囚われた学校
ソラが度々町の方見て、妙な感覚に気になりつつも、コレットと一緒になって料理を作っている最中、学校からは大きな火の手が上がった。
場所は校舎玄関に最も近い教室が爆発し、火の手が上がった。
生徒達は当然大パニック。貴族暮らしで悠々と暮らしていた生徒達は自分が命を狙われることは当然予想しているはずがなく、いの一番に自分の命を優先して守ろうとした。
「どけデブ! そこを通るんだよ!」
「うるせぇ! 俺がそこを通るだよ!」
「どきなさいよ、あんた!」
「あんたこそじゃなのよ!」
「おおお落ち着いてください!」
「みなさん、慌てないで、落ち着いて!」
生徒や先生方はこの学校が襲われるとはまったく予想しておらず、全員大慌て。生徒達は見境も何もなく、プライドもかなぐり捨て逃げ惑う。先生達も大慌てで避難誘導を行うが、勝手がわからず、あわあわとしている先生が多かった。
そんな中、
「先生方! 先生方がそんなのでどうするんですか!」
「り、リシア先生……」
「まずは生徒達の避難! その後、建物の外に生徒達を集めて、生徒達を学校の外へ避難させます! 先生方はそんな生徒達の誘導を行ってください!」
「「「は、はい!」」」
先生の一人、リシアがまさかのリーダーシップを発揮。生徒達の避難を先生方に指示し、避難運動の指揮を取った。先生方は、そんなリシアの姿に圧巻され、その指示に従った。
リシア本人は教室から火の手が上がったことにより、他の教師達と同様に慌てふためいたが、以前の経験から、緊急時、先生が生徒に何が出来るのかを必死に考えて答えを出した指示を行なっていた。
(いつも二人はギリギリだけど……まだ来てないわよね?)
未だに姿が見えない親しい生徒のことを必死に探しながら、リシアは生徒の誘導を行った。
*
「まさかこんなことになるなんてね……」
「そんなこと言っている場合ですか! 早く私たちも避難しましょう、カンナ先生!」
一方。同じように他の生徒達同様に大慌てするエリーゼとは対象に、カンナは冷静であった。
「あら、エリーゼ。あなたまだいたの?」
「先生が逃げ出そうとしないから、私も逃げられないんです!」
エリーゼが慌てている理由は教室が爆発したからではなく、カンナが研究室から外に出ようとするそぶりがまったく見られなかったからである。
「早く逃げましょう。今からならまだ間に合います」
「逃げるって、どこに?」
「そ、それは、学校の外とか、闘技場とか……」
「学校の外は無理でしょうね。すでに対策済みだと思うわ。それに、闘技場なんて相手の思うツボじゃない」
エリーゼが避難しようとする場所いい、それに対してカンナは冷静にダメ出した。
「学校になんらかの攻撃を仕掛けるのならば、それに対する対策は当然行うはず。そのヒントとして、外をご覧なさい」
その言葉に従って、エリーゼは窓の外へ視線を送る。窓の外では学校を包み込むような怪しい輝きを放ち続ける魔法の壁のようなものが張ってあった。
「あれは、魔族が使う魔法の一つね。外や中からの攻撃を弾く結界魔法の一種」
「魔族…というとは?!」
「ええ、そうでしょうね。魔族軍の襲撃。目的はおそらく、こちらの力の確認と自分達の兵力となりそうな人物を攫い、洗脳をしようと考えているのでしょう」
それはカンナが多くの知識を持ち、冷静な観察眼から用いることができる回答であった。
エリーゼは魔族という言葉に緊張して息を飲む。
魔族…ソラが一人で相手だった存在。皇国での自分には理解できない力を使いながら、相打ちにしか持ち込むことが出来なかった存在……。
無意識にエリーゼの手に力が篭る。
「……へんな気は起こさないことよ」
「ですが!」
「まずは冷静になりなさい。高鳴るのは気持ちだけ。ソラに無い冷静な知識こそが、あなたの武器よ」
「……はい」
カンナに注意され、それに従うエリーゼは大きく深呼吸を一度行った。
