これはデートです(デートとは言わない)
試験を行った一日超え、新たに日が昇った次の日、ソラはコレットの約束通り、デートをする為に、中央国の町を歩いていた。
「……はあ〜」
太陽が日中で最も高い時間を超えて、町中を歩いたいたが、重いため息を漏らしていた。
「? どうしたの?」
「いや…なんでもない……」
「アハハ……」
そんなソラの側には純粋そうな瞳で首を傾げるユイとため息の理由がわかっているコレットの姿があった。
なぜ、デートをしている二人の側にユイがいるのかというと、それは二人が出かける数分前に遡る。
*
出かける直前、二人は別々の部屋で一生懸命身嗜みやおしゃれをして、デート準備をしていた。といっても、コレットはまだしも、ソラはそれほど多くの服を持っていなかった為、魔法で綺麗に洗浄された汚れや臭いが一切ないいつもの通りの服に、魔装のコートを着て、できる限りコレットが恥ずかしくない服装を身に纏い鏡の前で最終チェックを行う程度あった。
対してコレットは、最近の気温がどんどんと高くなっているので、少しだけ露出がありつつも、清潔感や美しさが引き立つ様な白いサマードレスにクロエ特製の日焼け止めを塗り、シワが寄っていないかを確認していた。
二人のチェックが終了し、いざ出かけようと、玄関に向かうと、ちょうど扉の前で鉢合わせとなった。
鉢合わせした二人はお互いの姿を確認すると、顔を赤くしてすぐに顔を晒した。二人とも、デートということを意識して嬉しくもあり、恥ずかしくもあった為、顔を晒しながらも、チラチラとお互いを確認していた。
コレットは、いつも通りのソラの服装にもかかわらず、その姿に鼓動が高鳴り、胸をときめかせていた。
ソラはいつもと違うコレットの姿を直視することができなかった。ほぼ夏と言って過言ではないこと時期に、コレットの姿はその夏に相応しいサマードレスなのはわかったのだが、その姿は当然薄着である。サマードレスの形式上、コレットの肩は露出し、その柔肌が露わとなっている。
その姿に鼓動を早めながらも、意を決して、コレットの側に歩みを進めると、腕を回し、優しく自身に向けて体を引き寄せた。
体を引き寄せられたコレットは驚いて大きく目を見開き、ソラの顔を覗き込む。
目を強く瞑り、恥ずかしそうな表情を浮かべているソラの姿を確認したコレットは頬を赤くしたまま、ソラの背中に手を回し、強く抱きついた。
ソラは驚いて一瞬体をビクつかせるが、必死に堪え、逆に引き寄せる力を強めてコレットに答えた。
しばらくの間それが続き、ゆっくりと離れていくと、
「……行こっか」
「……ああ」
もはや嬉しさや恥ずかしさが頭どころか心全体を支配して、ぎこちない返事で言葉を交わした。
嬉しさや恥ずかしさなど様々な感情が入り混じり、顔を赤くし、ぎこちなく緊張した表情を浮かべる二人がゆっくりと玄関の扉を開き、外に出た。
「どこにいくつもりなの?」
「「……ユイちゃん?!」」
扉を開いたその瞬間、二人を待ち構える様にして、ユイが扉の先で待ち構えていた。
二人は目の前に突然姿を現したユイに驚きの声を漏らした。
ユイの格好は、自分も出かけれるようなしっかりとしたおめかしをし、なおかつ、動き易い子ども服を着て二人を待ち構えていた。その側では申し訳なさそうにしてクロエが乾いた笑みを浮かべている。
「ユ、ユイちゃん、どうしてそんなところにいるのかな?」
「ママとソラ、一緒に出かけるつもりだったでしょう? ずるい! 私も連れてって!」
「ず、ずるいって……」
「ユイちゃん。僕達は、」
「ずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるい!」
「「……」」
これは止めても無駄と悟った二人は、近くにいたクロエに目線を向ける。
目線を向けられたクロエも諦めたように首を横に振って目を伏せていた。
ただをこねるユイにソラ達困り果てた結果、二人っきりのデートが三人での中央国の探索へと変わったのだった。
*
そして現在。
三人で町中を探索して、様々なお店を見て回るだけ… …のつもりだったのだが……。コレットが、
