中央国魔法学校立て籠り事件
「Agaaaaaaa!!!」
咆哮をあげながら、怪物は大きな拳を振り下ろす。
ソラは振り下ろされた拳を魔装の盾で防ぎ、受け止める。
「全員散会! ひとかたまりにならず、出来るだけ距離を取って!」
怪物の攻撃を防いだソラは皆に指示を出す。それに従い、全員が距離を取る。
しかし、その指示には従わず、その場で大きく回るミスト。自身の尻尾を大きく振り回し、勢いをつける。その時ソラは支えていた盾の力を緩ませ、脚で踏ん張りながらも態勢を崩す。怪物は突然ソラの態勢が崩れたことに反応できず、前のめりに倒れそうになる。
その瞬間にソラは力を抜き、盾で正面を守りながら地面の上に仰向けに倒れる。
そして倒れる同時に勢いよく振り回されていたミストの尻尾が怪物の身体を捉え、そのまま時計塔の入り口の方に払い飛ばした。
「キャノン・フレア!」
「ユニコーン・アロー!」
ミストに払い飛ばされ、時計塔に激突したと同時に斜めからカンナは上位魔法を放ち、コレットは一角の馬の姿となった矢を放った。
時計塔に激突し、時計塔の壁が崩れながら砂埃が上がる場所に巨大な火球と一角の矢が深く突き刺さり、怪物は苦しそうな悲鳴をあげる。
だが、そんな悲鳴をあげながらも怪物は立ち上がろうと砂埃が、顔を出して咆哮をあげる。
怯むカンナとコレット。それを横目に氷の柱が怪物に向けて容赦なく突き刺さる。
コレット達が振り返るとその先には仰向けに倒れたソラが身体を起き上がらせ、地面に手をつきながら、お得意の氷の柱を生み出していた。
身体に容赦なく突き刺さった氷の柱によって通常なら身動きが取れないほど深く突き刺さっていた。それだけソラが警戒していた証だった。
そしてその予感は的中する。
深く突き刺さった氷の柱に悲鳴をあげる怪物エデュート。その氷の柱に身体が貫かれようとも、エデュートは再び起き上がろうてしていた。
氷の柱の先端が紫に染まり、紫色の血がポタポタと滴り落ちる中、怪物エデュートは自らを貫いている氷の柱を砕こうとしていた。
「……やっぱり、そういうことか……」
「何が、そういうことなの?」
「薬を使ってるって言ってたから、なんとなく予想はしてたけど……もう彼は、ダメだろうな」
「……ダメって……」
「身体のもうほぼ全部が魔族になってる。力を増幅する薬と同時に、使用者には人間と生きていくことができなくなる薬なんだろう」
「そんな薬を……」
「しかも、あれは使い捨てだ」
「使い捨て?」
「薬を服用した人間のリミッターを外して、力を暴走させる効力がある…といえば分かりやすいかな?」
「暴走って……そんなことをしたら!」
「身体がボロボロになる。そしてあの暴走具合は間違いなく死ぬまで暴れ続けるだろうな」
「そ、そんな……!」
ソラの話を聞いてコレットの表情が絶望の色に染まる。
エデュートがあの怪物になる薬を使わせる原因を使ったのは他の誰でもない、コレットだ。
コレットはエデュートにこれ以上傷ついて欲しくなくて、だからこそ、説得を試みていた。
しかし結果はどうだ?
