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空っぽの武装魔道士δ  作者: 火琉羅
中央国協同魔法学校
203/246

中央国、経つ。

 ソラがいなくなる少し前


 ソラは誰一人目を覚ましていない時間に一人、静かに旅の準備を済ませていた。


「と言っても、持って行くものなんて、姿を隠すローブとかしか無いけどな……」


 ソラが独り言のように呟いた言葉に誰も返事が返ってこないので、少しだけ寂しくもある。


『なら、全てを壊してしまえばいいんじゃないのか?』

「ソルガ……」

『この世にある全てを破壊すれば、お前が望む全てが手に入る。この世界も、あの女も』

「………」

『お前が望むのならば、あとは俺に任せろ。お前が望むまま、望む通りに、この世の全てをお前にくれてやろう』

「………僕が本当に望んでいることを、()()()()()()()()だろう?」

『………お前はまだ、囚われているのか?』

「………」


 ソラはなにも言わず、ただ静かに部屋を出て行った。


(そんなこと、僕はだってわかってるよ……)


 そんな言葉を胸に秘めながら、ソラは足音を殺しながらゆっくりと廊下を歩いていく。

 本当に望んでいること、それが叶わないと自分でもわかっているからこそ、自分が望んでいることを絶対に口にしたりしない。


 自分の望みなんて、()にとってはとても小さなことなのだから……。


 ソラが玄関ホールまでやってきて、音を立てないように気をつけながら、扉を開こうとすると、


「ソラ〜……?」

「!? ユ、ユイちゃん?」

「どこか…行くの……?」


 とても眠たそうなユイが瞼を擦りながら現れた。


 ソラは予想外な人物の登場に驚いて目を大きく見開いた。


 ユイはふらふらとおぼつかない足取りで、ソラの側に近づき、尋ねる。ソラは顔をしかめながら、どのように返答するべきか悩む。


「……少し、遠くにね」

「出かけるの! 私も行く!」

「うん……。……いいよ」

「そうだ! ママも一緒に、」

「ユイちゃん」


 言葉に悩んだ挙句、出かけると、ただその一言だけを言った。ユイはぱぁぁ!っと眠そうだった表情から明るくなって、元気になった。


 ソラはダメだと言って騒がれるよりは、静かにしてほしいという理由から、嫌々だったが、それを了承した。


 その時、ユイは自分の母親であるコレットも一緒に行きたいと言い出そうとし、ソラは慌ててそれを止めた。

 ユイは首を傾けながらどうしたのという表情をしていた。


「……ごめんね。コレットは……ママ連れて行けないんだ」

「どうして?」

「………どうしても……連れて行けないんだ……」

「……」

「頼む……」


 ソラは様々な思いを押し殺しながらユイを必死に引き止める。ソラが引き止めたユイはソラが込めた手の力に痛そうな表情を浮かべたが、ソラが辛そうな表情を目の当たりにし、驚いた表情を浮かべたが、それ以上何かするということはなかった。


「………わかった」

「……ありがとう」


 ソラはユイを掴んでいた手を離して、立ち上がる。そして再び扉に手をかけようとして、


「そ、ソラ!」

「うん?」

「待ってて!」


 そう言い残し、ユイは急ぎ足で家の中の方へと戻っていく。今度はソラの方がわからず首を傾けていると、外に出かける格好に着替えて戻ってきた。


「お待たせ」

「え、着替え……。コレットと同じ部屋だったよな? もしかして、起きた……」

「ママ、最近忙しいみたいで、ずっと一緒に眠れてないの……」

「!? ごめんね。寂しかったね。大丈夫。僕もコレットも、ユイちゃんのこと、大切に思ってるからね」

「うん……」


 ソラはユイの体を強く抱きしめる。ユイはソラの耳元で消え入りそうな声で頷き、涙をこぼした。


 こうして、二人は誰も目覚めていない朝早くに、皇国の別荘を後にした。

 目的はだった一つ。『残り二つとなったある物を回収する』。その目的の為に。



 *



 青龍山に向かうことを決めたコレット達は、すぐに出発の準備を整えていたのだが、それよりも先に行動を起こしたものがいた。


「コレット!」

「エリーゼ……きゃあ!」

「これは一体どういうことよ! どうして皇王の別荘で何処かに出かける準備をしているのよ?」

「う、うん……。ちょっと、青龍山に……」

「青龍山? まさか、皇国も竜人族を討ちに?」

「ううん。それは違くて……ソラとユイちゃんが突然いなくなったの」

「いなくなったって……どういうことなの?」

「わからない……。わからないけど、きっと、大事なことなんだと思う。だから、一番ソラが向かった可能性のある青龍山に向かおうと準備しているの」

「そうだったのね……」

「……エリーゼは? 私に何か用があったんじゃないの?」

「そ、そうよ! そうだったわ! あなた、帝国の招集を蹴ったのよね?」

「はい。そうですけど……」

「今こっちに、その帝国の招集に応じてそれに賛同する人達がこちらに向かっているわ」

「え!?」

「あなたはつい先日に学校の問題を解決した人よ。帝王はあなたがこの作戦に参加することで、三国の総意としたの。だから、その考えに反対したいのなら、急いでこの場を去らないと!」

