術式の破壊と時計塔の遭遇者
ソラ達と別れたコレットとカンナは学校内を駆け回っていた。
目的は魔族達を手引きした内通者を探すこと。
「コレット。あなたは誰が内通者が予想はできているの?」
「誰かはわかりませんが、可能性があるの人はだいたいは……。でもまずは、この結界を張っている術式を破壊することを優先します」
コレットでも怪しい人物に対してある程度の目星をつけていた。しかし、その人をどうにかしようにも、それだけでは生徒達を助けることにはならない。たとえ、ソラ達が生徒達を助けようとも、そもそも脱出できなければ助けたことにはならないのだ。
コレットはそれをわかった上で、ソラ達が助けた生徒達の逃げ道を作るため、結界の要となっている部分を破壊することを第一と考えていた。
「……そこまでいうのなら、その術式がどこにあるのかわかっているのね?」
「私は、ソラよりも開き範囲で円が使えます!」
「円を使えるのね?」
「はい。ですから、円を広げて人が多勢集まっている場所を中心的に探して行けば、結界の術式を構築している場所にたどり着くと思います!」
「なら、あなたのやりたいようにやりなさい!」
「はい!」
コレットはカンナの言葉に頷き、円を最大限まで広げた。結果、コレットが広げた円の中に何人もの人や魔族が集まっている場所を見つけることができた。
しかもその場所の一つは、今走っている廊下の隣にある教室の向かい側の庭であった。
コレットは急いで教室の扉を開き、中の窓を開く。
「ユニさん!」
『ええ! 任せなさい!』
窓を開くと、コレットは自身が持っていた弓を引いている模様が描かれたクリアプレートを取り出して、真っ直ぐに掲げ、名前を叫んだ。
すると、掲げたプレートが光り輝き出し、光の帯が現れてコレットの身体に巻かれ始める。
指先から足の先、胴体から細い脚まで、隙間なくぴっちりと巻き付き、身体全体のラインをしっかりと浮き上がる。
そしてさらに帯からコレットの身体を締め上げ、帯を出していたプレートが光となってはじけと、同じように帯がはじけてその光の帯の下から、動きやすそうな桃色のドレスが出現し、脚には茶色のブーツが履かれていた。
「射手座の姫!」
光がはじけ、魔装のドレスに身を包んだコレットがそう叫び、まだ外に向けて手をかざすと、金色の弓が握られた。
その弓の弦を弾くと、コレットの魔力が形となり、矢のような姿に変化した。
コレットが矢を引き絞り、構える。その瞳は真っ直ぐに林の先をとらえ、何かをじっと見つめていた。
そして、引き絞っていた矢を放った。
勢いよくに放たれた矢は木と木との細い間を抜けて真っ直ぐに飛んでいく。その後、何かが突き刺さり、パリンッ!とガラスが砕けるような音がコレット達の耳の届いた。
「やった! 当たった! カンナさん、行きましょう!」
「え、ええ……」
コレットがガラスが砕けるような音に喜び、窓枠を飛び越えて、庭に降りて林の間を抜けていく。対して、カンナはコレットがクリアプレートを……魔装を使用したことに意識が向き、そのことに驚きを隠しきれなかった。
「……」
そして表情を歪ませる。
また……置いていかれるのではないかと……。
そんな考えが頭をよぎる。
カンナは首を振り、嫌な考えを振り払ってコレットの後を追った。
窓枠を飛び越え、林を抜けると、その先には剣を構え、敵対心をむき出しにしている魔族軍のものと、弓を構え、相対しているコレットの姿があった。
剣を構えている魔族達の足元には腕や脚に矢が突き刺さり、身動きが取れない魔族の兵達が何人もいた。そのためか、一見魔族軍の方が有利なように見えるこの状況で、ジリジリとコレットから距離を取っていた。
「……」
それを見ていたコレットはそんな魔族達の足元には矢を放つ。それは一本ではなく、無数に放たれた。
「……は! 外しやがった! やっぱり、さっきのはまぐれだったようだな!」
