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空っぽの武装魔道士δ  作者: 火琉羅
中央国協同魔法学校
212/246

始まりの過去2

 発見した洞窟はどこまで続く一本道だった。

 しかし、その洞窟はどこまでも明るく。まるで何かに照らされているかのようであり、その光から()()()()()()()()溶けてしまいそうなほど強い光であった。


 デルタは《ウォール・クッション》をロープのように身体全体を覆い、光から身を守っていた。


 どこまで続く長い洞窟。そこはまるで出口のないトンネルのようで、その長い道のりと身体を蝕む光によって通常の人であったならば、力尽きていたであろう道をデルタは身を守る手段を解析しながらトンネルの中を進んでいった。


『ほう……。こんなところに客人とは珍しい。それも、()()を受け継ぐものか……。

 あの果実は何百年も昔に消滅したはずなのだかな』


 トンネルをまっすぐに進んでいると脳内に直接語りかけてくる男の声が響いてきた。


 男は謎の言葉を口にし、まるで面白いもの見たかのような声色で語りかけてくる。


『なるほど……。興味が湧いた。お前を特別に俺の元へと導いてやろう』


 この言葉が聞こえると、目の前に広がる長い長いトンネルが歪み、突如としてトンネルの出口が出現した。


 トンネルの出口が現れたことで肩に下げていたパイルバンカーを構えて警戒の色をあらわにする。


『なに。警戒することはない。

 ただ、俺自身の目で貴様を見てやろうと思っただけだ』


 再びそんな声が聞こえてきた。

 デルタはその言葉を聞いても警戒を解くことはせず、相手の指示に従ってトンネルの中を進んでいった。


 トンネルの出口に到着すると、そこには真っ白な空間が広がっていた。


 そこは先程の洞窟内とは違い、光によって身体が蝕まれるということはなかった。



『なるほどな』

「!?」

『確かに貴様は()()()()()()だ』


 突如背後から先程頭に響いていた男の声が聞こえ、デルタは一気に飛び退いて距離を取る。


 空間の入り口からその真正面にある壁まで一気に飛び退いて語りかけてきたものを確認するために背後へと振り返った。


『それにしても、今のお前は奇妙な存在だな。果実の伝承者ならば、何かしら神の力を保有しているはずなのだが……今のお前にはその力まったくと言っていいほど存在していない。

 それではおもちゃの人形と変わらないだろうに……』


 振り返るとそこには視界を覆い尽くすほどの巨大な獣の顔が興味深そうにデルタの事を覗き込んでいた。

 その顔にはとても真っ白で、シマシマの模様が浮かんでいた。


 先程まで背後にいて、一気に距離を取ったはずだったのに、その距離を一瞬にして詰められ、なおも背後に立たれ続けられ、デルタの思考はこの獣を完全に危険な存在であると判断した。


『まあいい。

 それで? お前は何のようでここに来たのだ?』

「……白虎の討伐」

『俺の討伐? クハハハ! まさか貴様のような人形が俺この俺を倒す? 面白い冗談だ』

「……」


 笑いながらたずねる獣にデルタは何も答えず、持っているパイルバンカーを獣に向けて構える。

 その瞳には無の感情ながらも敵を倒すという火が灯っているのを獣は理解した。


『本当に俺を倒すつもりらしいな……。

 ならば特別に一撃を与える権利をやろう。なあに、単なる暇つぶしだ。どんな攻撃であろうと傷をつけることができれば、少しは面白くなるであろうからな』


 獣のその言葉にデルタはすぐに行動に移した。


 地面を強くなり、獣の顔に向けて飛び掛かり、パイルバンカーを獣の眼球めがけて発射した。


 動物や生物の身体には鍛えることができない部分と呼ばれる部位がある。デルタがパイルバンカーの釘を放った眼球もその一つ。


 柔らかい生物の眼球を貫き、戦闘に対する流れを完全に掴もうとデルタは容赦なく放った。

 放たれた釘が眼球を貫き、血飛沫をあげ、痛みに悶えるその身体にさらにもう一撃。ここまでの流れは完璧に行えると思った。


 だが、


 パイルバンカーの釘先は獣の眼球に触れた瞬間、()()()()()()()()()


『目を狙うとは、いい案だったが、残念だったな。

 俺の身体は『触れたものを消滅させる』力がある。それが剣だろうと魔法だろうと生物だろう関係なく。先程のトンネルでの光も俺の身体の一部。あの光を浴び続けたが最後、骨すら残らず消滅する。

