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空っぽの武装魔道士δ  作者: 火琉羅
中央国協同魔法学校
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始まりの過去5

『お前には特別に、この俺に名前を名付ける権利を与えてやろう』

「………名?」

『そうだ。

 名前とは、心よりも深い、魂にその存在を刻み込むことだ。

 俺にも昔、名前は確かに存在した。しかし、あいつはその名を名称としてこの俺の存在を確立した。あいつが俺を()()()()()にも関わらず、だ』

「……」

『ゆえに、今の俺には名前がない。

 名前をつけさせてやるにも、この俺が気に入った人物でなければ、名付けさせてやりたくはないからな』


 そう語る獣はとても悲しそうな表情を浮かべていた。


『……俺の話はいい。それよりも名前だ。

 いい名前を頼むぞ。ただし、朝や夜関する名前を決して付けるなよ』

「朝……夜?」

『日の出は昇り、昼は照らし、夜は輝く。その全ての中心にある太陽を虚無力と合わせ、三つの神を作り出した。

 いくら沈もうと再び昇り、何度でもその姿を見せる、『再生』。全てを照らしながらも、同時に全てを壊し尽くす力を持つ、『破壊』。そしてそれら全てを時間の流れによって安定化させ、あるものをなかったものにさせる、『修正』。

 俺はその三つのうち、破壊の力に相当する。ゆえに、俺の存在を表さない昇りの朝と修正の夜を関する名前だけは俺につけようとするなよ』


 獣の長い解説が終わり、デルタは獣に人生で初の名付けをするため(拒否をする雰囲気ではなかった)に、思考を巡らせる。


(名付け……か……。

 名付けなんて初めてだから、どういう基準で名前なんてつければいいのだろうか? 俺と同じように『イプシロン』とでも名付ければいいのだろうか…………いや、それは何だか……悲しいなぁ……)


 デルタは自分と同じような名前をつけようとしたが、感情を生まれ始めたデルタにとってそれはとても悲しい気分となった。


 しばらく思考していく中、デルタは先程獣が説明にあった『昼』や『太陽』に関する名前をつけることを考えることにした。


(ひる……というのも、なんだが変な名前だ。太陽……確か古代語の本で、太陽は『solar』とも読むんだっけ……。

 獣だから、『爪』や『牙』が目立つよな……毛で出来た『襟巻き』は無視しよう。『爪』を名前にするよりかは『牙』の方な彼には合っているよなぁ……。

 太陽の……牙……。ソーラー……ソラ……ソル……ソル! 牙は古代語で『が』という読み方もできるから……)


「ソル、ガ。ソルガ。この名前でどうだ?」

『なぜそんな名前を?』

「パッと思いついた名前だったけど、昼の太陽と牙で、読み方を少しだけいじってみたのだけれど……変な名前だったか?」

『いいや。お前にしてはなかなか良く考えられている名前ではないか。感情が生まれ始めたお前にしてはな』

「そ、そうか……」


 正直、褒められると思っていなかったデルタは妙に身体中がむず痒くなった。それは単純に褒められ慣れていないというだけのことであって、生まれ始めたばかりの感情に戸惑っているというだけなのである。


『太陽の牙か。

 では、俺もそのお返しをしなければならないな』

「え?」

『そうだな……ならば俺も、貴様に名前をつけてやろう』

「え、名前って……俺には、『デルタ』っていう名前が……」

『それは貴様名前ではないだろう。

 貴様を物として扱う連中が、わかりやすいようにしてあてた番号であるだけ。名前とは程遠い』

「……」


 ソルガという名を持った獣がデルタの名前が名前ではないということを告げる。


 そう言われ思い返せば、デルタは自分を人間として見ている存在に出くわしたのは数名しかいなかった。

 いやもしかしたら、自分ときちんと目を合わせて話をしたのは……。


 そう、頭を過るずっと側で語りかけて続けてきた少女。


 ドクンッと、胸の中で何かが灯った感じがした……。


『というわけで、これから貴様に名をつけるが……そうだな。お前は昼だろうと夜だろうと、空を見上げている。

 おそらくだが、お前は空が好きなんだろう。

 そこで、安直ではあるが、空に憧れる少年として、『ソラ』という名前をお前につけようと思うが、どうだろうか?』

「ソ、ラ……」


 その名前に、なぜか胸の中でガッチリとハマった気がした。


『どれだけ離れていようと、世界の空はどこまでも続いている。あなたは、そんな大きな空が私達をずっと繋げてくれている。あなたはそんな空のから名前をつけたの。

 大空の中にある大切な『空』を……』


「うっ!?」


 突然、聞き覚えのない女性の声が頭の中に痛みと共に流れ込んできた。頭をさえながら、その声を


 まるで自分がその女性を知っているかのような……とても、大切な……。


『おい、どうした?』

「え?」

『なぜ、()()()()()?』


 ソルガにそう言われ、頬をこするとその言葉の通り、目から涙を流している。


 デルタは自分が涙を流している理由が全くわからなかった。


『……涙を流すには、それなりの理由がある。

 悲しい時、嬉しい時……人によっては様々だが、お前にとっては、俺のつけた名前が嫌だった、というわけだな』

「ち、違う!」

『ならなんだと言うんだ?』


 ソルガが自分がつけようとした名前が気に入らなかったと判断し、少しふて腐れたような声を漏らしたが、デルタはそれを即座に否定した。


 ソルガがその理由を尋ねる。デルタはその問いかけに少しだけ言葉を詰まらせたが、


「………嬉しかったんだ。そう呼んでくれることが。

 なんでかな……」

『……そうか。お前にはすでに、()()()()()()()()()()()()()()んだな』

「え? 何か言った?」

『何も言っていない。

 では改めて、俺からお前の魂に、その名を刻み込もう。

 貴様の名前は……『ソラ』だ!』


 ソルガからそう名前を言われ、その名前が魂に刻まれた。

 強く。その溢れ出そうな何かが、自分の中でどんどん大きくなっていく。


 ソルガとデルタ……ソラの二人は、こうしてお互いの魂がより強く繋がり、やがて時を経て、世界を超えるほど大きな力となるのだった。

次回の7月25日に投稿させていただきます。

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