嬉し恥ずかしい本心と通知の裏で
「おめでとう、二人とも! 編入試験、合格だ!」
「「……」」
二人が皇王の別荘に到着してまず驚いたことは、皇王画喜んで二人を迎い入れる姿であった。
二人は、試験が終了し、後日結果を報告すると試験官に言い残し、その場を去っていった。
何もすることがなくなったソラ達は、ひとまず、一度帰宅し、約束していたことをじっくりと話し合おうと考えていた。
しかし、いざ戻ってみれば、皇王であるアッシュが喜びながら、二人が帰ってくるのを心待ちにしていた。
ソラ達はすごく喜んでいるアッシュの姿に目を見開いて固まっていた。いつも冷静な口調で話しをするアッシュが周りの目なんてお構い無しに嬉しそうな表情を見せていることに、二人は驚いていた。
「あの、えっと……、発表は後日だと聞いていたんですが……」
「ああ、そうだね。でも先程、合格に対する会議行われたんだ。ほぼ満点に近い完璧な試験結果を出した我が娘と多くの者の予想をはるかに上回る結果を示したソラ君。そんな二人を不合格にする程、あの学校はバカじゃないよ」
「えっと…つまり……」
「合格だよ、二人とも」
「……やった〜!!!」
試験の結果を親身に理解したコレットは嬉しそうに飛び上がり、横にいるソラの腕にくっついた。
「やったね、ソラ! これからは、一緒に学校に通えるよ!」
「う、うん……」
「私、楽しみだったんだ〜。ソラと一緒に学校に通ってみたいって王都の時からずっと思ってたから……」
驚いていたソラは、コレットの言葉で意識を取り戻す。
ソラから離れ、嬉しそうに顔の前で手を合わせて頬をほんのりと赤く染めているコレットの姿を見て思わず頬が緩むソラ。手を伸ばし、優しく頭を撫で、暖かな視線をコレットに向ける。
頭を撫でられたコレットは、驚いた表情を浮かべるが、すぐに頭を撫でられていることに気付くと、嬉しそうに頭を撫でられ続ける。
そんな二人の姿を間近で見ていたアッシュは嬉しそうに二人を見守っていたが、少しだけ不機嫌そうに口を引きつられていた。
「……ゴホンッ!」
「「?!」」
「私はまだ、二人の結婚を認めたわけではないのだがね!」
「す、すみません……」
「……まあ、人の目のないところならば、別に構わないがね」
「そういえば、コレットのことを種馬扱いした奴がいました」
「そいつはどこの誰だ。今からその家ごと終わらせてくれるッ!」
「お伴します」
「待って待って待って、二人共!」
ソラは自身の試験開始直前に言わされた言葉をアッシュに伝えると、それを言ったビンスのお家ごと終わらせようと別荘の敷地外に向けて歩き出そうとした。ソラもそれに同伴し、今度こそビンスを叩き潰そうアッシュの後を追う。
コレットは急いで二人の前に飛び出して、二人の行く手を阻んだ。
「お父様! 私は別に何もされていませんし、ソラが私を守ってくれました。だから、そこまでする必要はありません!」
「コレット…だがね……」
「ソラも! さっき約束したことをもう忘れたの?!」
「皇王様という大義名分があれば、一番大切な君やユイちゃんを守れる思ったから」
「…………う、嬉しいけど、だ、ダメだからね! 絶対ダメだからね!」
必死に止めるコレットは、早速約束を破ろうしたソラに怒るものの、それをやろうとした意味と本気さに耳まで顔を赤くし、嬉しそうに顔をにやけそうになるが、それを必死に抑えて、それを言い聞かせた。
「そ、そんなことより、部屋に戻ろう! この後のことについてちゃと話そう!」
「え、あ、ちょ、ちょっと……」
「いいから!」
コレットは無理矢理ソラの手を引いて、別荘の中に入っていく。その時、ソラも顔が赤くなるが、それ以上に嬉しさや恥ずかしさが、隠しきれなくなってきたコレットはそれを誤魔化すようにしてソラと一緒に別荘の中に入っていった。
「……私も、あの子があの年の時には、恋に恋していたかな…ユゥリ」
「は、はい!」
アッシュが二人の後ろ姿を見送ると、ようやく周囲にいたユゥリに声をかけた。
「情報を集めろ。可能な限りで構わない。ソラが相手をした男。そして、その家族関係を徹底的に調べ上げろ。私の娘を馬扱いしたことを後悔させてくれる」
「は!」
アッシュの命令を受けたユゥリは深く頭を下げる。そんな命令を下したアッシュは静かに、そしてゆっくりとソラ達の後を追って別荘の中に戻っていった。
*
「……よろしかったのですか?」
「何がだ?」
「彼らに試験の結果を伝えるのは私の役目。それを自身の娘に伝えるという都合だけで、試験の結果を伝えるなど……」
「構わんではないか」
会議か終了し、ほとんどのものが退出した中、編入試験の結果を説明していた秘書の人と二人の合格通知を言い渡した帝国の帝王の二人がその場に残り、話をしていた。
「所詮はただの合格通知。本当に大変なのは、ここからだ」
「……左様でございますか」
秘書の人は何も言葉を返さず、頭を下げる。
秘書の人は、この中央国協同魔法学校の帝国からの代表を務め、その前は、十数年間帝国王の秘書を務め、帝国を常に支え続けていた。
「ところで、なぜ彼を採用したのですか?」
「なぜ、とは?」
「彼は確かに素晴らしい才能を持っていると思っています。しかしながら、彼には両親が居らず、引き取ったものに、育てられたと書類では書かれてあります。王都での魔法成績は最底辺であり、目立った成績は一切ありません。ですので、私はてっきり合格はさせないものだと」
「……今回の彼の成績を、君はどう思ったのかね?」
帝王の言葉に秘書の女性は少しだけ考えて、口を開く。
「成績そのものは素晴らしいの一言に尽きます。魔法については文句なしの好成績でしょう。あれ程の魔法を使えるものは歴代でも早々いないでしょう」
「成績についても申し分ありません。しっかりと魔法についての理解を深め、素晴らしい結果を残している思います」
女性がそう言うと、帝王は頷いて椅子にもたれかかり、膝をつき、手を顎に手をつけた。
「そう。それだけの結果を残せるものを切る事など、この中央国協同魔法学校にあってならぬ事だ。成績は軽く調整すれば、すぐにものになるだろう」
「だが、」
ソラの結果に満足する結果、そして評価をした帝王であったが、その言葉にはまだ続きがあった。
「我々以上の解読技術、そして文面を読み取るセンス。それらだけ見れば、彼は確実に使える。我々の発展の為にな」
帝王は不敵な笑みを浮かべながら、机の上に置かれてあったソラの書類と筆記試験の結果を見つめていた。
「ソラ…か……。彼に古代語解析科への授業を受けられるように手をかけてやれ。ふふふ、これから面白くなりそうだ。そう思わないか?」
「はい」
笑いながらソラの結果と書類をギラギラと見つめている帝王とその側で帝王に使える秘書の女性は一言を言って静かに頷き、その姿を見つめていた。




