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空っぽの武装魔道士δ  作者: 火琉羅
中央国協同魔法学校
179/246

編入一日目 中編

「やっぱりこうなったか……」


 教室に戻ってきたソラが一番最初に呟いた言葉はそれであった。



 国王が職員室の奥の方へと進んでいくと、先生達は奥の方が気になりつつも、自分の仕事をこなし始めた。


 ソラ達もやってきた国王のことが気になりつつも、持ってきていたお弁当に再び箸を伸ばした。

 お弁当を食べ進めている際、もはや恒例となりつつある馴れ初めについて尋ねられるも、そもそもの事情が事情である為、この場で話すことはせず、言葉を濁した。


 話を晒すために、ソラは古代語の授業について尋ねた。


 しかし、リシアは古代語の授業の担当教員ではなかった為、詳しいことを聞くことができなかった上に、古代語の授業には一定の高成績を収めていなければ、受けることができない授業であった為、ドッとうなだれるのであった。



 そんなこんなで、お弁当を食べ終えた二人が教室に戻ってくると、先程までソラが座っていた場所が無茶苦茶に落書きがされてあった。


「ひどい……」

「そうか? 僕からしたらいつもと変わらないけどな」

「そうなの?」

「王都でもそうだったけど、位の高い人は一度落ちこぼれと判断した人を徹底に陥れるからね。トムみたいな性格の方が珍しかったよ」


 ソラは自分が座っていた机の落書きを懐かしむように見ながら自然と笑みが出る。そんな姿のソラを見て逆に不安になるコレット。


 しかし、懐かしんでばかりいても現状は何も変わらない。故に犯人を探し出す。こういった貴族出身が多い場合、()()()()()見つけ出すことができる。


「あの、すみません」

「はい?」


 ソラはすぐに近くにいた一人の生徒に話しかける。話しかけたのはソラが座っていた席の近くにいた女子生徒。


 話しかけられた女子生徒は話しかけてきた人物がソラだと気付くと、顔を赤くして、話しかけられてきたことが嬉しのか、口元が緩んでいた。


「聞きたいことがあるんだけど、今時間あるかな?」

「は、はい! なんでもお聞きください!」

「ありがとう。それじゃあ、早速聞きたいんだけど、あの落書き、誰がしたのか、君は知っているかい?」

「……へ?」


 指を指して、落書きをされた自分の席の机を女子生徒が覗き込むと、女子生徒は罰悪い表情を浮かべ、ぎこちなく視線を逸らした。


 だが、女子生徒がした行動は、ソラにとっては()()()()()()()であった。


「し、知りません。ごめんなさい……」

「そうですか……。知らないなら、仕方ないですよ。こちらこそ、申し訳ありません。突然変なことを聞いてしまって……」

「い、いえ…こちらこそ、力になれず…すみません」


 ソラが申し訳なさそうに頭を下げると、女子生徒も同じように頭を下げ、謝ってきた。


「なら、代わりに別の質問を。このクラスで、コレット様以外に()()()()()()()()()()()の子供が誰か、わかりませんか?」

「高い地位ですか?」

「ええ。それだけでも大変ありがたいです」


 尋ねられた女子生徒は、先程とは違って、すんなりと答え、名前言った後、その生徒に向けて指を指した。


 指差した人物は、二人の男子生徒に挟まれて、楽しそうに話を弾ませている男子に向けて、女子生徒は指を指していた。


 それだけ分かれば充分と判断したソラは頭を下げてコレットの元へと戻っていく。


「コレット。次の授業、一緒に机を使っていいかな?」

「へ? いいと思うけど…何もしないの?」

「うん。()()何もしないよ。どうせそのうち、向こうから何かしらを仕掛けてくるから、それ待ちと()()()()()()()()と僕の喜びゲージをあげる三鳥の行動だよ」


 ソラが自慢げにそう言うと、コレットは自分がソラが一緒にいるだけで喜んでくれていると、再認識して笑みがこぼれる。そして、授業が始まるまで、まるで見せつけるようにして、同じ机で学校が配布した教科書に目を通していく。


 わからない点があればお互いに意見を交わし、協力して教科書の内容を独自に理解していく。その後、解釈した内容をわかりやすくまとめていく。


 その光景を二人を見ていた生徒達は二人の間柄がただの騎士や王女ではないと思い始めたが、それ以上に今の現状をいとも簡単に許せる二人の強い信頼関係が生徒達の目に飛び込んできた。


 しかし、それを面白く思わない連中も当然いる。


 そんな連中は、皇国王女であるコレットが落ちこぼれでゴミ以下の存在だと認識していた平民と自分達以上に仲良く接している。


 我慢ならなかった。今に間に割り込んで、平民がいる位置を意地でも奪い去りたかった。


 しかし、そんなことをすれば、貴族としての品位が失われる。自分よりも位の低い男に嫉妬し、羨み、貴族しての振る舞いもかけらもない行動をとれば、むしろ貴族にふさわしくない振る舞いをすればするほど、愚かしと呼ばれる続けることは間違いなかった。


 それでも、そんなことを許そうしない愚か者は当然存在した。


「……()()()()()。もしよろしければ、我々とお話ししませんか?」


 そう言ってコレットに話しかけてきたのは、先程まで指を指された男子生徒であった。


 ソラはコレットに話しかけてきた人物が先程の男子生徒だとわかると、かかった!と思うのと同時に、やっぱり貴族ってちょろいやつばっかりと呆れていた、


 話しかけられたコレットは、ソラと楽しく話していたのに話しかけられたことで内心不機嫌になるが、それを表立って見せることはしなかった。


 だが、話しかけられたからと言って、自分から言葉を発すると言うことはしなかった。その理由は、この教室に入り、挨拶をした段階でしっかりと言っていたからである。


『個人的ななお付き合いは、事前に(ソラ)にご報告していただけるとありがたく存じます』


 と。


「申し訳ございません。コレット様は、これより勉学に勤しむ予定なので、あなたに時間を取られている時間は無いのです。それに最初に申し上げたと思いますが、コレット様にそのようなお付き合いをする場合、私を通せと」

「ふん。騎士風情がこの俺に意見するというのか? 平民上がりの分際で」

「ええ。当然ではありませんか。コレット様をお守りするのは、私個人が受けた()()()()()()、なのですから」


 その言葉が教室にいた生徒達にどよめきを与える。


 王からの勅命。それは皇国の王であるアッシュがソラに向けて、自身の娘を守れという命令を直接受けたということであり、皇王から強い信頼と実力を認められているとはっきりと公言されているということの表れでもあった。


 ソラの発言をはっきりと耳にした生徒達は、編入試験後から広まっていたとある噂を思い出した。


 強大な魔法を使い、学校最強の十騎士を瞬殺した者。


 でまかせだと思っていたが、編入してきた人物がそれほどまで信頼を置ける人物であるならば、その可能性も充分あった。


「先に申しておきます」


 噂の件が本当だったらと頭を過ぎると、身動きが取れなくなった男子生徒に向けて近づいていき、耳元で囁くソラ。


「……僕だったから今回はこれで許すけど、コレットに対して何かしたら……命はないと思えよ」


 その囁きを聞いた男子生徒はソラに恐怖し、怯えながら尻もちをついた。


 ソラはそんな姿の男子生徒に対して小さく微笑みを浮かべ、静かにコレット側へ戻っていった。


 静まり返る教室。その静けさは、昼休みが終わり午後一番目の授業を行う先生がやってくるまで止むことはなかった。

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