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空っぽの武装魔道士δ  作者: 火琉羅
中央国協同魔法学校
193/246

特訓の成果と毒々しい注射器

「ウインド・アロー!」

「アース・ウォール!」


 コレットは風を纏わせた魔法の矢を放ち、試験官は時計塔の床をせり上げ、暑い壁を作り出す。


 矢は壁に突き刺さり、放たれた勢いが相殺され、そして消滅した。


(う〜ん……。やっぱり、こういう真っ正面からの戦いは向いてないな……)


 自身が放った矢が試験官の作った壁に阻まれ、消滅したことで、どのように戦っていこうかと考え始める。


 コレットにとって矢そのものは容易く放つことができる。威力は魔法の術式を破壊できるほどだ。魔装でのサポートも相待ってその力はかなりのものだろう。


 しかし、それを敵であるとわかっていながら人に対して放つことができるのかといえば答えは違ってくる。


 コレットは誰かを傷つけるために力をつけていたわけではない。誰かを守るために特訓を続けてきた。だからこそ、敵を縛り付ける拘束系統の魔法だけは真剣に学び、実戦でもそれを生かして戦っていた。


 矢を誰かに当てる時でさえ、急所は絶対に当てず、的確に身動きを取れなくする場所を射抜いていた。


 しかし、それは相手が自分を見ておらず、警戒心をあらわにしていた場合の話だ。


 今のようにはっきりと見られ、臨戦態勢の場合、弓を引くコレットはだいたいが後手に回る。


 それにコレットと同じようにように無詠唱で魔法を放つことができるのであれば、コレットの魔法を込められた矢はすべて相殺されるであろう。


 どうするべきか……。


「フレイム・バースト!」


 そんなことを考えていると、床からせり上がった壁を突き破り、真っ直ぐに真っ赤な炎がコレットに迫った。


 コレットは一瞬だけ驚きつつも、すぐに平静を保った。


 さして恐怖を感じない。なぜなら、以前にも炎が自分に襲いかかってきたことがあったからだ。それも今目の前から迫ってくる炎とは比べ物にならないほどの強力な炎が。


「アクア・シェルド!」


 コレットは水で作った大きな盾を出現させて身を守る。迫り来る炎がその盾に触れると、火力不足で白い蒸気となって蒸発する。しかし、コレットが作った盾は健在であった。


 目の前で自分が放った炎が蒸発するのを確認した試験官は驚きの表情を浮かべていた。


「ばかな……。私の炎を蒸発……しかも、その盾が健在だと?! つまりその魔法は、上位魔法ということか?!」

「……アクア・ショット!」


 コレットが驚いている試験官に向けて手をかざし、魔力を込めると、魔法陣が出現するとともに水の弾丸が放たれる。


「っち! クェイク・ウォール!」


 試験官は舌打ちをしながら大きく、暑い壁を出現させ、自身の身を守る。


 しかしコレットの放った弾丸はいとも容易く壁を打ち抜き、大きな穴を開ける。


 試験官は壁を打ち抜き、迫り来る弾丸を横に飛び退け、回避する。


 身を隠す壁から出て床の上を転がる試験官。コレットはその姿をじっと捉えていた。


「……試験官さん。()()してください」

「?!」

「力の差ははっきりしました。これ以上戦っても、あなたに勝ち目はありません。だから、投降してください」


 それはコレットと試験官が持つはっきりとした力の差を表していた。


 なぜながら試験官はコレットが使っている魔法が上位魔法ということを理解しながら中位魔法を使い、守ろうとしたからである。


 土魔法は《アース》から始まり、《クェイク》《ガイア》と力の位を上げていく。


 その為、コレット使った《アクア》という魔法に対して試験官は《ガイア》という魔法を使わなければならなかった。


 しかし、結果として試験官は《ガイア》という魔法を使うことはなかった。


 それはコレットの力に対して、その発動が間に合わなかったのか、そもそもその力を持っていなかったのか。そのどちらなのかは定かではない。


 だが、試験官は魔法ではコレットの力には絶対に敵わないと、彼女の力がそれを証明していた。


「……」


 コレットの言葉に試験官も返す言葉がない。


 魔法には位一つでかなりの力の座がある。


 下位魔法と中位魔法との力の差は百の下位魔法を同時に放ち、余波が残りつつもどうにかして中位魔法を相殺できるほどであり、上位魔法との力の差は中位魔法はおよそ十倍、下位魔法ではおよそ千倍の力の差が存在していた。


