罰
仮面が壊れ、自身の姿が露わとなったⅣ。
その姿を見て、二人はただ静かに見つめ合う。
ソラは目の前に存在するⅣの姿……自分とまったく同じ姿をした男に言葉を出すことができなかった。
「おいおいどうした? なにをそんなに驚いているんだ?」
「だ、だってお前……その姿を……」
「だからなんだと言っているだろう。俺とお前はよく似ている、と」
「だからって、まったく同じ存在なんでわかるはずないだろう!」
「まったく同じわけがないだろう。そもそも育ってきた環境が違う。お前は誰かを殺したことを死ぬほど後悔をしているが、俺はそれに対してなにも思うことはない。〝死んでしまった〟。ただそれだけだ」
もっとも、大空 空も後悔をするだろうけどな。と言いながら、Ⅳは空を見上げた。
今朝は今にも泣き出しそうなほど鉛色の空だったにもかかわらず、現在では所々に太陽の光が差し込み始めていた。
「……明るいところは、あんまり好きではないのだがな」
そう呟き、ため息を漏らした。
「俺とお前は同類だ。まったく同じ存在でありながら、意思や感情、その上考え方も完全に別ものだ。そんな奴を俺達は同じ存在だと言わないし、同じ人間だと言わない。それがソラ達だ。
だが、別の人間だろうと、ソラはソラだ。本質からは決して逃れることはできない!」
それはソラがエデュート倒す際に感じた幸福感を指しており、その幸福感こそが自分たちの証明であると示唆していた。そしてそれに対してまったく否定しきれない、それどころか、その幸福感を自分自身が認めている。そのことが自身の心を強く蝕んでいった……。
そして、本当にわからないことがあった。
「……君が僕と同じだというのなら、どうして僕が消えれば平和になると言い切ることができるんだよ!」
「……」
「たとえ別人だろうと、僕も君はまったく同じ存在だ。だったら、君も僕と同じことが言えるんじゃないのか?」
「……たしかにその通り。俺が消えても同じことは言える」
ソラが自身の消滅することで平和になるとⅣは言った。ならば、Ⅳもそれとまったく同じことが言えるのではないのか。ソラはそう疑問に思い、尋ねてみるとⅣはあっさりとそれを認めた。
「だったら!」
「もうすでに行い、そして失敗していなければ、お前にこんなことは言わないだろう」
「……しっ、ぱい?」
「そう。失敗したんだ……」
「だから……彼女を殺してしまったんだ」
「?!」
Ⅳが言った言葉にまるで電流のような痛みとともに身に覚えのないはずの映像が流れ出した。
それはまるで戦場のような荒れ果てた荒野の中、真っ黒なローブにまといながら涙を流し、泣き叫ぶ男の姿と、その男が横たわっている人を抱き上げながら、ピクリとも動かない女性……コレットが安らいだ姿で、まるで眠るように亡くなっていた。
そして泣き叫ぶ男の周りの地面から白い靄が噴き出し、男の周りを包み込んだ。そしてその白い靄が男の姿を完全に隠すと、その白い靄の外側の地面から巨大な口が現れ、白い靄ごと男を丸呑みにした。
そこでバチッ!と映像が途切れ、襲いかかる痛みに頭を抑える。
苦しそうな頭を抑えるソラの姿を見ながらも、Ⅳは言葉を続けた。
「俺達は、ひとりの女に救われた。その女は、俺が敵であるとわかっていながら、傷を癒し、生きろと言った俺達のよく知る女が。
俺達は、そんな彼女を守れなかった。必死に手を伸ばして、守ろうとしたのに、俺は結局何もできなかった……」
「……」
ソラは話を聞きながら、先ほど流れた映像を思い浮かべる。戦場で亡くなったコレット。それを抱き上げる男……。それが誰なのか、同時に彼が彼女を求める理由をソラは理解してしまった。
「だから、俺達は争うんだ。あいつらの計画を潰すために」
「……計画?」
「……」
Ⅳが目的を持って行動をしていると知ったソラはその核心である計画について尋ねた。
