救われたんだ
タタタタッ!
タタタタタタッ!
学校内の様子を学校中を駆け回る。
作戦会議を済ませ、二手に別れて行動していた。
一つは生徒と先生の救出係。もう一つは中に手引きした人物の捜索、だ。
救出係をソラ、そしてコレット……ではなく、エリーゼと共に生徒達が集まっているであろう闘技場に向かっていた。
*
「「手引きした人がいる?」」
エリーゼとカンナのまとめた話を聞き、至った結論にソラ達はそんな声を上げた。
「ええ、そうよ。考えてみなさい。魔族達が私達の主力であるこの学校にここまでの出来た…いや、出来ることができたのだと思う?」
「え? え〜……」
「えっと、内通者…ですか?」
「正解よ。あの結界を張ることはとても大変で、さらにあれを安定化させるために、長い年月をかけて発動する前に結界の発動点に魔力を注がなければならないわ」
「それなら、生徒や先生の中に魔族が化けている奴がいたんだな。でなければ、この結界を安定させることは難しいからね」
「あら。少し頭を使うようになったのね。そっちの方にも成長が見られるみたいで嬉しいわ」
「うっせぇ! 今はいいだろうが、そんなこと!」
コレットの言葉にカンナが自分達が出した結論の解説をする。それにソラが反応し、思い当たった言葉を口にする。
カンナはそんなソラに本当に嬉しそうな声を出し、ハンカチで涙を拭き取るそぶりを見せた。ソラはそんなカンナにイラつきつつも、話が進まないので、軽く文句を言った後、話を再開させた。
「……つまり、今回魔族達を倒しても、その内通者を倒さない限り何度でもこんなことが起きる…そういうことだな」
「ええ。その通りよ」
「……その原因って、やっぱり……」
「ご明察ね」
二人は自分自身の考えがまったく同じ原因にたどり着き、互いを見つめていた二人の視線をソラの隣にいるコレット達に向けた。
「……? どうしたの?」
二人に見つめられたコレットは首を傾げ、見つめられる意味がわかっていなかった。ついでに膝の上にいるユイは、コレットの膝の上なコクリ、コクリと船を漕いでいた。
「……まあともかく、これからどうするか、だね」
「え? 無視? 無視なの?」
「ここは二手に別れた方が得策かもしれないわね」
「無視…なんですね」
コレットは反応のないソラとカンナにうなだれながら顔を俯かせる。
カンナ達はそんなコレットの姿に苦笑いを浮かべる。ソラは俯くコレットの頭を優しく撫でると、驚いて頭をあげ、撫でている人物がソラだと気付くと、嬉しそうに頬を緩ませた。
「……ゴホン!」
「「?!」」
「仲がいいことはわかるけど、そういうのは家でやりなさい」
頭を撫で、撫でられる二人の甘い時間を引き裂くように、エリーゼは大きな咳を出した。ソラとコレットは顔を赤くして体をビクつかせ、それにすかさずカンナは注意を促す。
「話を進めるわよ。今回の最大の目的。それは……」
「コレットの誘拐…違う?」
「ええ、そうよ。過去に王都で私達と一緒に魔族を倒し、皇国では魔族討伐の中心にいた人物。世間ではそこにソラがいなかったことになっているけど、場所が場所なだけ、名前が自然と上がることはおかしくないわ」
「つまり、今回の事件は倒された魔族の敵討ちってことか?」
「それもあるけど、魔族を倒した者の一人ならば、三国に人達にも大きな痛手になるし、魔族軍から考えれば、いい奴隷ができたと喜ぶところね。まあ、王都で捕まえた魔族は未だに牢の中だし、皇国に至ってはあなたは魔族を守ろうとしていた。……飛んだとばっちりね」
「……」
カンナの話を聞いて、ソラは納得した表情を浮かべるが、対照的にコレットはとても辛そうな表情を浮かべていた。
「コレット?」
「私は…何もしてません」
「え?」
