『白虎』
「動け! 動けよ、俺の身体!」
「カメ……」
コレットの声が聞こえた。
僕は岩に押し潰され、身動きを取ることが出来ない身体に無理矢理指示を出し、動こうとする。
しかし思いのほか岩が積み重なっているのか、全く身動きを取ることが出来ない。
それでも必死に動こうとする。
カメ助はそんな僕の姿を見て、止めようと前足で顔を抑えつけるが、それでもなお、動こうとする事をやめなかった。
『僕達が愛する、大切な人の為の、新たな世界を!』
「動けぇ!」
それは僕の叫び声に呼応するように解き放たれた。
『Gararaaaaaaaaaa!!!!!!』
そんな雄叫びと共に、ソラの身体から白い光に包まれて、真っ白な獣が飛び出した。
獣は身体に積み重なっていた岩を跡形もなく消滅させ、あたりをその白い光で包み込む。
やがてその光は形を成していき、真っ白な獅子の姿をした巨大な獣へと形作っていった。
だが、これだけでは終わらなかった。
『Gararaaaaaaaaaa!!!!!!』
獅子はさらなる咆哮をあげ、空洞になっている壁に大量の亀裂が走る。
「「『うぐっ!?』」」
その咆哮を耳にした瞬間、ソラの身体が凄まじいほどの熱と苦しさ、そして体全体を引き裂くような強烈な痛みが襲いかかってきた。
すぐ上を見上げると、ソラと同様に苦しそうに身体を抑えているアンノーンとⅣの姿があった。
『Gararaaaaaaaaaa!!!!!!』
獅子は三度咆哮をあげる。
すると、Ⅳが身を包んでいた魔装が解かれ、そして身体から二つの光の玉が、同じようにアンノーンからも四つの光の玉が出現した。
『っ!』
光の玉が出現すると、アンノーンは無理矢理その光の玉のうち、Ⅳの身体から現れた二つをつかみ、Ⅳの身体に押し込む。
アンノーンから現れた四つの光の玉はそのまま獅子の身体に取り込まれる。
二つ光の玉がⅣの身体に押し込まれると、再び魔装に包まれた。
バサッ!
押し込まれた拍子に深くかぶっていたフードが取れ、素顔が明らかになる。
Ⅳの姿は歯がギザギザに生え、まるで獲物を食い尽くしてしまいそうにしていたが、それ以上に驚くべきものがアンノーンを除くこの場にいる全員の目に飛び込んできた。
それは………細くて長いウサギのような耳がⅣの頭から生えているというものだった。
『……ブフッ!』
「〜〜〜〜っ!!!」
全員がⅣの生えているうさ耳に驚き、声を出させずにいると、その正面にいる青龍がこの場の空気を壊すように笑い声を上げ始めた。
その声を聞いた瞬間、Ⅳは自身のローブをすぐに深く被り、頭の耳を隠す。
しかし、すでに手遅れだった。
『クハハハハハハハハハハッ!
なんだその姿は? ふざけているのか? 面白すぎるぜ!』
「うるせぇ! 俺も好きでこの姿でいるんじゃねぇ!
それにこの『フィル』と『ラビ』の力があれば、色々と便利なんだよ!」
『犬の嗅覚とウサギの聴覚で世界中を見回す。確かに便利だが、俺様なら恥ずかしくてそんな格好出来ねぇな』
『だったら干物にでもなるか?』
青龍がⅣの姿に笑っていると横から巨大な手が襲いかかってきた。
青龍は身体を捻らせ、その手を回避する。そして襲ってきたその手の主を睨み付けた。
『っち。外したか……』
『……なんだその姿は』
『貴様には関係のない話だ』
『関係ならあるさ。今のお前を俺達と同類と思われたくはないからな』
巨大な手の主に……ソラの中から現れた獅子は悪態を吐きながら残念そうな声を漏らす。
だがそれ以上に獅子の姿を見て落胆したような声を青龍は漏らした。
『なんだその姿は。まるで、自分の姿を偽っているようなその襟巻きは?』
『偽ってなどいないさ。ただ、力がまだ足りないだけだ』
『まったく、情けないものだな。その上、あんな人形に魔装を与えているとは……本当に情けないものだ』
所々に気になる言葉が飛び交う二人の会話。
ソラはそんな二人の会話を聞きながら、痛む身体を抑えながら起き上がらせる。その際、頭が妙にグラグラと揺れた。身体の痛みと共に現れた獅子にかなりの魔力を奪われていたのだ。
「ソラ!」
Ⅳや青龍、獅子にみんなが視線を奪われている中、身体を起こしたソラに気がついたコレットがソラに寄り添うに近づき、手を伸ばす。
「! 離れろ!」
「きゃあ!?」
ソラはそんなコレットを突き飛ばし、無理矢理にでも距離を作った。
その時、自分がしでかした行動に驚き、そして同時に悔しそうな表情を浮かべるソラ。コレットただ驚いていることができなかった。
『……その上、何か枷に囚われている。哀れだな』
『……』
『やはり人間はどこまでも哀れだ。餌や人形のようなものでしかない人間共をただゴミのように遊んでいるのも面白かったが……そろそろ飽きてきたし……決めた。
俺様はアイツら同様に、世界を滅ぼすとしよう!』
その言葉を聞いて何もわからないもの達を除き、この場に人達は目を見開いて驚いた。
そんな人達の反応にまったく興味を示さない青龍は隣にいる獅子に尋ねる。
『お前はどうするんだ?』
『なに?』
『お前も俺様同様に人間が嫌いな派の三神だ。一緒に世界を滅ぼさないか、『白虎』よ』
『……』
『白虎……青龍と並ぶ、人間を守護する三神のうちの一人! まさか、ソラの中にいる奴が、そんなすごい奴だったとは!』
「違う。今の彼に、そこまでの力はない」
「……もしかして、ソラは何か知ってるの?」
「……。………」
二人の神の話を聞いていたクロエがそう呟くと、それを訂正するようにソラな言葉が入る。
コレットはその言葉を意味を尋ねたが、ソラはただ俯くだけだった。
『知っているもなにも、その原因を作ったのは、なにを隠そうと俺達だからな』
頑なに語ろうとしたソラの代わりに身体を抑えながらゆっくりと地面に着地するアンノーンが答える。
『俺ももう時間がない。これが最後だ』
「……」
『見せよう。俺達が一体何者なのか。そして、何のために生きているのかを……』
『……青龍を。それも確かに面白そうだ』
「!? お前!」
『人間は黙っていろ! ……そうか。ならば共に、』
『だがその前に、お前に行っておかなければならんことがある』
『言っておかなければないないことだと? それは何だ?」
獅子は青龍の考えに同調し、笑ってみせた。
その反応に唯一、この戦闘に参加しているⅣはその返答に驚きの表情を見せ、説得しようと声をかけたが、青龍の放たれる圧に気圧され、言葉を詰まらせる。
自分の考えに同調した獅子に喜びの声を漏らす。そんな青龍に獅子は語りかけた。
『俺の名前は……『ソルガ』だ!』
そう叫び、獅子……ソルガは、青龍めがけて一気に襲いかかるのだった!




