突入
魔法学校に集まった魔族の一人がカンナの部屋に突撃する少し前……。
「魔族に襲撃って……どうしてわかっる?」
「理由は二つ。学校は今、火事になっているわ。場所は学校玄関口に最も近い教室……その場所に、火災になりそうなものは何かある?」
「その教室には確か、何も無かったはずだよ」
「さらに言えば、学校の敷地全体を包み込むようにして結界魔法が覆ってる。結界に浮かぶあの色や模様は、私の記憶上魔族で間違い無いわ」
「つまり…用意周到に計算された襲撃だったことか……」
クロエの円よる観察でソラ達は襲撃者が魔族であるということに納得した。
それ以前に、ソラ達は魔族のそういった計画性や行動力の凄さを身に染みて理解していた。
(そういえば、この二人は元々、皇国の魔族事件の中心にいた人物だったわね。……こういった事件の時の切り替えの早さは、眼を見張るものがあるわね)
クロエがそんなことを思いながら、二人を見つめる。見つめられている二人は、クロエからの状況証拠からどうするべきか対策を立てていた。
「基本的な事として、まずはコレットがアッシュさんに現状を知らせる。そして王都や帝国の王にも協力を煽ることが重要だと思う。王は大臣や貴族のいざこざでかなり時間を取られていると思うから、こっちから呼び掛ける。他国の同盟国の王からの要請だ。こんな大変な時なら、嫌でも断らないと思う」
「それはわかったけど、問題は結界の内側…学校の方だね」
「ラベンダーがいると言っても、生徒全員を助けることは難しいだろうし……。どうしたものか……」
ソラとコレットはこの後取るべき事に意見を交わす。その意見が同意見でもあったが、結界内の方をどうすべきかを考えていた。
いくら考えてもいい考えが思い浮かばない二人にそばにいたクロエがアドバイスした。
「なら、こういうのはどうかしら?」
『それじゃあ、コレットはソラのその盾の上に待機しておきなさい。ここにいても危険だがら、ユイも連れて行った方がいいわ。さあ、乗りなさい』
「は、はい。おいで、ユイちゃん」
「うん!」
「…………ねぇ?」
『皇王様。危険ですので最も離れてくださいな』
「え、ええ……。それにしても…本当にドラゴンだったんだな……」
「あのさあ!」
『何かしら、ソラ?』
「なんで僕は今、クロエの尻尾に巻かれているのかな!?」
ソラ達は別荘の中庭で、ソラは本来のドラゴンの姿に戻ったクロエの長い尻尾を体にぐるぐるに巻かれ、身動きが取れない状態となっていた。
『さっきも説明したでしょ? 今からあなたにはあの結界内に入ってもらう』
「いやそれは聞いてたよ! そして、この後どうするのかもわかってるよ! でもそういうのって、転移とかの魔法じゃ無いの?!」
『いいえ。物理的に投げ飛ばすのよ』
「やっぱりそうかよちくしょう! 魔装しているかっていっても、魔力のが尚更腹立つ!」
身体全体をぐるぐる巻きにされながら、そんな文句を口にした。
話を聞き、この現状になるまで、ソラはてっきりクロエが内部へと転移させてくれるものだと思っていた。しかし、この状態になったということは、明らかに壁を破壊して入らなければならないことを意味している状況となった。
さらにドラゴン状態のクロエの体はソラの魔力を少しずつ取り込んでいるため、同じように少しずつ力を失いつつあった。
『ソラ。今からあなたをあの結界内に突入します。あなたはまず結界の一部に穴を開け、結界内から魔族達を制圧し、生徒達と先生の安全の確保と内部からの破壊を試みなさい』
「頑張ってね、ソラ」
「いや待って! ちょっと待って?!」
『行くわよ!』
そう言ってクロエは空の制止を聞かず、その場をでぐるりと回り、ソラに巻きつけている尻尾を振り回す。
『はああああ!!!』
そして勢いよく振り回し、巻きつけていたソラを学校方面に向けて投げ飛ばした。
「うわぁぁぁぁぁぁああああああ!!!」
投げ飛ばされたソラは中央国の空を舞い、学校方面に向けて飛んで行く。そして投げ飛ばされたソラはすぐに学校のすぐそばにまで到着した。しかし、そのままではソラは学校に張られている結界に衝突しようとしていた。
「クソったれが!!!」
結界に衝突すると判断したソラは自身の手に魔装の盾を出現させ、構える。
「この勢いなら、これで殴るだけで充分だ!」
ソラは学校に張られた結界を目前にし、盾を大きく振りかぶる。
結界とソラが正面衝突する寸前、ソラは盾を勢いよく振り下ろし、盾を殴りつけた。
殴りつけられた結界は、大きな亀裂が走り、人が通れるほどの大きな穴を開けた。
ソラは落下と殴りつけた勢いのまま結界にないに侵入し、学校内に落下していく。
学校の校舎に近づいて行き、そこでようやくあることに気がついた。
「?! しまった! 着地のことを全く考えてなかったああああ!!!」
ソラは突き出した盾を壁にしながら、真っ直ぐに落下していく。ソラは運を天に任せながら、目を瞑り、「いやぁぁぁぁあああ???!!!と叫びながら運良く学校の校舎の窓に激突し、窓ガラスを突き破って室内の中へ侵入した。
*
「……とまあ、そんな感じかな。オーライ! オーライ!」
「た、大変だったね……」
ソラは、エリーゼ達を襲おうとしていた魔族を殴り飛ばし、意識を失った魔族をロープで締め上げ、言葉を話させないように口元を塞いだ。
そして二人にどうしてここに窓から入ってきたのかを説明しながら、窓の外から結界の中に入り、自分の後を追って、ふわふわとこちらに向かってきている魔装の盾とその上に乗っている二人の少女をこちらへと案内させていた。
エリーゼは話を聞いて同情の眼差しとあの妖艶な姿をしているクロエがドラゴン出会ったことへの衝撃とその姿を見てみたいという好奇心が湧き上がっていた。
「……で、カンナ先生はどうしてそんなガチガチに固まったいるんです?」
「ふぇ?! そそそ、そんなことありませんことよ?!」
「本当に何があった……」
ソラとエリーゼはガチガチに固まっているカンナの姿に疑問を抱いていたが、それ以上追求すると叩かれそうだったので、何も言葉を返さなかった。
「とうちゃ〜く!」
「お待たせしました……どうしたんですか?」
「い、いいえ、なんでもありませんよ」
「……そうですか」
「むらさき〜! きれ〜!」
盾の上に乗っていたコレット達はソラの案内のもと、部屋の中にゆっくりと入ってきた。中に入り、そこなにいたカンナの妙な様子に疑問思いつつも、なんともないと答えるカンナにそれ以上は尋ねなかった。
「……ゴホン! そ、それじゃあ、作戦会議と行くわよ! いいわね!」
「照れ隠しね」
「照れ隠しだな」
「うるさいわね! いいから始めるわよ!」
カンナは話を逸らし、照れ隠しをするために現場をまとめる。そして外からやってきたソラとコレットは学校内の状況を理解し始めたのだが、ユイはカンナの長い紫色の髪に興味を示し、話をまとめている間ずっと髪を触っていた。
「……ソラ、コレット」
「すまん。諦めてくれ。別にダメってわけじゃないだろう?」
「すみません」
「……」
カンナは困りつつも、嫌というわけではなかったが、話が進まないので、ユイを落ち着かせつつ、話を進めていった。