編入一日目 前編
「みなさん。これから編入生を紹介します。さあ、ご挨拶を」
「はい。コレット・フォン・ジェラードと申します。この度は、みなさまと同じく勉学を学べる事を心より、嬉しく思います。よろしくお願いいたします」
編入式が終わり、自身の教室に案内されたコレットは、先生に自己紹介をするように諭され、短い制服のスカートを摘み、軽くあげ、綺麗なお辞儀をして頭を下げる。
その姿に見とれ、まばらな拍手が次々に起き始めた。
しかし、コレットにとってこの次が問題で、それが気掛かりで仕方なかった。
「……私は、姫コレット様の身辺警護を任され、姫様と同じく編入することとなりました。ソラと申します。友人として姫様と接することは私から何も申すことはありませんが、個人的なお付き合いは、事前に私にご報告していただけるとありがたく存じます」
同じく編入し、アッシュの権力も依頼の件を使い、コレット同じクラスとなったソラの挨拶を聞いて、今度はまばらな拍手どころか、全員が固まり、誰一人として反応していなかった。それはコレットも同じで、ソラが自分が予想としていなかった見事な挨拶をし、自身の心臓に手を当てて、頭を下げる様は、さながら王子様のようであった。
女子生徒の中には、ソラの様子に顔を赤く染める生徒いた。ソラが平民出身で、なおかつ落ちこぼれだと耳にしていても、だ。
そんな二人の挨拶が終わり、朝の朝礼が終了すると、恒例の休み時間の質問タイム。
一気に二人に群がる生徒たち。「好きな食べ物は?」から「好きな教科は?」など、ありふれた内容のものから、「好きな異性のタイプ」や「付き合っている人はいるのか?」など、答え辛い内容の質問を受ける二人。
コレットの場合、
好きな食べ物=ホットケーキ
好きな教科=「一番好きなというのはありませんが、頑張っていきたいと思っています」
好きな異性のタイプ=「恥ずかしいです……」←顔を赤くして口元を隠す。そしてその姿に見とれ、ニヤケながら視線を逸らした男子達を見計らって一瞬だけソラを見た後、すぐに視線を守りの者達に戻した。
付き合っている人はいるのか?=「それは秘密です♪」
ソラの場合、
好きな食べ物=最近皇国で流行り始めたうなぎ←「美味しいんですよ〜」
好きな教科=「あまり勉強は得意ではないのですが…古代語の授業には興味があります」
好きな異性のタイプ=「純粋で、私の支えとなってくれる人……ですかね」
付き合っている人はいるのか?=「ご想像にお任せします」
と二人は答えていった。
コレットどうソラの周りの生徒達は、質問に答えていく二人に別々の反応をしながらも、その中心からは、黄色い声援が飛び交っていた。
そんな時間が続き、休み時間いっぱいまで質問は続き、先生がやって来たと同時に席へと戻っていった。
先生がやって来たということは、当然授業である。
授業となれば、貴族も平民のもない。勉強ができるかできないか、それだけである。
当てられたコレットは、尋ねられた問題にしっかりと答えていく。百点満点の回答して、先生は思わず拍手をした。それにつられて生徒達も拍手をしたが、ソラがまるで自分の事のような嬉しそうな表情で、自身に拍手を送っていたことがコレットにとって、何よりも嬉しかった。
コレットが問題に答え、席に着くと、次は、ソラが問題を答える番となった。
ソラは先程問題をコレットと比べれば、完璧とは程遠いが、しっかりと回答にたどり着き、先生は再び拍手を今度は空に向けて送られた。
問題に答え、生徒達からは感心の声を漏れ、先生に続いて拍手を送った。
問題を答える際、正解をしているのか不安ではあったが、きちんと正解して、その上、コレットから拍手と「おつかれさま」と労いの言葉を送られて、ソラの心は上機嫌であった。
そんなことが朝からずっと続き、そして、昼食の時間となった時には ……。
「やあ、ジェラード様。よろしければ、この僕に勉強を教えてくれないかい?」
「何言ってんだ! ジェラード様はこの僕に勉強を教えてくれるんだよ!」
「ふざけんな! 勉強はこの俺と一緒にするだよ!」
「何を!」
「ソラ様。これから私達と昼食をご一緒しませんか?」
「是非、あなたのお話をお聞きしたいわ」
「ちょっと! ソラ様は、私達が誘うつもりだったのよ!」
「そうよ! じゃなさないで!」
昼食の時間となった直後、ソラ達の席に一気に人が群がって来た。
昼の時間を誘おうとして、次第に討論のように熱が入っていく。みんながみんな、ソラとコレットを誘おうと必死になっている。
