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空っぽの武装魔道士δ  作者: 火琉羅
中央国協同魔法学校
182/246

再開と履修

「……よし!」


 闘技場での戦闘の翌日。


 早朝。


 太陽の日が昇るよりも早い時間。ソラは別荘の中庭で一人佇んでいた。


「それじゃあ、始めるとしますか!」


 そう言って、手に盾を出現させる。そしてその盾を剣のように、まるで手足のように振り回す。剣での鍛錬と同じ用法である。


 剣のでの間合いでは十字架の下の部分剣先のように、拳での間合いならば、十字架の上部分をまるで拳のように扱い振り抜く。


 いつも通りのやり方が、鈍っているというよりは相手がいなくて、僅かながらにやり辛さを感じているソラ。しかし、それを思考の端の方に追いやって素振りを続けた。


 このままではダメだとわかっていながらも、今の自分にはこれしか方法がないのだと言い聞かせながら……。



 そんなソラの姿を朝早くから見守る者達がいた。


「……焦ってるわね」

「やっぱり、そう思いますか?」


 中庭で盾を振り回すソラの姿を別荘内から見ているコレットとクロエの姿があった。


「二年間の特訓の後、一ヶ月を経たずに敗北を味わった。力のコントロールも、応用も何通じなかった相手。完全なる敗北。流石に焦るわよね……」

「ごめんなさい。気付いていたはずなのに……」

「いいえ。あなたが気にすることではないわ。これは私がいち早く気づかなければ、いけないことなのに。彼の強さに甘えてしまった、私のミスよ」


 クロエは、この道中でのソラの僅かな変化に気づいていた。しかし、それは気のせいであると思い込み、ソラの焦りに気づいてあげることが出来なかった。


 コレットもソラのそんな焦りに親身に向き合うことが出来ていなかった。


 ソラは大丈夫だと、コレット達の前では笑っていることが多かった。まるで自分の心をのぞかせないように笑顔を振りまいていた。


 それがソラの焦りを気づかせない要因となっていた。


「彼のあの行動は、きっと流れ年の習慣だと思うわ」

「習慣…ですか……」

「ええ。王都での下町での生き方。貴族対する接し方。それら全てが今まで生きてきた優先度に比例して隠すべき感情、抑えるべき感情と分けられ、自分の焦りはあなたを守る事という考え方に上書きされてしまったのでしょうね」


「彼は本当は、守りたいという思いよりももっと深い何かを隠している。自分にも気づいていない強い思いを」


 クロエのソラの隠された思いが何かを探ろうとじっと中庭を見つめ続ける。コレットも同様に中庭で盾を振るい続けるソラを見つめる。


 コレットには、クロエが口にしたソラの心のうちを理解することができなかった。それが何よりも悔しくて、それがたまらなくて手をぐっと握りしめる。


 そして、それがわかるクロエを無意識に妬いてしまった。



 *



 その後、色々と準備を済ませたソラ達は学校にやってきた。二人は昨日と同じように日常を過ごしていたが、周りは昨日よりも真剣に授業に取り組んでいるようであった。


 休み時間、昨日と同じようにソラ達に話しかけてくる人はたくさんいたが、そのほとんどは勉学に対する内容であった。


 そのほかにも、剣術や体術に対する質問もあったが、ソラも深く教える側ではないので、まずは剣術、体術に対する基本的な構え等と基礎体力やそれに対する身体作りをアドバイスとして言い、それらについては、専属の人や学校の先生に聞くなどして作っていくといいとアドバイスした。


 ソラの身体作りとは壊れたら再生、壊れたら再生の繰り返しだった為、参考にはならない。その為、しっかりとアドバイス出来る師匠や先生尋ねることをお勧めした。


 突然やる気を出し始めた生徒達の姿にソラは驚きつつも、自身のやるべきことを集中した。


 そして放課後。


 ソラとコレットは、別荘へ帰ろうとした時、この学校で最も話をする先生、リシアに呼び止められた。


「どうしたんですか?」

「今から少し時間あるかしら?」

「はあ…、まあ大丈夫ですけど……」

「よかった。実は、あなた達に話がある人がいるの」

「「話?」」


 リシアの案内のもと、二人はとある部屋にやってきた。中は至る所に本があり、まるで図書館のような部屋であったが、


「こ、これはまさか?! 古代語の本! しかも、まだ未解読のものばかり!」


 ソラは興奮気味に、並べられていた一冊本を抜き取ると、本を開き、その場から動かなくなった。


「えっと…あれは……」

「あ、気にしなくて大丈夫ですよ。いつもあんな感じなので」


 ソラの突然変異にリシアは固まり、ソラのあの様子について尋ねるが、慣れているコレットは何事も無かったかのように言って、部屋の奥の方へと進んでいった。


 奥の部屋にたどり着くと、窓の光が差し込むながら、古代語の解読を進めている女性の姿があり、その()()()()()()()()()()の女性の後ろ姿をコレットは今でも覚えていた。


「カンナさん!」

「? あら、コレット。久しぶりね」


 解読を進めていた女性、カンナは、自身の名前を呼ばれ、振り返る。すると、そこには、かつて自分が教えていた生徒、コレットが目に涙をためて口元を押さえていた。コレットは、軽く涙を流した後、勢いよくカンナに抱きついた。カンナもそんなコレットを受け入れて、自分の胸でしっかりと抱き返した。


「久しぶりね。元気にしてた?」

「はい! 私も、ソラも、すごく元気です!」


 元気よく挨拶をするコレットにカンナは安堵の笑みを浮かべる。嬉しそうに微笑む二人にたった一人ついていけていないリシアだけは、現状の理由がわからず、目をパチパチとして、その場に立ち尽くし、固まっていた。


「ひょっとして、カンナさんが私達を呼んだのですか?」

「いいえ。それはないわ。私は、今は王都からの特別講師としてここにいるの。私の授業を受けれる権利は二人の実力故の結果よ。あなた達の師をしていた身としてはとても誇らしいわ」


 カンナの言葉に喜んだコレットは嬉しそうな笑みを浮かべ、抱きしめる力をさらに強めた。


「……ところで、ソラはどうしたのかしら?」

「ああ、ソラだったら、隣の部屋で本の虫になっていますよ」


 その言葉を聞き妙な納得の表情を浮かべたカンナは呆れつつも、コレット、そしてリシアを近くのテーブルに案内をして座らせた。


「さて、お茶でも出そうかしらね。お願いしてもいいかしら?」

「すでに出来ていますよ、カンナ先生」


 部屋の端の方にあるキッチンのような部屋から現れたのは、ティーポットやカップを乗せたトレイのを持ったソラの姉とも呼べる人物。エリーゼであった。


「エリーゼさん!」

「この国に到着ぶりね、コレット。もう身体は大丈夫なの?」

「うん! もうすっかり元気だよ!」


 可愛らしく元気な姿を見せるコレットにエリーゼは数日前のあの苦しそうな姿はなんだったのかと、安堵の息を漏らしながら、準備したお茶を並べていった。


 エリーゼも席に着き、隣に部屋にいるソラを除いた四人が出されたお茶を口に含み、ほっと息を出し、話を開始した。


「では、話をすると、二人にはとあるの講義の受講を望んでいるわ」

「とある講義、とは?」

「まあ、わかっているとは思うけど、古代語の講義よ」


「古代語の講義…受けてくれないかしら?」


 カンナから放たれた言葉は、ソラが最も得意とし、もっと深めたいと望んでいる授業の履修の話であった。

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