しかし、Ⅳはそこで初めてソラが尋ねた問いに、何も答えることはしなかった。Ⅳは地面を強く蹴り、ソラが持っているリボルバーを蹴り上げる。
一瞬、何が起きたのかわからなかったソラ。上を見上げると、先ほどまで持っていた自分の銃と、その銃に対してⅣは手を伸ばし、掴み取っていた。
リボルバーを手にしたⅣは魔力を込める。そして、
「計画については……俺の口から話すことはもうない!」
魔力の込められたリボルバーをソラに向けると容赦なくその弾丸を放った。弾丸はソラの額に撃ち込まれ、後方へ吹き飛ばされながら、仰向けに倒れた。
「きゃあぁぁぁぁああ!!!」
そして撃たれ、仰向けに倒れたソラの姿を見てしまった人物がいた。
*
私は、彼がいなくなってすぐに駆け出した。
最初に先程までいた時計塔。でもそこにいなかった。だから思い当たる場所を全て回った。私達が通う教室。リシアさん達がいる職員室。カンナさんの研究室。その全ても回って彼をどこにも見つけることが出来なかったから、最後に闘技場へ向かった。
彼を探している時、私はすごく後悔していた。
私は気付いていた。わかっていたはずなのに、私は彼を一人にしてしまった。
笑っていた彼。弓を引く時、彼は私も見たことのないとても嬉しそうな彼の笑顔を見てしまった。本心から笑っている彼の姿を……。
でも、私は見て見ぬ振りをした。そんなことない。彼がそんな人な訳がないと、そう決めつけて、目を逸らして、彼を見ようともしなかった。
だから、これはきっと罰……。
「きゃあぁぁぁぁああ!!!」
彼の手を離してしまった、私への罰なのだ……。
*
「ソラ!」
コレットは倒れたソラに向けて走り出し、駆け寄る。
必死になって声をかける私。しかし、ソラはピクリとも動こうとしない。それでも必死に声をかけ続けた。
そんなコレットに着地したⅣはゆっくりと近づいていった。近づいていくるⅣに気付き、顔を向けてその素顔を覗き込み、ソラと同じ顔をであることを知ると、驚いた表情を浮かべたが、すぐに顔を引き締め、目頭に涙を溜めながら強く睨みつけた。
「あなたが……ソラを!」
「俺がソラを殺す。それが俺のやるべきことだ」
「………」
コレットはソラの身体を強く抱きながら、Ⅳを睨みつけ続ける。そしてⅣ自身も、コレットの初めてみる怒りの表情に困惑して言葉を発することができなかった。
二人がお互いに固まり、そしてこう着状態続く中、ソラの右腕がピクリと動いた。
「?! ソラ!」
コレットはソラの動いた右腕に反応して呼びかける。
そんな声に応えるかのようにソラはゆっくりと右腕をあげる。Ⅳも動き始めたソラに驚いた表情を浮かべ、二人の様子を見守る。
「ソラ……よかった!」
コレットはソラのをさらに強く抱きしめる。ソラはゆっくりとあげた手が天に向け掲げらると、大きく手を開いた。
とここで、Ⅳは気付いた。ソラの魔力が変質してしまっているということに。
ソラはソラに向けて掲げた手で爪を立て、それ勢いよくコレットに向けて振り下ろした。
Ⅳはソラを抱きしめあるコレットを無理矢理か引き剥がし、距離を取る。その際、振り下ろされた爪がⅣが持っているリボルバーを触れ、その手から奪い取った。
「?! は、離して!」
「ダメだ! あのソラは、もうソラじゃない!」
変質した魔力のソラを見ながら、警戒する。引き剥がされたコレットは、先の言葉にとある可能性が頭をよぎっていた。
ソラは身体を反らしながらまるでゾンビのように身体を起き上がらせていき、手にしたリボルバーのバレルを開く。そして懐からふわふわと捕食者が描かれたクリアプレートと十字架のクリアプレートの二つが開いたバレルの下にある挿入口に差し込まれた。
「……ひさぶりだな。この時をずっと待っていたのか? ソルガ!」
「『……Gisya!』」
開いバレルが勝手に閉じられると、不気味な笑みを浮かべながら、ソルガと呼ばれた黄色い瞳をしたソラが不気味な笑みを浮かべながら、引き金を引いた。