 それだけの力の差を見せつけられれば試験官の反応も当然のだった。


「……キシィ」


 だがここで、試験官の様子が変わった。


「キシャシャシャシャ!」


 試験官は奇妙な笑い声をあげ始めた。


 コレットとそして術式を解こうと試みていたカンナはその姿に不安がよぎる。


「確かに…確かに! これほどまでに、圧倒的に……()()()()()()()()()()()()()?」


 何が外れたように言葉を発する試験官にコレットは奇妙な予感がよぎる。


 そして、()()()()()()()()()()()


「まったく……。()()()はどれだけ先を読んでいるのだ。この私、エデュート様がこの状況になることがわかっていたかのようにこれを差し出したのなら、笑い物だな」


 そういっておもむろにエデュートが取り出したのものは、話だけ聞いていたコレットはその物体のものを知っていた。


 その名前は注射器。薬や血を抜き取って検査するものだとソラから聞いていた。


 エデュートが取り出した注射器にはよくわからない紫色の液体が入っており、とても薬とは思えないほど毒々しい色をしていた。


「エデュートさん! あなた、いったいなにを!」

「なにって…こうするのさ!」


 そう言ってエデュートは注射器の蓋を外し、おもむろにその先にある針を自分へと突き刺した。


 コレットとカンナの表情が驚きに染まる。


 自分に注射器を突き刺したエデュートはその中に入っていた液体を自分の中へと流し込む。


 液体がエデュートの中に流れ込むと、突如としてエデュートの魔力が爆発的に膨れ上がった。


「おお! まさか、本当に、これほどまで力が膨れ上がるとは……。最高だな!」


 そう言って、エデュートはコレットに向けて手をかざした。そのかざしただけで溢れ出るエデュートの魔力がコレットに一気に襲いかかった。


 コレットもその圧に身体を吹き飛ばされそうになる。が、それを必死に踏ん張り、堪えた。


「ほうほう。ただ手をかざしただけでこれほどの力なら……()()()・バースト!」


 エデュートは手をかざしただけで圧のかかったコレットの姿を見て、自分の力を理解し、もしかしたらの予感を思いつき、炎の上位魔法フレア唱えた。


 するとその予感は的中し、《フレア》の魔法を放つことに成功した。


 コレットは放たれた魔法をすぐに危険視し、手に持っている弓を引き、魔力にできた矢にさらに魔力を込めて一角の馬が姿を現わす。


「ユニコーン・アクア!」


 引いていた矢を放ち、一角の馬の姿をした矢がエデュートが放った炎の魔法と相対する。一角の馬は手先から水が螺旋状に纏われており、炎と互いにせめぎ合う。


 やがてお互いの力が互いに相殺し合うが、今度ばその余波がコレットを襲い、暑い熱気が身体を包み込んだ。


 その熱気を当てられ、コレットは床に膝をつく。


「キシャシャシャシャ! 予想通り、私の力が貴様らをはるかに凌駕した!」

「っ」

「この力を持って貴様らお゛?!」


 力が跳ね上がったエデュートだったが、突然顔の形が歪み、すぐに身体がバキバキと収縮を始める。


 コレット達はそれを驚いていることしかできず、コレットはその姿に口を押さえ、視線を背ける。


 バキバキと収縮したエデュートはやがて小さな球体となり肉の塊が出来上がる。そしてその肉の塊がまるで爆発するのかと思うほど巨大な方となりながら人の形に戻っていった。


 エデュートはこの部屋の天井につくほど巨大な身体となり、人間という原型を残さないほどの怪物へ姿を変化させた。


「Aga。Agaaa!!!!」


 怪物の姿となり言語すら失ったエデュートはその拳を高々と掲げコレット達に向けて振り下ろされた。

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