編入一日目 後編二
ガキンッ!
「踏み込みが甘い!」
ザッ!
「見え見えのタイミングで魔法奴があるか!」
ドスッ!
「今までの形が崩れて、大雑把な打ち込みになったぞ!」
ドゴーッン!
「……結論。やっぱりお前ら弱過ぎ」
闘技場の上で戦っていた相手を場外まで殴り飛ばし、ソラの前に立ち塞がった大勢の生徒達がソラを前にして固まってしまっていた。
対してソラは右腕は少しだけ引き、攻撃の出来る構えを取り、左腕は手の平を開き、生徒達に向けて構えられていた。
その後ろでは、腹を抑えているものや白目をして意識を失っているものまでいた。全員、ソラが相手をして一撃で叩き伏せられた者達である。
生き残っている生徒達は思った。どうしてこんな事に……。
ソラはあえて、あのような挑発を送った。そうする事で、怒りで力が増幅しているであろう生徒達に自分の力がどれほどまで通用するのかを調べるためだ。
さらに、目の前には十騎士の一人がいるのだ。いい特訓相手になるだろうと思っていた。
そんな挑発に簡単に釣られた生徒達はソラの予想通り、倒す為に闘技場にやってきた。
最初は魔法を撃ち、一斉に襲い掛かれば、倒せるであろうと思っていた生徒達は、開始と同時に詠唱を開始。
開始と同時に最前列にいる数名を叩けると思ったソラだったが、先手は譲ろうと腕を組み、その場に立ち尽くした。
詠唱が終わり、各々が魔法をソラに向けて放つと、ソラはその魔法をしっかりと見極めながら、回避する。その内の一つを回避した後も、しっかりと観察し、地面に触れて爆発すると、ソラは回避する事だけに専念した。
魔法が爆発し、ソラを中心に爆煙が巻き起こり、、黒い煙が立ちこめ、ソラを包み込む。それを見ていた生徒達はソラにトドメを刺そうと、一斉に駆け出した。
生徒の一人が一早く煙に到着すると、嬉しそうな笑みを浮かべながら持っていた剣を振り上げた。
そんな生徒の身体に容赦ない強烈な一撃が突き刺さった。強烈な一撃は生徒のみぞおちのあたりを爆煙から現れた拳が容赦無く突き刺さる。
次第にその拳は力がどんどんと力が加算されていき、さらに深々と突き刺さっていく。そして痛みにより意識が失われると、闘技場の外まで殴り飛ばされた。
それと同時に爆煙の中からソラが姿を現し、拳を振り下ろしていた。
殴り飛ばされた生徒がドサッ!と地面に倒れと、進んでいた生徒達の脚が止まった。ガタガタとゆっくりと振り返り、場外まで飛ばされた生徒を見つめる。生徒はその場に蹲るどころか横たわったまま動かなくなっていた。
生徒達は直感した。ヤバイ!と。
ソラはそんな生徒達のことを全く気にも留めず、服に付いた煤を払い、
「それじゃあ、次は僕の番ね」
と、言い放った。
そこからは一方的であった。対面しいる生徒達を一人ずつ倒していき、数人を地面に倒れ伏せる。さらに剣を振り上げ襲いかかってくる生徒には、回し蹴りで剣を蹴り壊し、横腹に強烈な蹴りを入れ、近距離で魔法を放った生徒には、軽く体を逸らし腹パンを決め、長年続けていたであろう戦闘スタイルで善戦するものと、全然効かないというわかると、戦い方が大雑把になり、大きな隙ができてしまい、そこに回り込んで手刀で意識を刈り取った。
それ見ていることしか出来なかった生徒達は、倒れ伏す者達から自分達に向けられるソラの瞳に気圧されていた。
そして、その視線を向けている本人は、
(多対一。奈落での特訓ぶりか……。相手にとって、不足無し!)
