遭遇者との会合
その姿には、しっかりと覚えがあった。
その人は以前、ここ中央国にやってくる時に、襲ってきた人。そして、二年間、必死に特訓をしたソラをいとも容易く倒した人物。
ソラはそう言ってた。Ⅳって……。
「ほう……。この俺に何か付いているのかな?」
Ⅳは、ローブの中に隠れていたでから私の方へと伸びてきた。
すぐに逃げ去ろうとしけど、彼から放たれる妙な寒気に体の身動きを取ることができなかった。
伸びてきたては私の頬に触れそうになり、思いっきり目を瞑った。怖くて、怯えてしまい、思わず(助けて、ソラ!)と心の中でそう叫んだ。
しかし、いつまで経ったも伸びてきた手が私に触れられことはなかった。
ゆっくりと目を開けてみると、伸びていた手は私の目前で停止し、Ⅳ自身は怯えている私を観察しているようであった。
「………やはり、変わってしまっているのだな」
「え?」
Ⅳはとても悲しそうな声でそう呟くと、伸ばしていた手を引いて、私にしっかりと身体を向き直した。
「……お前は、何のために戦っている?」
「え?」
「襲われた家族ためか? 愛するもののためか?」
「それとも、殺された家族の敵討ちか?」
その言葉に私は強く心臓が跳ね上がる。
その言葉は私に強い衝撃を与えた。
それは、彼自身がお父さんの存在を知っているということであった。
「どうして…どうしてお父さんのことを知っているんですか?!」
「……情報は得ていた。今は……それだけしか言えない……」
「なら……いつになったら答えてくれるんですか……」
「……俺の目的が果たされた後だ」
「そうすれば、自然と知ることになる」
「……」
私には、その言葉の意味がわからなかった。
でも、彼の声はとても真剣で、そして…とても辛そうな声でもあった。
だから、
「……わかりました」
私はそう答える他なかった。
「……では、最初の理由を尋ねる。お前は一体何のために戦っているんだ?」
その言葉を聞いて、すぐに返す返事を思い浮かべる。
最初から決まっていた理由……。ソラと出会って、カンナさんに特訓させてもらって、クロエさんと一緒に日々を過ごして、ユイちゃんと家族なれたから、今の私の中には、その答えがちゃんとある。
私は、それをはっきりと答えた。
「私の…わがままです」
「ほう……。わがまま…か……。どうしてそう思った?」
「私は最初、お父さんを目の前で殺されて、その人達に敵討ちの為に特訓をしようと思ってました。でも、特訓をする最初の日、ソラが…私の大切な人が、死にかけました。その彼が暴走して、いろんなものを壊し始めて、とても怖い姿になりました」
「私は、そんな彼を助けたいと思いました。私の中にいる彼女も、私の思いに応えてくれて、力を貸してくれています」
「そして気づいたんです。その思いが本当の私なんだって」
「本当の…私?」
「誰かのことを思って、大切に思って、誰かを助けたい。一緒にいたい。笑っていたい。そういう思いが、私なんだって……」
「……」
「今の私は、ソラのことやユイちゃんのことばかりで、できていないことやうまくいかないことがあるかもしれない……。でも、私は、一人じゃない」
「?!」
「私には、大切な人や私のことを信じてくれている人がいます。支えてくれる人がいます。だから、私は、私のわがままで、みなさんを助けるんです。私の思いが命じるままに。私が望むままに」
私は、私の思いの全てを伝える。それが今の私の全てだと、私がしたいことなのだと。
それに対して、Ⅳはとても声色をあげてきた。
「ならば! その思いが望むままだというのなら、敵である奴らでも手を差し伸べるとでもいいのか!?」
「はい」
彼の言う奴らというのは、きっと十二星宮のことだ。
彼らには、私も少なからず恨みもある。
でも、決めたんだ。助けると決めたら、助ける。その思いは、変わらない。
「……よかった」
私の真剣な気持ちをⅣ動揺していた割には簡単に受け入れ、とても安堵したような声でそう呟いた。
私は、そして私たちのやりとりを見ていることしかできなかったカンナさんですら、その変化にいとも簡単に気がついた。
そのことについて尋ねようと声をかけようとするが、Ⅳは、私の横を抜け、どこかへ向かっていく。
「ま、待ってください!」
「なんだ?」
「どこへ向かうつもりですか?」
「俺の目的は、今回勝手にことを起こした馬鹿どものそいつらの監視と役に立たなかった時の足切りだ。ここにいる必要もない以上、この場からいなくなるのは同義だ」
「そう…なんですか……」
「だが、それとは別にやることがある」
Ⅳはそう言い残し、地面から真っ暗な闇のようなものを生み出し、その中に入っていった。そしてその闇が消えるとそこにⅣの姿はどこにも見当たらなかった。
「「……はぁ」」
私達は、Ⅳがいなくなって、緊張の糸が途切れたのか、床の上にぐったりとへたり込んだ。
「な、なんなの、彼は……。まるで、あの十二星宮を相手にしているような、そんな感じだったわ」
「彼らの方がまだマシですよ。Ⅳの場合はまるで……」
まるで…この世界を恨んでいるような……そんな雰囲気だった。
(彼にも…何かあったのかな……)
私は、少しだけ彼のことが気になった。
「……さあ、彼のせいで少し遅れてしまったけど、最後の術式を破壊しにいくわよ」
「はい!」
カンナさんはその場から立ち上がり、私に手を差し伸べる。私はその手をつかみ、立ち上がる。
そして私たちは、最後の結界の術式がある時計塔の奥の部屋へと進んでいった。