始まりの過去 1
『見せよう。俺達が一体何者なのか。そして、何のために生きているのか……』
そう言ってアンノーンは強く輝き始め、そして光の粒となって消滅した。
光の粒は一斉にコレット達に襲いかかり、その身体を貫いた。
するとコレット達の頭にとある映像が流れ始める。
とある真っ暗な場所で、『デルタ=Ⅳ』と名付けられた少年と姿を確認できない男。
その少年が巨大な魔物をいとも簡単に倒してしまう姿。
そして……。
*
「デルタ=Ⅳ。こっちに来なさい」
「……」
デルタ=Ⅳは名前も知らない女性に呼ばれ、言われた通りに女性の側に近寄る。その近くにはデルタ=Ⅳと同じか子供だが、自分よりも背丈の大きい年上の少女がいた。
「デルタ=Ⅳ。自己紹介よ」
「……デルタ=Ⅳ。よろしくお願いいたします」
「そう。私はレオナ。十二星宮、『牡羊座のアリエス』様の依り代で今日からあんたの教育係よ!」
「教育係とは、命令ですか?」
「命令よ」
「承認しました。これよりレオナ様を『マスター』と認識します」
「うむ。苦しゅうないぞ」
「……と言うわけで、教育、頼みましたよ」
「はい。任せてくださいアリエス様」
そう言ってアリエスはこの場を去り、レオナとデルタの二人だけが残された。
「それじゃあ、早速教育を始めましょうか」
「……よろしくお願いします」
二人きりとなったレオナとデルタは教育ということで、まずは基本的な知識の勉強を始めた。基本的な雑学から計算問題、難しい本からの知識の採取など様々なことを行った。
中でも古代語と言われる『異世界語』と呼ばれる文字列には深い共感を示しどんどん知識を得ていくデルタに、教育をしていたはずのレオナがみるみるうちに追いつかなくなり始めた。
「ち、知識の勉強はひとまずこれでおしまい! 今日は別の教育をします」
「……別の?」
「お料理です! これには少し自信があります!」
そう胸を張るレオナ。言葉通り、見た目はとても良く、レストランで出せばお金が手に入ると思えるほど見た目だけはよかった。
「どう? 美味しいでしょう!」
「……」
「? どうしたのよ?」
「…………………」
作られた料理を一口食べると、淡々ではあったが、言葉を返していたデルタが急に何も話さなくなった。
その間デルタはその謎のような味が自分の理解を超え、思考がまったく回らなくなっていた。
奇妙な寒気、強烈な吐き気、痛み訴え始めるお腹。やがて匙を加えたまま動かなくなったデルタの表情は真っ青となり、そしてばたりと倒れ、意識を失った。
その後、目を覚ますとレオナからひたすら謝られた。
症状は食当たりだそうだ。
良く無事だったと診察したヴァルゴから感心された。
その後、二人の料理はヴァルゴが管理することなり、そのついでとして二人にも料理を教えることとなった。
レオナは前回のこともありかなり真剣に料理に取り組み、みるみる上達していったのだが……。
ボンッ!!
「………」
「デルタ=Ⅳ、あなたはまた……」
なぜかデルタだけは一切上達の傾向を見せなかった。
基本的な時間を実験や訓練して身体をいじられ、調整され、空き時間にレオナと共に教育の日々が続いていたある日……。
「デルタ=Ⅳ。今回、お前にとあるミッションを実行してもらう」
「は。どんな任務でも」
「この世界には我らを除いた三匹の神が存在する。その中でも全くと言っていいほど情報のない神、『白虎』の調査に赴いてもらう」
「了解致しました」
「奴が住む場所は『白虎の谷』と呼ばれる奈落の深淵だ。早急に向かえ。そしてもし発見したのであれば、必ず殺せ」
「は!」
そしてデルタは奈落の深淵あると言われる白虎の谷へと向かうこととなった。
*
目的地の一つである奈落にはものの三日で到着した。リブラ様が言っていた《神速》を持ち寄れば、ここまでの到着にさほど時間はかからなかった。
その際に両足は血だらけなったが、予想以上の再生能力だった為、もう傷は完全に塞がっていた。
奈落を覗き込むとそこは光をも飲み込む闇が広がっていた。
「……《ウォール・クッション》」
そう呟くと、周囲に漂わせていた魔力が肩を成してモコモコの綿が出現した。
その綿に身体を包み込み、そのまま奈落へと飛び降りた。
*
闇が続く奈落の底に突如ポヨン! っとなにかが跳ねて地面にあった瓦礫が崩れ去った。
跳ねたものはしばらく地面転がっているとボンッ! と霧のように霧散し、中からデルタ=Ⅳが現れた。
デルタは何事もなかったかのように立ち上がり、奈落の深淵と呼ばれる白虎の谷の捜索を開始する。
視界が慣れるまでその溢れ出る魔力を使いながらリブラやアリエスのような異質な魔力を持つ存在を探し続ける。
本来ならばこの時点で奈落に住まう魔物達が襲いかかってくるはずなのだが、デルタ自身の魔力もリブラ達の遜色ない異質な魔力であったため、魔物達もデルタ本人に手を出すことができなかった。
しばらく奈落の中を進んでいき、魔力を操作しながら周囲の探索を続けているととある一つの洞窟を発見した。
洞窟の中に進むと、そこには光輝く緑色の池が洞窟内を広がっていた。
「……光輝く池……」
初めて見る不思議な光景に奇妙な痛みが胸を指す。デルタはその痛みに気づかないまま光輝く池に触れた。
その瞬間、池の水に触れた手に強烈な痛みを感じ、触れた手を勢いよく引き抜いた。
触れた手を見てみると、水に触れた部分から肉が焼け、深刻なダメージを与えていた。
まるで池の水に触れた手が破壊されたかのように……。
「……《猿真似》。対象『アリエス様』、『鑑定』………構築細胞の配列破壊を確認。甚大なるダメージにより十分ほどの再生を開始します」
そう言葉を並べると水に触れた手が輝き始め、再生を開始した。
「情報を更新。白虎は破壊の神。その力がこの水に影響を与えた可能性、七十四パーセント。
および、対象『白虎』がこの場所に存在する確率8 八十七パーセント。
……」
魔力で身を包んでいる自分がただの水でこれほどの大怪我をするとは考えずらかった。
そこですぐに思い当たったのが破壊の力を持った白虎の存在だった。
白虎の力が今目の前にある池に影響を与えていると仮定して、その白虎がどこで池に影響を与えているのか……。
しばらく考えたのち、デルタはその場に立ちながら、再び目の前にある池に向けて手をかざした。
「《開通》」
デルタがそう技名を言っ純感、かざした手の向こうがに時空の穴が生まれた。
デルタはその穴に飛び込んで行く。
そして時空の穴を通過し、穴の向こう側に到着する。
その向こう側に到着してデルタが一番最初に思ったことは……、
向こう側にはまだまだ洞窟が広がっているということだった。




