姫様と噛みつき亀
朝の日差しがあたり、その光で目を覚ます。起きた場所は、昨日起きた場所とは違い、ソラとカメちゃんと一緒にご飯を食べた部屋。
ゆっくりと体を起こすとあることに気づいた。それは、私の隣に彼。
昨日起きた時には色々と作業していたのに、今日は未だに眠っている。
私は、未だに眠っている彼の顔を覗き込む。
可愛らしい年相応で子供らしい寝顔。こちらも起きている時と違って印象的だ。
ソラを最初に見た時、皇国に捕まったと思い、すごく怖かった。でも、彼の話を聞いて安心する反面、彼の尋ねてきたことに不安になる私もいた。
だっていきなり死ぬなんて聞いてくるんだもん!不安にもなるよ!
私はソラから見たらあまいと思う。未だに現実として考えられていない。死人なんて出て欲しくないって考えてる。
そんな私の考えを聞いたら、君は、怒るのかな…がっかりするかな……。
君といろんなことをするのは楽しかった。喧嘩しながら料理を作って、城下の子供のようにはしゃぐのに付き合ってくれて、私のことを考えて、親身に答えてくれた。
昨日のことを思い出して、少し顔が赤くなるのがわかる。なんだか安心する。
そんな君に、嫌われるのは…なんだか嫌だな……。
そんなことを思いながら、ソラの顔を見つめる。
・・・不意にほっぺたを突きたくなった私は、ほっぺたを突く。少し硬い表情をする彼だが、案外柔らかく、気持ちがいい。
しばらくの間プニプニと感触を味わっていると、何処からか視線を感じた。私はその視線を感じた場所に振り向くと案外あっさりと見つけた。
すぐ近くのテーブルの上。その上にはジャンヌ・ダルクさんの本と火が消えたランプ、そしてこちらの方をじと〜っと見つめてくるカメちゃん。
ソラの話では、カメちゃんは魔物だって言っていた。
亀の魔物がいるという話を聞いたことがなかった私は本当かどうか疑ったが、肉も魚も野菜もたっぷり食べる亀が早々いる?と聞かれ、苦笑いで答えるほかなかった。
カメちゃんは驚くことに、すごく空気や雰囲気を読むことができる。私とソラが言い合いをしている時は、静かにその様子を見守り、楽しくて笑っている時は一緒になって楽しむ。色々な魔物がいるが、ここまで人間に近い魔物もそうそういないだろう。
私はカメちゃんにソラがまだ眠っているから、しぃー!っと手振りで伝えると、カメちゃんは呆れたように頭を横にし、視線をそらす。
カメちゃんの反応に乾いた笑顔で笑い、再びソラを見る。
「・・・」
ソラの目がうっすらと開き、こちらを見ている。
目があって数秒間、見つめ合い、私は驚いて身を寄せていたソラの体から飛び退く。
どうしよう?!なんて説明しよう?!そんな考えが頭の中を渦巻いていると、テーブルの上にいたカメちゃんが私の頭を踏み台にして、ソラに飛びつく。
そして、問答無用でソラの頭に噛み付いた。
「イィッテェ!!!」
カメちゃんがソラに噛み付くと、声を出して、カメちゃんを引き離そうとする。
その慌て具合に、混乱していた私の頭を冷静さを取り戻し、不意に笑いが飛び出た。
「ちょ?!笑ってる暇があったら助けて!」
「う、うん、わかった。ちょっと待ってね」
私がカメちゃんの甲羅を掴むと、なかなかソラの頭から離さなかったのが嘘のように簡単に離れた。
それにソラは頭から離れて嬉しような、自分の時はなかなか離れなかったのに…っととても複雑そうな表情を浮かべた。
私はそんなソラの姿に悩んでいたことがなんだかおかしくなり、再び笑顔になる。
そんな私にソラは拗ねたように口を尖らせ、さらに笑顔が溢れる。
ソラ。
私はきっと弱くてあまい人間だと思う。
でも、ちゃんと答えを出すから。
だから……
「・・・おはよう!ソラ!」
「・・・ああ…おはよう」
私の話を、聞いてくれますか?