「そういえばソラの服って、基本同じような服ばかりだよね?」
ということで、ソラの新たな服の調達をする為のお店巡りへと変わった。
ソラの服装は、基本的に黒色が多く目立つ為、それとは対照的な白色を基調とした服装でコーディネートすることになった。
……まあ、それだけで終われば、楽しいお出かけで終わるのだが、そんなことはまずありえない。
年端もいかない少女を連れた、未だ成人していない母とその男性。当然、行く店行く店注目を集める。
さらにその母親が皇国の娘であるという噂はすでに町中に広がっており、そんな娘が子どもを連れて、町を歩き、まるで家族のお出かけのようにあるか男女と子ども姿を見れば、町中の人はどう思うだろうか……。
町の人達は、ソラ達が聞こえないような声でパニックとなっていた。
その上、コレットは十人が十人中、綺麗や可愛いといった好評価を受ける少女であり、さらにいえば、そんな少女と似ていないが、将来間違いなく綺麗なるであろう娘。そんな二人が見た目も普通でモテそうにもない男と一緒にいれば、自分にもチャンスがある勘違いするものも現れ……。
「お嬢ちゃん達〜。俺達と一緒に遊ばない〜?」
「そんな男と一緒にいるよりも、きっと楽しいよ〜」
「キッシシシ!」
……と、こんな誤解をした奴らまで現れる始末であった。
コレット達に話しかけてきたのは、この国を守るはずの衛兵達であったが、見るからに貴族出身を隠していないゴテゴテの格好をした貴族士官であった。
ソラはさらにため息を出して、不機嫌さを出さないように無表情で目を細める。これでも一応抑えているつもりであり、最初から怒っていた場合、『話しかけた瞬間頭を吹き飛ばす』程度はやってみせると自負していた。
それをわかっているコレットだからこそ、自分の為に怒っているソラを嬉しく思っており、話しかけられているからそれを表に出さないことを不満に思っていた。
「なあ、いいだろう。こんな優男よりもさ〜」
「お断りします。私達はお出かけを楽しんでいたんです。それを邪魔しないでください」
コレットはさらに自身を誘ってくる三人の貴族士官の誘いを断ってユイの手を強く握り、ソラの腕に抱きついた。腕に抱きつかれたソラは、一切の抵抗を見せず、受け入れて二人を守るようにして少しだけ抱きつかれている腕とは逆の脚を前に出す。抵抗を見せなかったことで、コレットは今まで感じていた怒りが嘘のように吹き飛び、嬉しそうな表情を浮かべた。
それを見せつけられ貴族士官達は無理矢理引き離そうと貴族士官の一人が抱きついているコレットの手に手を伸ばした。
次の瞬間、手を伸ばした貴族士官がはるかに後方に吹き飛ばされた。
残った貴族士官達は一瞬何が起こったのかわからず、後ろへ振り返った。遠くの方では、先程まで隣にいた貴族士官が道のど真ん中で横たわっており、起き上がる気配が全くなかった。
「……コレットは皇国のお姫様だ。そのお姫様にナンパなんてして、許されると思うなよ」
そんな声が聞こえ、残った二人はやばいと直感したが、時すでに遅く、逃げ出そうと脚に力を込めようとした瞬間、世界が反転し、そのまま二人の意識は闇へと落ちていった。
二人が地面に横たわり、意識を失うと、構えていた前に出した脚と同じ方の腕を下ろした。
「……行こうか」
「うん♪」
「ご〜!」
その言葉にコレットは嬉しそうに返事をし、ユイは高らかに手を掲げた。そんな姿を見た町の人達は安堵の息を漏らし、騒ぎ立てず、三人を見守ることに専念し始めるのだった。
その後、目立つ為事件は起きることなく、夕日の中、一つの袋を待って、真っ直ぐに帰路についていた。
「……ありがとう」
「ふふ。どういたしまして」
夕日のせいか、ほんのりと赤くなった頬をしたソラが視線を逸らしながらコレットにボソッとお礼を言うと、コレットは嬉しそうに持っている袋が潰れないように優しく抱きしめながら、お礼を受け取った。
ユイは初めての町をたくさん歩き回り、疲れ果ててソラの背中で眠っていた。
そんな三人の光景にすごく家族という光景が頭から離れず、頬を緩ませ、思わず笑みを浮かべていた。
こうして、ソラとコレットのデート?はゆっくりと幕を閉じていった……。