拳振るう破壊者
引き金引き、魔装の力を身に纏ったソラの姿はいつもの黒色に近い青の魔装ではなく、暴走したソラの意思がない真っ白な魔装だった。
「白い…魔装……。ということは、」
「そうだ。あいつの意識はもうすでにない。完全にソルガに呑まれたんだ」
「『そういうことだ』」
白い魔装を身に纏ったソラを見て表情を歪ませるⅣと不安な表情を浮かべるコレット。そんな二人に返事を返したのは二人の目の前にいるソラ……いや、ソルガであった。
「『Ⅳ……未来を望む過去の俺よ。ソラもソラも、たった一人の人間にこだわりすぎなんだよ』」
「黙れ。お前だって、たった一人の女を殺す為に、力を使い、それを常に利用され続けた奴が、何をほざいているんだ」
「『確かにな。まあ、否定はしないさ』」
Ⅳの言葉にソラの身体を操っているソルガはいとも簡単にその言葉を認めた。ただし、その表情は笑みを崩さなかった。
「『だが今回のソラはいい個体だ。今回で三度目になるが、本当に身体が馴染む』」
「?! 三度目?!」
「『そうだ。お前らでは、一度たりとも耐えきれなかった俺の力の解放をこいつは一切抑える必要がないからな』」
「ならばなおのこと、その男を生かしておくわけにはいかない。その男は奴らの計画の核だ。殺せば、奴らの計画は完遂されない」
「『その場合、乙女座の王子様が、もしくは貴様が人柱となるだけの話だ。ほかの枝と何も変わりはしない。愛すべき人が死に、お前らの自らの手で世界を滅ぼす。それだけだ』」
「それでも、彼女が死なない未来を掴めるなら、」
「『だからこそ、こいつの希望であるその女を殺す。心の拠り所なんていう甘いものを残しているから世界が滅びる。だったら最初から無くしてしまえばいい。そんな簡単な事にも気付かないほど、お前ら哀れな下等種だ』」
「……お前だって、切り捨てられないから、ソラの魔核なんだろう?」
「『俺は俺の目的で動いている。ソラの中にいるのはそれが最も効率がいいからだ』」
「効率がいいのは俺も同意だ」
そういってコレットを話し、自前の鎖鎌を取り出し、クリアプレートを手に取って鎌の挿入口に差し_________、
「『俺から切り取ったそんな中途半端な力で勝てると思っているのか?』」
「本来の力を使うことのできない貴様ならば、問題ない」
「『それもそうだな。ならば、こうする事にしょう』」
ソルガもⅣに答えるようにして懐から十字架のクリアプレートを取り出した。
「『ほう。その程度の力しか込められていないお前が抵抗するか……調子に乗るなよ』」
その言葉を口にすると手にしたクリアプレートが光り輝き、そして弾けた。
ソルガそのクリアプレートをリボルバーのもう一つの差込口に差し込み、銃口を空に向けて構える。
Ⅳもクリアプレートを差し込む、魔装『闇狩る大鎌』を発動させるとそれを構え、ソルガに一気に襲いかかった。
振り上げられた鎌をソラを乗っ取ったソルガに向けて振り下ろすⅣだったが、それよりも先にプレートが装填された引き金が引かれた。
引き金が開かれるとソルガの周りに魔装の盾がすべで出現し、身を守るようにソルガの周囲を周りながら浮かび上がり、鎌の刃を弾き飛ばした。
そして両手を横に広げ、その先にある盾が横に飛んでいき、大きく円を描き、ソルガのあたり周辺を激しい回転をしながら、飛び回った。Ⅳはその盾にぶつからないように距離を取っていった。
浮かぶ盾に守られながら両腕をを広げていたソルガはその手をグッと握りしめると大回りに飛び回っていた盾がその手元に向けて飛び込んでいった。
激しい回転をしながらソルガの手に向けて飛んでいくと盾が少しずつ小さくなっていき、白い魔装に装着されてあった白い籠手と十字架が合体し、十字架の重なり合った盾の部分はグローブとなり、新たな武器の形へと進化を遂げた。
「グローブ……?」
「『そうだ。これがソラの力を完全以上に引き出せる魔装……『拳振るう破壊者』とでも名付ければ、それっぽいか?』」
ソルガが拳振るう破壊者と名付けたそれはこの場において、足手まといとなりつつあるコレットには最もふさわしい力だと思った。
ソラは基本、武器を使う戦いをしない。
氷を作り出し、炎を燃やし、またその炎で全てを凍らせ、また氷で全てを燃え上がらせる。
それら変則的な戦いをするからこそ、ソラは自身が武器を持っての戦闘が不慣れなのであった。
二年での奈落での特訓では魔法での戦闘や様々な武器を使っての特訓を行い、魔装である現在ソルガの周囲に浮いてある二つの盾を剣や棍、叩きつけるハンマーのような変則的な使用をして戦ってきた。
しかし、今はそのしがらみがない。
自分が望むように武器を、拳を振るい、力を振るい、そして魔導をうまく掛け合わせることができる。
それはつまり、
「氷炎双拳」
「冥界斬首!」
二人の空いていた距離が一気に詰められ、お互いに魔導の力を発動する。
Ⅳが持つ大きな鎌は黒い光に包まれ、ソルガの拳は強い冷気と燃え上がる炎に包まれる。
ソルガ襲いかかってくるⅣに向けて冷気をまとった拳を横に振るうとその冷気に触れた空気の水分が一瞬にして蒸発した。
水分が一気に蒸発した事で、蒸発した熱気と水分が無くなった乾燥した酸素に触れ、燃え上がった炎がⅣを襲う。
魔導の攻撃をやめ、炎を払い除けると、今度は逆の手の炎が襲いかかってくる。だがそれも同様に払い除けようとすると、今度はその炎が触れた瞬間、凍りついた。
炎に触れて凍りついた事で、動揺が生まれるⅣ。それに追撃をかけるように冷気を纏った右拳が振り下ろす。
(冷気の方の拳。ならばその手の冷気は燃え上がる!)
ソルガが使う『氷炎双拳』の特徴を理解し始めたⅣは、その冷気が炎となると判断し、払い除ける。しかし、払い除けようと触れた部分はその拳によって凍りついた。
それだけでは終わらない。
払い除けようと触れた拳はさらに容赦無く突き刺さり、ステージの外まで力強く殴り飛ばした。
場外まで殴り飛ばされたⅣはみぞおちを抑えながら咳き込み、苦しそうにうずくまった。だがソルガはその手を緩めず、地面を強く踏み込むとⅣが横たわる地面がトゲトゲの氷の柱が何本も生え、襲っていた。
そう。これがコレットが確信した、ソラに最もふさわしい力なのだ。
肉弾戦、そして戦闘面での持続時間。その基本として自分の肉体を使った戦闘するのがソラの戦闘スタイル。盾を使う戦い方は一つ一つ戦い方が大振りとなり、無駄な体力を削っていた。
しかし、今はその必要が全くない。拳を振るい、脚を蹴り上げ、身体全体を使って敵を倒すことが出来る。
「『おいおい。その程度でやられくれるなよ。喧嘩をふっかけてきたのはお前で、まだまだアップなんだからな』」
拳振るう破壊者。
それがソラの魔装の完成形であった。