結果としてエデュートは説得に応じることはなく、さらには自分の命の灯火を燃やし尽くす薬を使ってしまった。
絶望に中に沈みつつあるコレットを見兼ねて、カンナはソラに尋ねた。
「だったら、彼を無力化した後、薬を取り除くことができれば、助けられるの?」
それはコレットにとってはわずかながらの希望であった。
助かるかもしれない。それだけでもコレットには希望になり得るものであった。
ソラはカンナの問いに言葉を渋る。それだけでソラの言葉のすべてを物語っており、それに気づいたカンナは顔を俯かせる。
悩んだ末、ソラは重苦しく口を開いた。
「ゼロ……ではない、と思う」
「そ、そうなんだね! だったら、」
「コレット。コレットは、融合……いや、変異してしまった細胞や魔力の分離の仕方を知っているのかい?」
「……」
「つまりは、そういうことだよ」
エデュートは薬使って身体をあの様な怪物に変質させた。ならば、変質してしまった魔力と身体を元に戻すために手段を見つけなければならない。ということは、それを持ち得ないソラ達は薬を撃ち込んだエデュートを救う為の手段がないということであった。
それを聞いたコレットは再び暗く俯いてしまう。
「……どうする?」
「え?」
「彼は裏切り者だ。生きていたとしても、政治的には死罪が確定している。このまま他の人に殺されるの待つか、これ以上罪を重ねない様にするのか……どっちがいい?」
「……」
「奴を倒すには、魔核を破壊するしかない。だからこそ、今回は君の指示に従う。彼のためにどうすべきか、君が答えを出して」
「安心なさい。全責任は私が待つわ」
「………」
ソラとカンナの言葉にコレットは深く深く考える。
必死になって考えて考えて、そして必死になって答えを導き出した。
「…………お願いします。もうこれ以上、彼が苦しまない様にしてください……」
「……わかった」
コレットは涙ながらに頭を下げて、ソラとカンナにお願いする。ソラは頭を下げるコレットの姿に表情が一変し、エデュートの方を見つめながらコレットの言葉に頷いた。
「カンナ。ちょっと本気でやるから、離れれて。五発限定だから、極力外したくない」
そう言いながら、ソラはおもむろにリボルバーを取り出し、銃口をエデュートに向けた。
「Agaaaaaaa、Aaaaaaaa!!!!」
エデュートが氷を砕き、攻撃態勢を取った瞬間、ソラがドパンッ!とリボルバーの引き金を引いた。
放たれた弾丸は怪物エデュートの眉間に直撃し、頭が仰け反るのと同時に四つ盾が襲いかかり、身体を時計塔内へと押し飛ばした。
引き金を引いたのと同時に魔装に身を包んだソラは四つの盾を引き寄せ、そのうちの一つを手に取る。
時計塔内へと押し飛ばされたエデュートはまだ止まることを知らず、再び立ち上がり、雄叫びをあげる。
その瞬間、雄叫びをあげたエデュートの顔がソラが持つ十字架の盾によって殴り潰された。
自分の何倍もの大きさのあるエデュートの顔を思いっきり殴りつけ、殴りつけた勢いのまま、地面を叩きつけた。
地面に叩きつけられ顔を殴りつけられた痛みにより、静かになるエデュート。ソラはそんなエデュートを殴りつけている盾を引き抜き、紫色の血が滴り落ちる。エデュートの顔を見るも無残に潰されていた。
しかし、ソラはこれで終わりと思っていなかった。事実、顔を潰されたエデュートはソラが盾を離した瞬間から再生を始めており、薬の影響下からか尋常ではない速度で再生されていた。
ソラはその時を狙って、盾二つを一列に並べ、二つの間に空間を作りその空間の先にエデュートの心臓部分を捉える。
そして、矢を射る様に態勢を取ると、手と盾の間に白い稲妻がほとばしる魔法の矢が現れ、二つの盾がまるで弓のようにしなり、白い弦が現れる。
ソラはその矢を外さない様にしっかりと狙いを定め、矢を放った。
「ジャッチメント・アロー!」
放たれた矢は怪物エデュートの心臓を見事に貫き、白い爆発の光を起こした。
その光は侵食していた薬を少しだけ浄化し、エデュートに正常な意識を取り戻させた。
「……さようなら」
ソラのその言葉と共にパリッーン!っという音が聞こえ、ソラが放った矢と共にエデュートの身体も消滅していった。
光が晴れ、怪物エデュートがいなくなったその場に残されていたのは、矢を放ったソラの悲しそうな表情だけだったという……。
勝手な都合ながら、就活等の予定により、投稿ペースを変更させていただきます。
最低週一回投稿。多い時で三回投稿します。
投稿予定日は木曜日の11時。その日に投稿されない場合、日曜日の11時に投稿します。
ご了承ください。




