集結
「こっちです!」
「みなさん早く下山を!」
「ふざけるな!」
「私達は青龍様の加護を受けているのよ!」
「青龍様を裏切れるか!」
洸夜と優雅はクロエの指示の元、青龍山に住む竜人族の人達を必死に逃がそうと避難指示を出すが、竜人族の里の者達は今まで暮らしてきたこの里を捨てて生きていくことに抵抗があった。
それでも二人は必死に全員を逃がそうと呼びかけ続けるものの、誰一人として逃げようするものはいなかった。
そんな中、怒り狂う里の者達に大量の綿のような物が波のように押し寄せ、里のものたちを飲み込んでいった。
洸夜と優雅はその波にのまれると思い、身構えるものの、綿は二人を飲み込むことなく里の者達だけを飲み込んで、里の外へと流れしていった。
「な、なんだったんだ、今の?」
「し、知るわけないじゃん!」
『あれ? この二人は本来ここにいる二人だったけ?』
「俺が知るか」
綿の波が過ぎ去り、二人があれがなんだのかわからず困惑していると、二人の側に一人の男が独り言の様に文句を言いながら現れた。
二人はその声がした方に視線を向けると、
「「そ、空!」」
「っ! 俺はⅣだ! 俺をあいつの名前で呼ぶんじゃねぇ!」
Ⅳは明らかな怒りを露わにしながら二人に言い張った。
その発言に二人は驚いて、身体をビクつかせた。
Ⅳは舌打ちをしたのち、青龍山に開いた風穴の方に視線を向けて歩き始める。
その行動に二人は慌ててⅣに呼びかる。
「ま、待ってくれ、空!」
「だから俺は空じゃねぇって言ってんたろうが!」
「僕達も連れて行ってください!」
「ああん?」
「例え空じゃ無かったとしても、僕達はあそこに行く目的があるんです!」
「だから、俺と優雅もあの山に連れて行ってくれ!」
「お願いします!」
洸夜と優雅な必死な姿に驚いたⅣだったが、すぐに足手まといと判断し、付いて来ようとするを拒否し、山を降りる様に指示を出す。
「ダメだ。お前らでは役立たずだ。さっさと山を……『いいじゃないか』!? ……何?」
『おそらくだけど、この二人をこの世界に連れてきたのはきっと三番目のソラだ。なら、ここにいる理由も何かしらあるはずだ。戦う力としての意味ではなく、もっと別の何かが』
「……」
『かけてみる価値はあるんじゃないかな? 少なからず、その可能性をあのソラは持っている』
「…………っち。わかったよ」
「ほ、本当か!」
「ただし、いらないと判断したら、すぐに下山してもらうぞ」
「わ、わかりました!」
こうしてⅣの案内の元、二人は青龍山の頂上付近の大穴に向けて進み始めるのだった。
*
コレット達は空を飛行し、青龍山の側面にできた巨大な大穴の側にまでやって来ていた。
『行くわよ!』
クロエの号令のもと、コレット達は一斉に大穴の中に飛び込んでいく。
そしてしばらくその大穴の洞窟が続いた後、とても大きな空洞に到着した。
『ほう。今日はよく客人が来るな。それに、それ以上に面白い客人だ』
『……久しぶりね、青龍様』
その空洞の中央に一体の龍が構えられていた。その龍は軽い挨拶をしながら奇妙な笑みを浮かべており、それを返したクロエの表情はとても険しい者だった。
「クロエさん。あれは?」
『あれは青龍。この青龍山の主人であり、龍の中の王。そして、人間を守護する三神の一人よ』
「あれが……青龍…………?」
クロエが背中からユゥリとエリーゼを下ろしながら隣に降りたコレットに目の前にいる龍が話している青龍であると伝える。
コレットはその龍の姿にわずかな興味をしまいたが、それよりも、穴の下にできている瓦礫の山にどういうわけか疑問を感じた。
『まさか、お前がこの山に帰ってくるとはな……。自ら山を降りたお前が、どういう風の吹きましだ?』
