竜人族の里
真っ黒な洞窟の中、突如として赤い炎が放たれる。
その炎を地面から生えた氷がその炎目掛け襲い掛かり、周囲一帯を凍りつかせた。
「……はぁ……」
「「Gishaaaaaa!!!」」
洞窟内に息を吐く声のすぐ後に何かが襲いかかるかのような二つの声が響き渡る。
「「shaaaa_________」」
「……」
だがその声は一瞬にして途切れ、ドサッという音と共に静まり返る。
襲いかかってきたもの、この洞窟に住む『ワイバーン』が、首の真ん中から見事に両断され、地面の上に横たわっていた。
その横たわっているワイバーンの間には二本の剣を持った男の姿があり、その剣はワイバーンの血で染まっていた。
ポタポタと流れ落ちる血。そんな血が付いている剣を男は大雑把に投げ捨てる。
剣を投げ捨てた瞬間、剣はひび割れ、砕ける。
砕けた剣はまるで何事もなかったかのように消滅し、消え去った。
剣を投げ捨てた手を再び強く握りしめると、その手からバキバキと氷が現れ、その氷が徐々に形を成していき、やがてそれが先程投げ捨てた剣へと姿を変えた。
男はその剣をもう一本作り、洞窟のさらに奥へと進んでいった。
*
男が洞窟の奥へと進んでいくと、そこでようやく開けた場所に到着した。
そこは妙に明るく、洞窟とは思えないほど広々としており、ところどころ遺跡のような人工的な装飾を発見した。
『何者だ』
洞窟の開けたこの場所を静かに見渡していると、その洞窟内を響き渡る声で、何者が尋ねてきた。
男は慌てて周囲を見渡すが、周りには自分以外の者は誰一人としていなかった。
『質問に答えろ。お前は、何者だ?』
「……俺の名前は、ソラ。この青龍山に住んでいると言われている主、東の神・『青龍』に会いに来た! この声の主が青龍であるというならば、姿を現してくれ!」
ソラはみずから名を名乗り、声の主に呼びかける。
声の主はその呼びかけには答えず、響き渡っていた声も止み、誰の声も響かない時間が続く。
その後しばらくして、目の前にゆらゆらと巨大な龍が姿を現した。
『いかにも。我こそ、この青龍山を統べる神。『青龍』である』
「………」
『うん? どうしたのだ?』
「い、いえ……。こんな立派な姿だとは思っておらず……。驚いていました」
『ふっ。そうか』
「ええ。……では早速なのですが」
『なんだ?』
ソラは突然現れた龍の姿に驚きつつも、本題の話を進めるていくことにした。
「青龍様。是非、あなたの力をお借りしたいのです」
*
「ささ。こちらでございます」
「あ、あの……。私達、ソラを……」
「こちらの料理、食べてみてください。おいしいですよ」
「い、いえ、あの……」
竜人族の里たどり着いたコレット達はどういうわけかもてなされていた。
コレットは自分たちが何故もてなされているのか理解できず、だが断ることもできず、困惑していた。
「さあコレット様。こちらを、」
「いい加減にしなさい!」
そんな中、竜人族達に間に割って入って来たのは、クロエや音姫ではなく、意外なことにユゥリであった。
「ユゥリさん……」
「あなた達。一体どんな考えがあるのかわからないけど、私達はやらなければならないことがあるの。あなた達に時間を取られている暇はないわ」
「「………」」
ユゥリが里の者達にそう言い放つと、里の者達は俯いて、騒いでいた話し声が静まり返る。
そして、
「!」
「!? ま、待ってください!」
この場に集まった里の者達が、箒や食器、フォークや鍋の蓋などを持ち始め、一斉に構え始めた。
コレットは慌てて里の者達に止まるように呼びかけるが、その声に従う者は誰一人いなかった。
ジリジリとコレット達に詰め寄る里の者達。
「やめんか!」
そんな里の者達を止めたのは一人のご老人の一括であった。
「ちょ、長老!」
「数時間も経たない間に、お主達は何度同じことを繰り返せばいいのだ!」
「………あ、ママ!」
「ゆ、ユイちゃん?!」
コレット達に詰め寄っていた竜人族の者達を止めた長老と呼ばれるご老人は部屋の中に入ってくると同時に里の者を叱りつけていた。
その足元には、ソラと同時にいなくなったはずのユイの姿もあり、ユイはコレットの姿に気が付くと嬉しそうに抱きついた。
「ユイちゃん! どうしてこんなところに……」
「ソラがね、みんなを助けるために、ここに来なくちゃいけないんだって」
「ソラが?」
「それでね。ここに来たら、突然みんながソラに襲いかかってきたの!
ソラは最初、すごいくらいその攻撃を避けていたんだけど、当然ソラが怖い顔になって、襲ってきた人みんな凍らせちゃたの!
すぐに溶かしてみんな助けたけど、とうしょう? っていうので、みんなまだ眠ってて、私はおじいちゃんと一緒に眠ているみんなをお世話してたの!」
「一緒にいた御仁は、娘さんの頭を撫でて聖地へ向かいました。「ここにいても、俺のできることはありませんから。ユイちゃんを頼みます」と言ってな。この者達は、御仁からの話を聞き、足止めでも頼まれていたのでしょう」
ユイの言葉を交え、長老がなぜソラがここにいないのかを答える。コレット達は、なぜソラがここに来なければならなかったかを知ることが出来ず、がっかりする。
その時、突如大きな地震が起きた。
コレット達は慌てて物陰に避難して身を守る。地震はすぐに収まり、全員がほっと一安心すると、外にいた里の者が部屋の中に飛び込んできた。
「長老! 大変です! 聖域が!」
「どうしたというのだ!」
入ってきた里の者の後を追って、外へ飛び出すと、聖域と呼ばれる青龍山頂上付近に、大きな穴が開いていた。
*
『ほう……今のを躱すか……』
「はぁ……はぁ……はぁ……」
青龍山内部では、大穴が開いた天井の下で、ソラが息を切らしながら、膝をついていた。
ソラは青龍に鋭く睨みつける。
それを見た青龍はニヤリ不敵に笑い、自身の翼で大きく仰ぐ。
ソラは仰がれた翼の風で、吹き飛ばされそうになるが、どうにかして堪える。
しかし、その風のせいで、穴が開いていた天井が崩れ、その真下にいたソラに降りかかった。
ソラは身動きが取れず、崩れた岩に生き埋めになる。
それを見ていた青龍は嬉しそうに笑い声をあげるのであった。




