を舞い散らせながら翼をたたむ。
そんなフェニクスの翼に包み込まれていたボロボロだったソラの体は傷一つ無くなり、体の内側から溢れ出ていた凍てつくような寒さも完全に治っていた……。
「……なぜだ? なぜこんなことを……」
『……私達は、あなたが手にした『次元の果実』によって生まれたあなた達が神と崇める心獣。未成熟ながらも果実の力を引き出した継承者に、施しを与えるのも我らが使命』
ソラはフェニクスのその言葉がとても悔しかったが、それだけの力の差をまざまざと見せつけられ、フェニクスの言葉よりも自分自身の弱さを悔いた。
そんなソラに対して、フェニクスは覗き込むようにして瞳を重ねた。
『……あなた、先程果実を手にした時に、どのような体の変化がありましたか?』
「え? えっと……体が突然凍りつくような寒さが襲ってきました……」
『凍りつく……やはり果実で手にした力は『時間』なのですね』
「……時間?」
フェニクスの言葉にソラは首を傾ける。
『氷とは、水や風、温度という基本的なもの以外に刻まれる時を意味することもあります。
何世代にも渡って凍りつき、時間の中を彷徨い、いつしか本来の流れすらも忘れ去られる。それが氷のもう一つの力……そう言っても過言ではないでしょう。
果実の力を得たあなたには氷の力の他に、発動の際に混ざり合ってしまった炎の力。さらには『時間』という枠組みに含まれる実践や経験、それらを理解したものを身につけれる力を手にしていると予測します。
しかし、それは本来の力とは違う偽りなもの。本来の力に目覚めた時、その力はおそらく消滅することを理解しておきなさい』
「……」
そう説明されたが、ソラにはその言葉の意味を理解することができなかった。
だがーーー
『……私の纏うこの炎。この炎を切るとは……とても素晴らしい力ですね』
ソラはフェニクスがこう評価したあの力に少しだけ喜び、目指すべき目標が見えた。
新たに手にしたあの時計……必ずものして、奴らを倒す! そして、彼女の元へ帰るんだ!
次回は9月5日に投稿します。