 知識があろうと力があろうと、お前達人間はこの身体に触れることすらできないのだよ』


 唖然とするデルタをよそに、獣は自身の身体について説明を行う。


 説明を聞いたデルタが唖然としながらもまったく表情に変化がなかった事を面白くないと思ったが、すぐに頭を切り替え、獣は大きく息を吸い込んだ。





断罪の咆哮ジャッチメント・ロアー





 巨大な咆哮をあげる獣の身体が輝き始め、空洞内の全体を強い光が照らし始める。


『トンネルでの光も俺の身体の一部。あの光を浴び続けたが最後、骨すら残らず消滅する』


 先程の言葉を鵜呑みにするのであれば、獣が放つあの光は危険だとデルタは判断し、その光を防ぐ手段を自分の知識を総動員させて見つけ出す。


 しかし、防ぐ手段を見つけるよりも先に獣が放つ輝きがデルタの身体を覆い尽くした。



 *



 光が収まると、周囲の空洞はもう崩壊寸前であり、今にでも振動を与えれば、簡単に崩れてしまいそうであった。


 そんな空洞の中央では先程の巨大な咆哮あげた獣が四本の地につけて立っていた。


『……ふふふ。ふふふふふ。フハハハ、アハハハ!




 おもしろい! 本当におもしいぞ、()()!』


 そう叫ぶ真っ白な獣。その見つめる先の地面には、先程光を浴びたデルタが横たわっていた。


『まさかあんな()()な回避をしてみせるとは思いもしなかったぞ。人形があのような力を使うとは……いや、人形だからこそか』


 獣がそう賞賛する理由は、デルタが知識を総動員して見つけ出した回避手段が純粋にすごいと思ったからだ。


 デルタは自分に光が浴びていく中、とある結論を導き出した。

 それは物質に対する『透過』である。


 本来透過とは自身の身体を通り抜け、回避するという現在デルタが使える力の中で最も使う力であった。


 なので、すぐにその結論に至ることは容易かった。

 しかし、この力には同時に底がわからなかった。


 デルタが常に使っている透過は必ずどこか身体の一部を現実のまま残しており、それ以外の部分を透過させていた。


 よって、光に包まれる直前にその結論にに至った時、躊躇した。もし身体の全てを透過すると、もしかすると()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 この世界から、今ある身体、言葉、意識。それら全てが消えてしまうのかもしれない。


 そんなことを考えてしまったため、すぐに透過を行うことが出来ず、獣が放つ光を浴びてしまった。


 だが、デルタは自分が躊躇したせいで光を浴びてしまったことを飲み込み、すぐに別の思考に導き出した。


 デルタは光を浴びてしまった両腕と両脚を()()()()()()()()

 光を浴びた両手両脚以外にデルタは透過の対象にし、能力を発動した。

 透過をしている頭や胴体には浴びている光を全て透過した。そしてそのまま生身の手脚は獣の光を浴び続け、血が吹き出る暇すら与えないまま、チリとなって消滅した。


 こうして獣の光から逃れたデルタだったが、両腕両脚が無い状態ではまともに身動きを取ることが出来ず、その場に横たわっていた。


『お前とは是非とも死ぬまで遊んでいたいのだが……そのままでは人間なんぞ簡単に死んでしまうな……』


 一切身動きが取れず、身体の痛みを訴えつつも、徐々のその痛みと共に意識も闇の中に落ちていきそうになっていた。


『このままこいつも死んでいくのも悪くは無いが………観察という暇潰しに程度にはちょうどいいか』


 その言葉を残して、獣は身体を光に変えて、デルタの身体に降り注いだ。

 デルタは薄れゆく意識の中、心の中に小さな灯火を感じるのだった。



 *



 ユサユサユサ


 誰かに身体を揺らされて途切れていた意識が戻り、パチリと目を覚ます。


「あ、起きた! よかった〜」


 暖かな光に照らされながら開いた目の先にある可愛らしい女の子と視線が重なった。


「大丈夫? ここがどこだかわかる?」

「………」

「? ひょっとして、わからないの? なら、お名前は?」

「………」

「わからないの? どうしよう……」

()()()()

「お父様!」


 おそらく目の前にいる少女の名前を後ろから現れた『お父様』名前の大人の男性が現れた。


「……その子は?」

「わからないの……。でも、ひどい怪我をしているから……」

「そうだな。両腕や両脚が()()()()であるからな。すぐに治療をしないとな」


 大人の男性が言った言葉にデルタは自分の身体を確認する。両腕や両脚を確認してみると、そこには消滅したはずの腕や脚が本当にあった。


「ありがとうお父様! よかったね」

「………」

「そういえば、まだ私の名前を教えてなかったね。

 私は『コレット・フォン・ジェラード』。よろしくね」


 こうして、デルタは彼女、コレットと最初の出会いを果たしたのであった。

次回の7月7日(日)に投稿させていただきます。

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