編入生
デートがお出かけに変わったあの日から数日が経ち、編入試験合格した僕は、着慣れない魔法学校の制服に袖を通していた。
「やっぱり、着慣れないな……」
僕は鏡に映る制服姿の自分に苦笑いを浮かべる。
本当に似合っていない。
(やっぱり、こういった格好は似合わないな……)
そんなことを考えながら、似合わない制服姿で部屋を出た。
編入試験に合格した僕達は…というか僕は、学校にある寮の方ではなく、コレットと同じ皇国の別荘で暮らすこととなった。
理由は二つ。
一つ目は、コレットを守るという依頼を言い渡されていること。これは別に兵達がいる宿舎でも構わないのではないかと思ったのだが、マリーさん…王妃様の「愛する二人はいつも一緒にいるものよ」の一言で守るコレットと同室という事になりかけたが、建前など様々なものがある為、隣同士ということで話がまとまった。
その際に今更と言った表情を浮かべたのだが、一応話がまとまったので、あえて口を挟まなかった。
二つ目は、僕達の力…いや、魔導をあまり露見させない為である。
今回の編入試験。怒りに身を任せた行動によって、試験官や教師、他国の代表や王に魔導の確定的な存在をチラつかせてしまったからである。チラつかせたという表現を取ったのは、それが未だに逸話としての存在。もしくは、ありえないものだと思考を放棄させている可能性があるということからである。
それが目くらましとなり、誤魔化せているのだが、あと盾は未だに印象に残っているということで、次にあの盾を使えば、魔導が確実に露見してしまうので、それを控えるようにする為、その情報が外に漏れないようにさせるための手段であった。
二つの理由に僕としてはいつのまにか政治に巻き込まれたと思いつつも、『これからもコレットと一緒に居られる』という喜びの思いでいっぱいであった。
やっぱり、好きな人と一緒に居たいという思いは万国共通だと思う。
それに、自分としても、少し真剣に考えられる場所が欲しいとも思っていたので好都合でもある。
部屋を出た僕はアッシュさん達との話を思い出しながら、準備の済ませてある朝食を運んでいく。
ソラ達が帰って着てからというもの、皇王、ジェラード家食卓は大変騒がしく、楽しいものとなっていた。
そもそも、ソラ達の食事は大きなテーブルを使ってお上品に食事を行うものではなく、騒ぎ、汚いような行動をすれば注意し、そんな当たり前の姿を笑っているような食事を行うものであった。
そんな二年間続けてきた事をいきなりやめることはできず、当然のように行った。最初は下品だと、不謹慎だという目で見続けられたが、ソラ、そして事情を知りよしもないユイはその視線を完全無視。いつも通りの食事を続けた。
そんな事をすれば、最も近くにいるコレットが注意するはずなのだが、逆にコレットも同様に騒ぎ始める。
騒ぎ、笑い、楽しく食事をするソラ達に兵達は徐々にイライラが主だって出てくる。下手をすれば誰が何かを叫んでしまうのではないかと思われたその食事風景に一人の笑い声が湧き上がった、
その笑い声は誰であろうアッシュである。
アッシュは笑みの絶えないソラ達の食事風景に耐えることが出来ず、一緒になって笑みをこぼす。その隣には必死になって笑みを抑えるマリーの姿もあった。
その日からジェラード家の食事風景は変わっていった。色々な言葉が飛び交うのは当たり前となり、不機嫌だった兵達は「おいしい!」と喜ぶユイが自ら兵達の元へ駆け寄って一緒に料理を摘む光景が見られるようになり、静かで由緒ある食卓が、まるで宴会のような楽しいものへと変わった。
アッシュさんが笑って食事するようになってから未だに冷めた料理が出てくることがあるけど、それでも笑顔な食卓にはなったな……。
そんな事を思いつつ、長年鍛え上げたウェイトレスでの給仕をテキパキとこなし、料理を運んでいった。
その際、妙に執事さんやメイドさんに感心したように見られるのが、謎ではあるのだが……。
そんな視線を気にしないようにしていると、外からアッシュとマリー、そしてクロエが中に入ってくる。
「おはようございます。アッシュさん、マリーさん。そしてクロエ」
「ああ、おはよう」
「おはようございます」
「ええ。おはよう。でも、私のことはマリーさんではなく、お義母さんでもいいのよ?」
「えっと、それは……、もう少し待ってください」
いきなりそれは…心の準備が……。
そんな事を思っていると、アッシュさん達が席につき始めるその直前、再び部屋の扉が開き、遅れてやってきたもの達が中に入ってきた。
それはいつものように小さな手を引いて、その子にとって大きな人を必死に引っ張って中に連れて入ってくる。
中に入ってきた人物は僕と同じような制服姿であり、その綺麗な髪を揺らしながら、僕とその瞳が飾ると、恥ずかしそうに頬を染めて、視線を晒し、前髪を自身に耳にかける。
「……似合ってる?」
そんな言葉を言われ、僕は思わず言葉を返すとが出来なかった。
代わりに、
パリンッ!
「あ、落とした」
手に持っていた料理の皿を見事に落として、その姿に見とれ、固まってしまっていた。
その後、皿を落とした事をアッシュさんに叱られたのは言うまでもない。
*
『今日この日、我々編入生一同は、この魔法学校に編入出来た事を心より、感謝し、』
学校にやってきたソラ達は、代表者として、最高成績を出した(編入試験を行った人数及び、合格者は二人だけである)コレットが代表して、編入の挨拶を行なっていた。
コレットは、お出かけから帰ってきていきなり言い渡されたにもかかわらず、しっかりと挨拶を済ませていく。
舞台袖にいるソラは少し視線を動かせば、多くの生徒達の中にいるエリーゼやトム達の姿を捉える。……ついでに、ビンスの姿を発見した為、少しだけ嫌気がさす。しかし、気にしまいと、コレットの方に視線を戻した。
『……我々編入生は、常に精進し、多くのもの学んでいきたいです。編入生代表、コレット・フォン・ジェラード』
コレットが挨拶を済ませ、頭を下げると、大きな拍手に見舞われた。拍手を受けたコレットは、まるで慣れたような様子で、袖の方へと、退出していった。
「おつかれ」
「も〜。そう思うなら、君がやってよ!」
「残念だったな。僕には無理だ」
「自慢げに言わないでよ。はあ〜」
胸を張って言い切ったソラに対し、珍しくため息を漏らすコレット。そんなコレットに向けて「素晴らしかったわよ」と駆け寄ってきたリシア。
「ジェラード様、大変素晴らしいお話でした」
「ありがとうございます。リシア先生」
「あと、私としては、ソラ君が何かしでかさないと不安でもあったかな」
その言葉聞いたソラは苦笑いを浮かべて顔を引攣らせる。
(そんな風に思われてたのか……)
そんなことを思っていると、背後から突き刺さるような視線が飛び込んできて、バッ!と背後を振り返った。
背後には誰一人おらず、少しの間見つめていても、結局何かを見つけることはできなかった
その後、長々と話す先生方に捕まり、結局、自分達の教室にわずかに遅れることとなった。
「……もう少し、待ってみた方可愛い良さそうですね」