「……大丈夫です」
「いい目になったわね。それじゃあ、魔族達のどんなことをするのか、答えてみなさい」
「……」
エリーゼは尋ねられたカンナに答えるため、目を瞑り、思考を回す。そして自分がたどり着いた答えを口にした。
「……おそらく、孤立している生徒を標的にすると思います」
「ほう……。その心は?」
「先生や生徒達は今回のこの事件が何者かによる犯行であるということはわかっているはずです。事実、学校の周りに張られている結界がそれを物語っています。一般の生徒ならば、そこまでくれば学校や協力するといった行為をすると思いますが、この学校は優秀な生徒を集めた学校です。独りよがりの行動をする生徒がたくさんいると思われます。そんな独りよがりで自分の勝手な行動をしている生徒を優先して倒していき、誘拐していく。私はそう思います」
「なるほどね……。概ね正しいわ。今現在、魔族達はあなたの言う通り、独断行動とっている生徒を重点的に狙っているわ」
エリーゼが考えた解答は、カンナの機嫌をよくするものだった。ヒント無しでそこまでの答えを導き出した。そのことを純粋に嬉しく思った。
「概ね……。他に何かあるということなのですか?」
「そうね……。ここまで準備周到にしていたのなら、もっと早い段階でこれを行うことが出来たはず。しかし、これを今になって行った。それはなぜ?」
「それは……今それをする目的があった?」
「それを踏まえて、ここ最近の大きな変化は何?」
「大きな変化……まさか?!」
カンナの言葉にエリーゼがその大きな変化に気づいた瞬間、研究室の扉が蹴破られた。
中に入ってきたのはカンナの予想通り、耳の尖った魔族だった。
「おうおうおう! ここにもいるじゃねぇか〜。しかもかなり上玉がな!」
魔族は二人の姿を舐め回すようにみた後、ニヤついた笑みを浮かべ、涎を垂らし、ゆっくりと近づいていった。
カンナの目の前にいるエリーゼは、カンナの側に駆け寄り、カンナはエリーゼを抱きながら魔族からゆっくりと距離を取っていく。
怯える表情を浮かべるエリーゼに興奮した魔族は二人に向けて手を伸ばしながら駆け出した。
「ぎゃああああああああ!!!」
悲鳴をあげるエリーゼ。そんなエリーゼを守るようにしてカンナは強く抱きしめた。
「…………ぁぁぁぁあああ???!!!」
そんな空気をぶち破るようにして窓の外から大きな黒い影飛び込んできた。
散乱する窓ガラス。その窓ガラスを大きな塊を下敷きにして、一人の男が部屋の中に飛び込んできた。
「ああ〜……。クッソ! イッテ〜〜……! クロエの奴…容赦無用に投げ飛ばしやがって……! 魔装を使って結界の一部をぶっ壊すのはいいけど、もうちょっとやり方ってものが……? 何、この状況?」
部屋の中に飛び込んできた大きな盾を持った男、ソラは色々とキツそうに立ち上がり、文句を漏らす。その姿をエリーゼとカンナ、そして魔族の男は身動きが取れなくなるほどの衝撃を受け、固まってソラの見つめていた。
「……お、あんた魔族じゃん。とうことは、あんたらが主犯ってわけか……ぶっ飛ばしますね」
ソラは空いていた距離を一瞬にして詰め寄り、その肩に手を置いた。
魔族は肩を触れられ、話しかけられまで、ただ呆然と立ち尽くすだけであったが、目の前にソラが現れた瞬間驚いて後退ろうとするが、肩を掴まれているため、逃げ出すことはできない。
そしてソラはそんな魔族を思いっきり殴り飛ばした。
殴り飛ばした先には古代語の本がたくさん並べられた本棚あり、それに向かって激突した。魔族が地面の上に転がると、グラグラと本棚が揺れ、その棚に並べられていた本全てが魔族に降り注ぎ、そのまま本棚も倒れた。
本に埋もれた魔族はピクリとも動く気配がなかった。
そんな魔族に対して、
「面倒なことを起こしたんじゃねぇよ!」
そう不機嫌そうに言い放った。