「王都の時も、皇国の時も、全部ソラに助けてもらいました。お父様を助けることができなくて、お城から逃げ出して、王都の近くで倒れていたらしい私を、ソラが助けてくれた。トーラムさんに襲われてくれた時も、ソラは守ってくれた。レインさんの時だって、私は結局何も出来なくて、ソラが助けてくれただけでした……」
「コレット……」
昔のこと思い出しながら語るコレットに悲しい雰囲気が漂う。コレットは今にも泣きだそうな声で呟いた。
「結局のところ、私は何もしていないんです……。大切な人を守る事も、救う事も、何も……」
「……そんなこと、」
「そんなことないよ、コレット」
コレットが呟いた言葉に最初はエリーゼが何かを口にしようとするが、それをさえも遮って、ソラがはっきりと言葉にした。
「コレットはいつも笑顔で僕のことを受け入れてくれた。自分のことで本気で泣いてくれた。あの時だって、僕のあんなものを見たにもかかわらず、いつもと変わらず、笑顔で、優しく包み込んでくれた」
「……ソラ」
「あの時はすごく驚いてしまったけど、困ってしまったけど、自分は嬉しかったんだ。自分の為に泣いてくれたこと、笑ってくれたこと、そしていつもと変わらずに受け入れてくれたこと……。それだけでも、僕の心は救われたんだ」
「だから、ありがとう。僕をずっと支えてくれて」
ソラは今までのこと思いを含めて、コレットにはっきりとお礼の言葉を口にした。
それを聞いたコレットは悲しそうに崩れかけた表情を今度は歓喜で涙を流した。嬉しさのあまり、とめどなく涙を流すコレットにエリーゼは優しく肩を抱きしめた。
「……コレット、そしてラベンダー。頼みがある」
「……何?」
「今回は、僕一人で救出の方をさせてくれ」
「?! それはどういう意味?」
「詳しくは聞かないで。ただ、どうしてもやらなければならないことがあるだ」
真剣な眼差しのソラにカンナは何も言葉を返さなかった。
その目はまるで、死を覚悟している人間の目と同じであった。
「……どうしてあの方と同じ目をしてあるのよ……」
「カンナ?」
「………わかりました。ですが、条件があります。今回は二手に別れるのです。ですから、救出までの間、エリーゼと共に行動しなさい! いいわね?」
*
そんなことがあり、ソラとエリーゼはどうにか誰にも見つかることなく、闘技場の近くまでやってきていた。
闘技場には、予想通り、魔族の見張りが監視していた。カンナの言っていた通りに魔法学校の制服を着ていた。
「どうするの、ソラ?」
「氷の魔導を使う。見たことがあるでしょ? 地面の中を通って、氷の柱を出す魔導!」
そう言って、ソラは地面に手を触れると、周囲の気温が低下し、寒さをエリーゼは感じ始めた。そんな寒さを感じつつも、見張りの魔族を見つめていると、地面から突然氷が現れ、魔族を一瞬にして凍りつかせた。
「……よし! 中に入るよ!」
「え、ええ……」
ソラにとってはいつも戦闘で使っている氷の使い方の応用なのだが、初めて見たエリーゼはただただ圧倒されていた。
氷漬けにされた魔族の横を少しだけ時間をかけてから一度だけは顔の部分の氷に手を触れてから通り過ぎ、真っ直ぐに内部へと向かっていく。
「ソラ、今の魔族にしたのは、」
「数秒間凍りつくと、わりかし早い段階で意識を失う。今さっき触れたのは、魔導の熱を残す為。しばらくすると、顔の部分だけ氷が溶けて、意識が回復すると思うよ」
ソラが後ろにいるエリーゼに向けて自分のした行動に振り返ることなく、説明をし、道を進んでいった。そんなソラの後ろ姿をエリーゼは昔の姿と比べながら、見つめていた。
大人になったなぁ……と、思う中、最近、カンナと話していたことを思い出した。
「ソラ」
「何?」
「ソラのあの盾、あれはあなたの魔法なの?」
「……ラベンダーが師匠だもんな。当然聞いているよな……。その通りだよ」
「ならその魔装は、第一魔装なの?」
「………何それ?」
ソラはエリーゼの初め聞く言葉に足を止めてエリーゼの方に振り返った。