コレットはそんな生徒達の姿にオロオロとし始める。自分が原因で、この現状を作ってしまったと責任を感じ、必死に止めようと試みるが、誰一人聞く耳を持たない。自分が誘おうと躍起になっている。
そんな中、一人の男の発言で現状に静寂をもたらした。
「コレット様。少々よろしいですか?」
「は、はい? 何ですか?」
「実は、編入生の方はお昼の時間に一度、お弁当を持参して職員室に来るようにと承っておりまして……。うまく話す時が無かったので、このような形でお伝えしなくてはならなくなり、申し訳ないのですが……」
「わ、わかりました。……それでは、向かうしましょう。みなさま、ということなので、申し訳ありませんが失礼いたします」
ソラの言葉に全員が突如静かになると、コレットの謝罪な声が響き渡る。頭を下げ、収納バッグから持参していたお弁当を取り出すと、教室の外へと足を進めた。ソラも自分の荷物をまとめコレットの後に続いて部屋を出て行った。
その後、事情があるのなら仕方ないと、コレット達の席に集まっていた生徒達は全員その場から離れていき、元の生活へと戻っていった。
*
「……それで、どうして二人が私の席に来て、その上、一緒にご飯を食べているのかな?」
「まあ、生徒を助けると思って、ここは一つ」
「ごめんなさい、リシア先生」
職員室にまでやってきたソラ達は、リシア先生を発見すると、そこで一緒に昼食を取り始めた。
つまり、ソラが言った言葉は真っ赤な嘘であり、職員室までやってきたのは、あの場に残り続ければ、喧嘩沙汰になる勢いだったため、それを回避する為に職員室にまでやってきたのだった。
「……まあ、この学校であなた達のようなすごく優秀で、その上皇国お姫様とその騎士。生徒たち全員がその恩恵にあやかりたいのよ」
「このような対策は、普通は先生方が行うものなのだけどな。国のお姫様が困ることや下手をすれば怪我をさせてしまう事を想定する事ぐらいしておかなければいけなかったんじゃないかな?」
「うっ! た、確かに、それはこちらの配慮が足りなかったわ。一国の姫が怪我でもすれば、私達の首が飛ぶわ」
「まあ、今回はその前に気づいたんだから、よかったじゃんか」
あ、これおいしい。と箸を使って食べ進めるソラ。
その言葉を聞いて、お弁当を作った張本人は嬉しそうに微笑んで同様に箸を進める。
この世界に箸と呼ばれる物はそもそも存在していなかったが、二年前からソラが好んで使っていることが多かったことから、コレットも同じように使い始め、現在では当たり前のようにそれが使えるようになった。
多くの者たちは、ソラ達が使っている物がわからず、奇妙な物を使っているな……という認識なのだが、古代語について理解のあるものは、食事中に使われるあれが箸であると言う事を始めて理解し、その箸を凝視していた。
そんな時、職員室の扉が開かれ、かなり年老いたご老人が部屋の中に入ってくる。その入ってきた人物を目にした瞬間、先生達は一斉に立ち上がり、床に膝をついた。
入ってきた人物を見たソラも同様で、すぐに床に膝をついて頭を伏せた。対して、コレットはソラ達とは対象に、凛と立ち、入ってきた人物を真っ直ぐに見つめた。
「おや? 君は確か……」
「……お初にお目にかかります、国王様。コレット・フォン・ジェラードと、申します」
「おお! やはり、皇国の姫君であった!」
中にやってきた人物、国王クロスフォード・エルフィードはコレットの名前を聞き、なにかを思い出しように笑みをこぼした。
そう。先生達が頭を下げ、さらには世間にあまり詳しくないあのソラでさえ、頭を下げたのは、相手が元々暮らしていた国王であるとわかっていたからであった。
ソラはちらっとコレットの様子を見る確認する。強張った様子で、誰にでもわかるように緊張した雰囲気が伝わってきていた。
「そうか……。つまり……」
「……あ」
コレットの名前を聞いて、なにかを思い出した国王は、コレットではなく、その側にいるソラの方に視線を向けた。
ソラに向ける瞳に何かを読み取ったコレットであったが、それが一体何なのかは分からなかった。
「……君達は編入生だ。これから大変なこともあるであろうが、頑張りたまえ」
「へ? は、はい!」
ソラに向けられた何かを考えることに気を取られ、返事を返すこと以外何もすることが出来なかったコレット。しかし、しっかりと返事を聞いた国王は満足したように職員室の奥の部屋へと進んでいった。
そんな突然おきた数分間の出来事に、その場に残った全員が、まともに動くことが出来なかった。国王の登場は、それほどまでに衝撃であったのだった。