不死の泉
王都の王、クロスフォード・エルフィードは不死の泉へ息を切らしながらやってきていた。
「お、王様、どうなされたのですか?」
「う、うむ……。実はな、私の元へ侵入者がやってきたのだ」
「し、侵入者ですか!?」
「ああ。奴は窓を破り外へと逃げていったため、今現在奴がどこにいるのかは定かではない。
城にいたもの達に捜索を頼んでいるが、もう少し時間がかかるだろう。彼らを手伝ってやってくれないか?」
「しかし……それではここの警備を任された我々の使命が……」
「なに心配するな。ここの警備は私が務めよう」
「ですがそれでは、あなた様の警護が、」
「それこそ心配するな。私の実力は知っていよう。私の元へやってきても、返り討ちにしてくれる」
「……」
「頼むぞ」
「……わかりました。行くぞ」
不死の泉を警護していたもの達をクロスフォードは侵入者捕縛へ向かわせる。説得を受けた兵士はここにいる全兵士に捜索に参加するような指示を出す。
彼がこの場を去る際に、
「無茶だけはしてはなりませんよ」
と言って兵達を引き連れてこの場を去って、侵入者の捜索に参加していった。
「………あの、そろそろ辛いので、降りていいですか?
というか、身体にしがみついているのですが、クロスフォード様は、お辛くはありませんか? 苦しくありませんか?」
「鍛えているからね」
「返答になっておりません」
兵士達がいなくなった途端、どこからからそんな声が聞こえ始める。そしてゆっくりとクロスフォードが着ていた大きな召物の中から、侵入者であるはずのソラが姿を現した。
姿を現したソラは少々クタクタそうな表情を浮かべていた。
「おや? ずいぶん疲れているように見えるね」
「そりゃ当然疲れますよ……。
突然寝室にあったベットの下に隠れるように指示した途端、窓ガラスはぶち壊すは、自分の兵達に当たり前のように嘘をついて侵入者である僕を外に逃げたと思わせて追わせるは、見つからないようにするために身体にしがみつくように指示を出し、苦しいのでは思っていたら何事もなかったかのように普通に歩く……。正直言って、無茶苦茶ですよ……」
「ハハハ。男がそのような小さな事をぐちぐち言うものではない」
「子供一人を犯罪者予備軍にさせるのは流石に文句の二、三は言います」
不機嫌そうに口を尖らせるソラにクロスフォードはただただ笑っていた。
その光景を中から見守っていたソルガはソラの見るからに明らかな心情の変化に少々唖然としていた。
(俺がこいつの心獣となり、感情を与えてやった。しかし、俺が与えられるのは感情の土台まで。
ここまで人らしい表情や感情の機微を見せれるようになったのは、たった数日という日数の中で、一人の人として接し続けた彼女の功績と言えよう……)
言葉として決して口にすることは決してなかったが、無感情のソラを知っているものとして、ソラにずっと語り続けたという点で、あの少女を高く評価していた。
*
「ところで」
兵士達が警護していた不死の泉へと通ずる門をくぐり、泉へ続く長い廊下をうんざりしながら歩くソラの隣でクロスフォードは尋ねた。
「お主はどこまでこの泉について知っている?」
「なにも。ただこの泉には不死鳥『フェニクス』が住んでいるということぐらいだ」
「むしろ泉のことを知らないで、この国の機密でもある不死鳥のこと知っているんだ?」
「依頼だからな。対象者の名前以外の情報を得ようとすると、不審がられるんだ。できればそれは避けたい」
「色々と苦労しているんだな」
「人生山ありだな」
などと言葉を交わし、廊下を進んで行く二人。
フェニクスがいるという情報以外何も知らないソラに対してクロスフォードは泉ついて解説を始めた。
「この泉がなぜ不死の泉と呼ばれているのか。
それはこの泉が数百年、一度たりとも枯れたことがないからだ。
いやもしかすると、それ以前よりも前、泉が誕生したその時から、この泉は一度たりとも枯れていないのかもしれない」
「? 普通はそういうもんなんじゃないのか?」
「そういう風に思われがちだが、実際は少し違う。確かに、湧き続けるのであるならば、枯れることもないだろう。それが巨大であるならば、なおさらだ。
しかしこの泉はさほど大きな泉ではない。下手をすれば池と言えるほど小さな泉なのだ。
そんな泉が災害などがあった場合、どうなると思う?」
「………泉が土砂に巻き込まれて……川になる?」
「極端な考えだが、まああながち間違えではない。泉の水がなくなる可能性があるのだ」
「そうなった場合、この村は終わりですね」
ソラは冗談ぽくそう言ったが、あながち間違いではなかった。
この村は不死の泉を中心として作られた村。不死の泉を使い、経済を回している村であったため、泉そのものがなくなった場合、この村は本当に終わりなのである。
「だが、その土砂崩れは実はすでに起きている。それも四度もな」
「よ、四回も!?」
「不死の泉は土砂に巻き込まれるれるたびに、生命力でもあるのか、泉内を湧き水で満たし、決して枯れることなく、泉の形を保ち続けているのだ」
「へぇ〜。枯れることのない死なずの泉……。だから『不死の泉』なんですね」
「それ以外にも命の灯火がわずかだと診断された老人や重症患者にその泉の水を飲ませたことで、老人は瞬く間に元気を取り戻し、余命わずかと思わせないほど活動的になり、その日から十年は生き続け、重症患者は後遺症が一切なく、むしろ重症前よりも健康体になったらしい」
「それって、尾ひれつけすぎじゃねぇの?」
「気持ちはわかるが、実際にそういった事例はすでに何件も来ている。おそらく事実も含まれているのだろう」
「うさんクッセェ……。
……ソルガなら、なにか知ってんじゃねぇの?」
ソラは自身の胸の上に手を置いてそう尋ねる。
しかし、胸の上に手を置いたところで一切返答が返ってくることはなかった。
「……寝てんのか? それとも最初から無視してんのか……」
「なにをぶつぶつ言っているんだ?」
「……いいえ。なにも言っておりませんよ、王様」
声をかけても一切反応のないソルガの気まぐれさに頭を悩ませながらもソルガ存在に気づいた様子を見せないクロスフォードに悟られないように両腕を広げて、少しオーバー目にソラはリアクションをとってその場をごまかした。
クロスフォードもソラのリアクションに少し気味の悪さを感じながらも「そ、そうか……」と自分がなったから様に呟いた。
そんな会話をしながら廊下を歩いていると、ようやく泉のある道の一番奥へとたどり着いた。
短い階段を上がり、身体全体を暖かい風が包み込む中、泉があるであろう場所を見つめた。
「………なんだ……これ……」
そう思うソラの瞳が見つめる先には……千人近くをすっぽりと入れることができる巨大なフロアを中央の地面から湧き出る水が目の前に広がるフロア全てを飲み込んでいた。
次回は8月15日に投稿します。




