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空っぽの武装魔道士δ  作者: 火琉羅
中央国協同魔法学校
202/246

いなくなった彼。

『……お前は一体何のために戦っているんだ?』

『私と同じような人を出さないためです』

『同じ人を出さないためとは?』

『私の家族は魔族の人達に殺されてしまいました。だから、私は、私と同じような被害者がもう二度と出ないためにも、私が出来ることをやりたいです!』



 *



「どうして誰も見ていないんですか!?」

「も、申し訳ありません!」


 目を覚ましたコレットはすぐに異変に気がついた。


 一目散にソラの部屋に駆け込むとそこには誰もおらず、もぬけの殻となっていた。


「お、落ち着いてください、コレットさん」

「オトメさんは呑気にしている場合ですか! いなくなったんですよ!」

「わかってます。だからこそ、落ち着いて考えましょう」

「………はい、わかりました」


 ソラがいなくなったことで、荒れていたコレットを落ち着かせたのは同年代である音姫であった。


 コレットは自身を落ち着かせている音姫がわずかに震えているのを両腕を掴んでいる手から手から伝わってきた。

 それに気づいたコレットは音姫も同様に不安なのだと気づき、ゆっくりと落ち着きを取り戻していった。


「それにしても、どこへ向かったのかしら?」

「それは……何処なんでしょうか、ヴァルゴさん」

「……」


 この場にいたジェラード家族と異世界からやってきた音姫と洸夜と優雅、そしてそんな彼らを守るために集まった兵士達が、この場にいるたった一人、ヴァルゴに向けて視線が集める。


「ヴァルゴさん。あなた、この一週間で唯一、ソラとちゃんと話していたわよね? ソラが何処にいったのか、心当たりが無いかしら?」

「…………」

「………? ???」


 マリーはこの場のまとめ役としてヴァルゴにソラの居場所に心当たりが無いのかを尋ねたが、その問いには答えずに、じっと一人を……コレットをただ静かに見つめていた。


 コレットは自分に視線を向けられている理由がわからず、首を傾ける。だがそれでもヴァルゴの視線が逸れることはなかった。


「な、なにか?」

「……わかりません」

「え?」

「あなたは……本当に()()コレット姫なのですか?」

「……あの?」


 ヴァルゴとコレットの会話に周囲が騒ぎ始める。


 意味のわからないことを呟いたヴァルゴ。しかしこの場にいたコレットだけはその言葉の意味をしっかりと理解していた。


(彼女は、私を知っているんだ……。アンノーンさんやⅣが言っていた、今の私じゃない未来の私……)


「あのあなたは()()()()のことで動揺するなんてしませんでした。今に壊れてしまいそうなガラス細工だったあなたを音姫が愛した彼は支え続けたのではないですか?」


 ヴァルゴのその一言で心の内を暴露され、慌てふためき始める音姫。その姿をこの場にいた男どもは可愛らしいと思ってほっこりする。


 そんな空気の中でもコレットは真っ直ぐにヴァルゴと向き合っていた。


 自分はあなたの知っている私とは違う。そういうことは簡単だった。しかし、ヴァルゴやアンノーン、Ⅳが知っているであろうコレットもまたコレットであり、自分自身なのであった。


「………今…今私が言えることは、私は私であるということです。

 あなたが知っている私は、本当に壊れてしまいそうな、とても無理をしているいびつな存在なんだと思います」

「………」

「そんな私を、彼は支え続けてくれました。壊れそうになった時、辛くなった時、彼がいたから今の私があります。

 だから今度は、私が彼を……()()()()!」

「……難しいわよ。私ですら理解できないなにかを、彼は持っている」

「覚悟の上です」


 二人の表情はとても真剣で、先程騒いでいた男ども達を含め、この場にいる全員が二人の雰囲気に固唾を飲んで見守っていた。


 そんな中、集まっていたこの場所の扉が勢いよく開かれ、息を切らした兵士が二人飛び込んできた。


「どうしたのだ?」

「ほ、報告があります! 今しがた、帝国の王が通達を出し、東に位置する竜人族の里を魔族に味方する敵として()()の命を下しました!」

「なんだと!?」

「さしあたっては、三国からも共同で討伐班を結成。早急に討伐に向かうとのことです!」

「なら、急いだ方がいいでしょうね」


 兵士とアッシュの会話にヴァルゴは自分に視線を集めるような音量で声を漏らした。


「い、急いだ方がいいって……」

「ソラが向かったのはまさにそこ。竜人族の里よりもさらに奥にある東の山、『青龍山』に向かいました」

「せいりゅうざん?」

「世界の中心に作ったこの中央国から本当に真東にある山で、遥か太古から青龍山は東の山と言われるほど有名な山よ」

「そんな山にソラどうして向かったのですか?」

「それはわかりません。直接本人に聞いてみないと……」

「でしたら、急ぎましょう! 時間がありません!」

「お、お待ちください!」

「どうして止まるんですか!?」

「帝王はコレットは必ず参加して欲しいと言っているのです。それを無下にすれば、魔族との戦争前に味方同士で争わなければならなくなります!

 ですので、出立は数刻遅らせることはできませんか?」

「っ……」


 今にでも青龍山に向かいたかったコレットだったが、国の事情もわかっているため、悔しながらも下唇を噛んで堪えた。


「さらに、コレット様に伝えなければならないことが……」

「………ほかに、なにか?」

「はい……。実は、ユイ様の姿が()()()()()()()()()()のです……」

「………え?」

「さ、探せるところは全て探しました! しかし、それでも見つけることができず……」

「………まさかあの子!」

「はい……。おそらく、ソラ様について行ったのかと思われます」

「そんな……」

「………コレット、すぐに支度せよ」

「え?」

「急ぎ()()()()()()()()。お前はこんなところでのんびりしている場合ではなく、ソラを救うことが、今のお前の役目なのではないか?」

「………わかった! ありがとうございます、お父さん!」

「コレット様、私達も行きます」

「友達によく似たやつを放っておけるか」

「性格も良く似てるしね。面倒なことを背負い込むタイプ」

「違いない」

「ユゥリ、お前も付いていけ。コレット護衛、頼んだぞ」

「は!」

「………ありがとうございます!」


 こうしてコレット達はソラの後を追って青龍山に向かった。


 そして、その青龍山こそ、誰も知らない新たな未来への道を作り出すことをこの時は誰も知らなかった。



 *



「ソラ?」

「…………ああ。ごめんね、ユイちゃん。少し、寝ちゃってた……」

「大丈夫? うなされてたよ?」

「うん。もう、大丈夫だから……」


 いつのまにか眠っていた僕はユイちゃんの呼びかけで目を覚ました。ユイちゃんが心配になって起こしてしまう程、苦しくうなされていたらしい。


 ごめんね、ユイちゃん。


 やっぱり、連れて来ない方が、よかったかな……。


 ザザッ!


「イッ!」

「どうしたの?」

「ああ、いや、大丈夫。なんともないから……」


 頭の中に一瞬だけノイズが流れる。大丈夫だとユイちゃんにはそう言ったが、一瞬だけ流れたそのノイズの中にほんの一瞬だが、あるものが見えた。


 それは正方形の形をした時計が描かれたクリアプレートと花の絵が描かれた羽織を着ている絵が描かれているクリアプレートだった。

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