現状に対して、凄まじいやる気を出していた。
そこから一方的であった。
多くの生徒を叩き潰したソラの姿に生徒達は逃亡。残っていた生徒達のほとんどが、その場からいなくなった。それを呆然と見つめるソラ。残っていた生徒達も、引き止めつつも、それに便乗して逃亡する生徒達までも現れ、残ったのは十騎士とほんの数名。
その数名も今も逃げ出しそうにしていたが、自身のプライドによってどうにか踏みとどまっていた。
そんな雰囲気を感じ取った一番最初にソラに突っかかった十騎士は、自らの勝利で全員の士気を高めようと単身で突撃した。
突然逃げていった生徒達に呆然としていたソラも、襲いかかってくる十騎士の姿にすぐに態勢を整える。
突撃した十騎士の力の特徴は、自身に対する肉体の強化である。魔力を全身に巡らせ、筋肉を一気に膨れ上がらせ、圧縮し、力を留める。少しの間しかできない技であるのだが、その状態となれば、どんな敵をも叩き伏せることが出来る強力な技でもあった。
その全身強化した十騎士はソラに向けて拳を振り下ろした。当たれば、ソラの骨はバラバラに砕け、身動きするままならなくなる。
のだが、当然そんなものには当たるはずもなく、軽くいなされ、十騎士の脚をかけ、振り下ろした腕をさらに下に引くと、身体が浮かび、そのまま闘技場の上に仰向けとなり、地面に叩きつけられた。
「……その状態の弱点は、パワーの増量によるスピードの低下だ」
「?!」
仰向けとなった十騎士の男にソラはポツポツと何かを呟くと、拳を振り上げし、自身に向けて振り下ろされた。
やられる!
そう思った十騎士は腕で顔を覆い、防ごうとするが、待っても腕に衝撃が走ることはなかった。防御を外し覗き込むと、ソラはすでに攻撃の態勢を解いていた。
「体全体の体積を増やせば、その分スピードが落ちる。当然の結果だ。持続戦に向かないその戦い方は、少しやり方を変えてみるのが効果的だよ」
たった一度、たった一度見られただけで、自分の弱点を見破られ、さらにアドバイスまで受けた十騎士は、自身の面目を叩き潰され、涙を流し、悔しさのあまり、その場を動くことすら出来なかった。
そんな十騎士へ向けていた意識を追いやって、残りの者達を倒そうとするソラ。顔を上げると、その先には誰一人として残っていなかった。
*
あの後、ソラを含め闘技場に倒れている生徒達は厳重注意を受けた。無断で闘技場を使用した事への厳重注意とソラはやり過ぎに対する注意だ。
倒れている全員が一撃で倒されているとはいえ、身動きが取れなくなるまでの一撃は流石に不味かったらしい。そこに付いては、これから気をつけるようにと注意を受けた。
「やり過ぎか……」
「一応この学校も、貴族間の領分だからね。あまり大げさな事をされると、困るんだと思うよ」
反省文を課題に帰っていいと許可が降りたソラは、闘技場での一件を見守っていたコレット共に帰宅していた。
「それで? どうしていきなりあんな無茶を?」
「……話さないとダメ?」
「私達の間に隠し事は無し。そう言ったでしょ?」
「……このままじゃあ、ダメだと思ったんだ」
「ダメ?」
「今のままじゃあ、また負けてしまう」
その言葉に、コレットは妙に納得した。ソラが少し焦っているように思っていたからだ。
「このままじゃあダメだ。もっと力をつけないと。守りたいものを今度こそ守れるだけの力を」
その言葉の中にコレットはまずかな危うさを感じた。そしてそれを止められるのは自分しかいないと、そうとも思った。
コレットはソラの腕に身を寄せて、身体を強く密着させる。それに驚いたソラは突然の行動をしたコレットの名前を呼ぶが、コレットは答えない。
そしてしばらくそのまま何も言葉を発さず、静かになる二人。そしてゆっくりと、コレットは口を開いた。
「……私は…あなたの側にいる。これからも、この先も。ずっと……」
その言葉を聞き、腕を絡めながら手を握るコレットにソラは驚いて、その顔を覗き込む。コレットは少し俯いて、自身の表情をソラに見せないようにする。
そんなコレットに答えるように、握る手の力を強め、ゆっくりと歩き始める。
別荘に帰り着くまで二人の間には言葉はなかった。しかし二人の心は交わす言葉がなかろうとも、とても暖かだった。