『ここにソラという少年が来たのだけれど……心当たりはないかしら?』
「………」
青龍がクロエの存在に驚いており、その理由を尋ねるが、それをさらに疑問で返し、ソラの居場所について尋ねるクロエ。
妙に喧嘩腰のクロエ。周りにいる音姫達は固唾を呑んで見守る。しかし、そんな中でもコレットは先程から気になっている瓦礫の山から視線を背けられなかった。
『ソラ? ……さあな。全く身に覚えがないなぁ』
『さっさと白状しなさい。あんたの嘘なんて、見抜けないとでも思ってるの?』
『………ク、クククッ。
クハハハハハハ、クハハハハハハ!』
青龍は口を大きく開き、下品な笑い声を上げ始めた。
『いや〜、さすがはクロエ。俺様のことをよく理解しているな!』
『誰がお前なんかを理解しているのか。気持ち悪い』
『おいおいそう言うなよ。せっかくの再開なんだからよぉ。……そうそう。ソラとかいうガキな……俺が殺しちまった』
その瞬間、龍となったクロエの尻尾が青龍に向けて叩きつけられようとしたが、その尻尾をいとも容易く掴んだ。
『貴様!』
『そこまで人間に固執するとは……落ちたものだな。それほどまでに、』
『黙れ!』
その瞬間、クロエは翼を広げ、羽ばたこうとしたが、それよりも先に、青龍は掴んでいる尻尾を離し、飛び上がった。
『何者だ! 姿を見せろ!』
宙へと飛び上がった青龍が何かに感づき、叫ぶ。そしてしばらく周りを見渡した後、自身の正面に視線を向け、口を開き始めた。
『……なるほど。すでに小火というほど、存在を保てない人間か……。見えるものは、我のような神の存在と貴様自身が結ぶ強い縁か……。
……。
ほう。ならばそれが、貴様にとってそこの女ということか……』
独り言を語り続ける青龍。
その姿にクロエ達は何を一人で喋り続けるいるんだと疑問符を浮かべるが、この場にたった一人、その姿を理解する者がいた。
(あの人は確か……アンノーンさん?)
コレットである。
コレットは先程の二人の会話を耳にしていた。
その際、アンノーンはこう言っていた。『俺が生き続けている限り、彼女との繋がりは決してきれない』と……。
(繋がり……)
これは無意識にまた瓦礫の山を見つめる。
「………ソラ」
コレットはそう呟くと、その瓦礫に向けて歩き始める。そばにいたユイはそんなコレットの後を追って瓦礫に向かって走り出した。
その行動にクロエ達は驚き、コレットの方へと振り返る。そのタイミングを狙ってか、青龍は真っ赤な炎をコレットめがけて吐き出した。
クロエは慌ててコレットの前に立ち、翼で炎を払い飛ばそうとしたが、逆に炎を勢いが増して襲いかかった。
勢いが増し、さらに強力になった炎からコレット達を守る為に、翼を盾のようにして炎を防いていく。
炎に触れた翼は徐々に焼け落ち、そして次第に翼の破片が消滅を開始し、自身に翼があったという記憶が少しずつ無くなり始める。
「《冥界斬首》」
そんな時、炎のすぐ側からお巨大な歪みが現れ、燃え上がっていた炎が吸い込まれ始めた。
燃えていた翼の炎が全て歪みの中に吸い込まれていくと、歪みは閉じられ、そこには何もなくなってしまった。
そして背中と左脇に人を担いだ大鎌を持あ、黒ローブ身に纏っているⅣが姿を現した。
Ⅳは二人をクロエの方へ投げ捨てると、状況確認をする為にあたりを見渡す。
「………。これで、今集まれる全ての役者が集まった」
『今! ここから始まるのだ!』
Ⅳの言葉にアンノーンが答える。
コレットや青龍をのぞく者には聞こえるはずのないその声は、この場にいる全員にはっきりと聞こえるほど、鮮明な声をしていた。
『僕達が愛する、大切な人を救う為の、新たな未来を!』