「で、でも、また準備が……」

「その必要はありませんよ、コレットさん」


 コレットとエリーゼの会話に何者かが割って入ってきた。二人が割って入ってきた方を視線を向けると、そこにはライトがおり、その後ろには同じような学生や帝国の兵隊がそこにいた。


「ホプキングさん?」

「コレットさん。あなたはこれからここにいる帝国のみなさんと共に竜人族の討伐に行くんだ」

「ライト……あんたっ!」

「君の力があれば、竜人族なんて一掃できる。なに。大したことじゃないさ! 奴らは魔族の奴らと同じなんだから!」

「………」

「さあ、一緒に来るんだ。そして君の力を、」

「ごめんなさい。今、急いでいます。あなたに構っている時間はありません」


 コレットはライトに向けてそう言い放ち、他の者達に準備を急がせる。


「ホプキングさん。私は、敵を倒すことよりも、もっとその先にあるものこそが、私達が一番に考えなければならないことだと思います」

「その先?」

「それは誰もが望んでいる平和。お互いに手を取り合って、一緒に笑い合える。そこには種族も隔たりもない。そんな当たり前こそ、私達が目指すべき未来なんじゃありませんか?」

「理想論だよ」

「その理想を追い求めるから、平和が訪れるんです。敵だから、ただ倒す。ただ殺すでは、戦争なんて絶対になくなりません。それではまた新たな憎しみを生み、また争いが起きる。そんな憎しみの連鎖を断ち切らなければ………」

(そっか……。だからソラは、それがわかっててあんな目標を……)

「その通りよコレット」


 そんな声とが聞こえると、突然巨大な竜巻が起こり、その真下にいた帝国の兵隊達を巻き込んで一斉に吹き飛ばした。


「ぁ、ぁぁ……」

「ただ力を振るい、それで戦争を終わらしたところでなんの解決にもならない。それでも争いをやめないこの世界が嫌で、私は奈落に身を隠したのよ」

「クロエさん」

「コレット。あなたは間違っていない。戦争なんて憎しみを生むだけの行為よ」


 現れたクロエは自分のスタイルをまざまざと見せつける真っ黒なドレス姿と、戦闘準備万端といった格好であった。


「その意思を貫きなさい。ソラだって、その意思は変わらないわ」

「! ……はい!」


 その場に一人、ライトだけが取り残され、腰を抜かして地面に座り込んでいるのをよそ目に、コレットはクロエの言葉に頷いた。


 そして別荘にいた皇国の者達が準備が完了したことを伝えていると、その隣にいたエリーゼが遅れてやってきたカンナを発見した。


「カンナ先生、遅いですよ」

「私だって、王都での役割があります。その役割を簡単に放っておく程、暇では………」

「あら? カンナじゃない。久しぶりね」

()()()()!?」

「「師匠!?」」

「といっても、あなたの師をしていた時期はたったの二十年」

「「二十……」」

「い、今はそんな事いいですから!」


 カンナはそう叫び、確かにその通りだとコレット達は準備をした荷物の場所へと集まる。そこには無数の道具や着替え、食料なんかもあったが、コレットとカンナの指示により、時間をかけて申し訳なさそうにしていたが、手頃な食料等だけを持って行くことにした。


「カンナ。あなたがいるなら、私はコレット達についていきます。こちらの状況は随時報告しなさい」

「は、はい!」

「それとエリーゼさん、あなたも来なさい」

「え?」

「ソラを連れて帰るんです。弟を迎えに行くのも、姉の仕事でしょ?」


 クロエはエリーゼとカンナに指示を出すと、自身の姿を本来の姿であるドラゴンの姿へと変身した。


『極力影響のないようにするわ。早くなりなさい』


 ドラゴンとなったクロエがそう言うと、コレットはエリーゼの手を取ってクロエの背になる。

 クロエがドラゴンだったと知らなかった者達は固まり、身動きが取れなったが、音姫はヴァルゴが、洸夜と優雅はクロエ自身の尻尾で背中になり、翼を大きく広げて羽ばたき始めた。


「いってきます! お父様! お母様!」


 コレットが下を見下ろしながらそう叫ぶとマリーはコレット達に向けて手を振り、アッシュはただ静かに見つめていた。


 翼を広げ、空を飛び始めたクロエは真っ直ぐに東の山、『青龍山』に向けて羽ばたき始めた。


(待っててね、ソラ……。今、追いつくから!)


 コレットはそんな決意のもと、静かに青龍山の方を見つめていた。

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