デルタ=Ⅳの戦闘実験
真っ暗な部屋にパッと光が照らされ始める。
その部屋の中央に一人の男が下を俯きながら立ち尽くしていた。その手には一本の両刃の剣と大きなパイルバンカーを握っていた。
そしてその正面に、
「Glaaaaa!!!」
巨大な魔物が光に照らされ、威嚇するように大きな声を上げた。
そして魔物がその大きな手を振り上げ、勢いよく振り下ろし、男は身動きが取れなかったのか、その手には巻き込まれた。
手を振り下ろされ、砂埃が舞い上がる。
男をあっさりと殺し、笑みを浮かべる魔物。
しかし、そんな魔物の油断を打ち壊すように砂埃の中から何が勢いよく飛び出した。
それは先程魔物が踏み潰したはずの武器を持った男で、その姿に一切の怪我もなく、平然とした姿で剣を振りかざしていた。
魔物はその男の登場に驚き、後退するが、すぐにそれに反応し、振り下ろしていた手を上げ、空中にいる男にその手を打ち込む。
撃ち込まれた手が男の身体を直撃し、その身体を潰したと思った瞬間、魔物の手が男の身体をすり抜け、空を切った。
魔物は先程の砂煙の中から現れたこと以上に、目の前で自身の手が身体を通り抜けたことに驚愕し、「Gla?!」という衝撃の声を上げた。
男は衝撃を受けている魔物の隙を突き、その顔を切り裂き、パイルバンカーを突き出し、容赦なく撃ち込んだ。
魔物はパイルバンカーを撃ち込まれたことに仰向けになりながら後方へ飛んでいく。そして背中を地面につけ倒れる魔物と同時に空中にいた男も地面に脚をつけた。
「……ファイズ2、終了。及び、フェイズ3に移行します」
男がそう呟くと、俯いていた顔を上げ、仰向けに倒れている魔物を捉える。
魔物も身体を起こしながら男を睨みつける。その表情には先程のような余裕の表情ではなく、怒りの表情が滲み出ていた。
だが次の瞬間、男は魔物の前から突如として姿を消した。
魔物は突如目の前にいた男が姿を消したことに目を見開いたが、突然胴体を切り裂かれ、血しぶきが上がったことにより、驚くことよりも先に苦痛の表情を浮かべた。
その上さらに背中から両手両足、そして頬を切り裂さき、再び血しぶきが上がった。
その後、ザザッと誰が止まるような音が聞こえ、そこに消えたはずの男が現れた。
ただ、その脚は痙攣を起こし、肌が見えている場所からは真っ赤な血が流れていた。
「やはり、フェイズ3は予想通り身体への負荷を耐えることができませんね」
「問題ない。そもそも自身の時間を圧縮する事で通常の速度をはるかに上回ることが出来る『神速』は、我らが王があの男に憑依し、魔装を身に付けた際、全てを滅ぼす力の一つとして使用される力だ。
我らが王が、奴隷のように、私の命に従い、全ての人間をリセットさせるためにな」
「………」
「さあ、デルタ=Ⅳ。全てのフェイズを終了。そこにいる用済みを消せ」
「……了解」
そう返事を返すと、デルタ=Ⅳは魔物の方に視線を向け、再び姿を消す。そして魔物の後ろ首から突然何かが突き出てきた。
それはデルタ=Ⅳが持っていたパイルバンカーの釘であり、真っ黒だった釘が魔物の紫色の血で染まっていた。
首の内側から貫いた釘がゆっくりと身体の中に戻っていくと、魔物は仰向けに倒れた。首を貫かれた事により、呼吸がこんなとなっていたが、魔物にはどうにか息があった。
そんな魔族の口から先程消えたはずのデルタ=Ⅳが這い上がってくる。そして口から出て仰向けになった魔族の血が流れ出ている傷口に向けてパイルバンカーを構えると、
「……」
バキンッ! とパイルバンカーを撃ち込んだ。
悲痛の叫びをあげる魔物。
しかし男はそんな叫び声を無視し、何度も、何度も。何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も、傷口にパイルバンカーを撃ち込んだ。
次第に撃ち込み続けたパイルバンカーの釘が魔物の肉を削ぎ落とし、どんどん深く刺さり始める。
そして魔物の肉をどんどん貫き、やがて、パキンッ! という何かが砕けるような音が聞こえると、苦しそうにしていた魔物は突然ピクリとも動かなくなり、灰のように消滅していった。
その場に残ったのはパイルバンカーに染み付いた紫色の血と、釘の先にある砕けている小さなガラスの球体。
デルタ=Ⅳはパイルバンカーを持ち上げ、砕けたガラスの球体を拾い上げた。
『デルタ=Ⅳ。初の戦闘訓練はこれで終了だ。砕いた魔核は取り込んで、自分の力の養分としなさい』
そんな放送が聞こえると部屋の隅にあった扉が開かれる。
デルタ=Ⅳは拾い上げた魔核を口いっぱいに含み、そのまま呑み込んだ。
「……っ」
デルタ=Ⅳは身体を抑えながら苦しそうな表情を浮かべる。
だがすぐに元の何事も無かったかのような表情に戻り、開かれた扉に向けて歩きだし、部屋を後にするのだった。
*
………ガブッ!
「………痛い」
「カメ!」
ズキズキと痛む頭にさらに噛み付かれたような鋭い痛みと共に目を覚ましたソラ。
その痛みに反応して声を漏らすと、頭上から連れてきていないはずのかめ助がソラの顔の目の前に向けて滑り落ちてきた。
「………カメ助。何で、お前が……」
「カメ。カメ!」
この場になぜかめ助がいるのか分からず、尋ねるのだが、何かを叫んでいるカメ助の言葉をソラは理解することが出来なかった。
「? ……ごめん。何いってるのか全然わからない」
「カメ……」
カメ助にそう言うと、残念そうにしたに俯く。
そんなカメ助の姿を見て、少しずつ意識が戻り始め、なぜ頭に痛みが走っているのかを思い出し、現状を理解し始めた。
「……そうか。負けたのか、僕……」
そう。負けた。
決して負けるわけにはいかなかった戦いに、負けてしまった……。
そんな悔しさに悪態を吐く。
青龍を決してな話ししてはならない。
そんな決意を新たに身体を起き上がらせようとしたのだが、身体を動かそうとして、体全体がズキズキと痛みを訴え始めた。
よく自分の身体を観察してみると、背中や脚に青龍が起こした崩れた岩が降り注いでおり、身動きが取れなくなってしまっていた。