そう言って、怯えていた魔族の一人が剣を高々と掲げ、コレットに襲いかかろうと脚を踏み出そうとした瞬間、まるで何かに縛り付けられたようにピクリとも動かなかった。
「ど、どういうことだ?!」
「束縛の魔法です。放った矢に術式を乗せ、発動のための円を描きました。術式を破壊しない限り、身動きは取れません!」
コレットの言葉に魔族達は自分達の足元を見つめると、たしかに魔法陣が浮かび上がり、それが自分達を縛り、身動きを取れなくしていた。
「クッソ!!!」
「カンナさん! 今のうちに縛り上げましょう!」
「……もう、勝手にして……」
カンナは以前のコレットとは比べ物にならないほどたくましくなっていることに喜びつつも、行動や戦闘での次の手を打つ速さなど、淑女とはかけ離れた行動をさらりと行なっていることに思わず頭を抱えるものの、現状ではそれがすさまじく役立っているので、何も言葉を返すことができなかった。
*
魔族達を縛り上げたコレット達は、最初にコレットが放った矢が結界術式を破壊していることを確認し終えると、次の術式がある場所へと向かった。
そして同じように結界の術式めがけ、矢を放ち、魔族達を無力化していった。
そしていくつもの術式を破壊していき、次第に張られている結界が弱まり、消えかけていく中、闘技場から大きな魔法の魔力の解放と巨大な爆発が起きた。
「な、何ですか急に?!」
「おそらく、この爆発はエリーゼね。あの子、まだ試作の上級魔法をこんなかところで使うなんて!」
「なら、最初のあの魔力はきっとソラだ。相変わらず無茶苦茶するなぁ……」
そんな言葉を漏らしながら、コレット達は最後の要を発見した。
そこはまるでそうなることが決まっていたかのように、学校中央にある時計塔の中であった。
この学校の時計塔だけは後者とつながっておらず、唯一外とつながっている中庭の扉を開き、時計塔の中に飛び込んだ。
二人は備え付けられた階段を上っていき、息を切らしながらも、時計塔の最上部に繋がる扉を開いた。しかし、なおも道が続いて降り、長い通路を見たカンナは「ああ、もう!」と短く悪態を吐く。
それでも、その場に立っているだけでは拉致があかないので、長い通路を進んでいく。
そしてその通路の曲がり角に差し掛かった瞬間、
「「??!!」」
張り付くような、そして突き刺すような強い殺気を感じ、二人の足は止まった。
二人は直感する。これ以上進むのは、危険だ! この殺気を放っているものがこの先にで待ち構えている。この道を進んでいけば、そのものに出会ってしまい、自分達はここで命を落としてしまうであろうと本能が告げていた。
だがそれでも、コレットの脚は先へと進もうとしていた。
その理由は生徒達や先生を助けるため。この事件を解決させるためと複数の思いがあったが、何より、強くなろうと躍起になっているソラがこれほどの人物に対して戦いを挑まないなどあり得ないと思ったからだ。
だからこそ、コレットは先へ進むことを選んだ。決死の覚悟である。
しかし、その殺気はしっかりとした足音ともに、二人の元へと向かってきていた。
二人は警戒の色を明らかにする。
カンナは身構え、魔法を唱える準備をする。すでに魔力を全開にしている。コレットは自身が持っている弓に先程以上の魔力を込めて、弓を引く。矢先には自身の魔装の照明の一つでもある一角の馬の姿が矢を包み込んでいた。
そしてその人物が曲がり角から姿を表すと、コレットは容赦なく矢を放った。
至近距離で放たれた一角の馬の姿をした強力な矢はそのものに容赦なく襲いかかる。
しかし、
「?」
矢はそのものにはまるで蚊が止まっているかのように容易く掴み、一角の馬の姿の矢を軽く握るだけでいとも簡単に消滅させた。
「……随分、危ないことをしてくれるじゃないか……コレット」
自身に向けて矢を放った人物を一目見ただけで名前を言い当てた人物は、コレット達がこの中央国にやってくる最中、ソラが手も足も出なかった黒色の大きなローブに身を包んでいる魔装を身につけているⅣその人であった。




