最終審査
試験を終えたソラ達は、真っ直ぐに闘技場の外へと向かっていた。
「ああ、もう! あいつ!!! ふざけたこと言いやがって!」
「ソラ、抑えて抑えて」
見るからに怒りを露わにしているソラを必死に鎮めようとするコレット。しかし、それでもソラの怒りは収まらない。
「あの野郎! 真剣勝負を自分をアピールするような場所だと考えやがって!! その上、女性の全てを自分の種馬としか考えてない! それを……!!!」
ソラが自分が行なった試験の相手に対して隠しきれない怒りを前面に出しており、それを抑えることが出来ないでいた。
相手は自分と戦っているのに、まるで自分を見ておらず、自分をよく見せようとすること以外何も考えておらず、それがソラの癇に障り、怒りを強くするのだが、それ以上に、コレットの事を自分の女にするとのたまい、さらに自分の竿の事以外何も考えられないようにするとはっきりと言い放ったことに対して、ソラはなによりも激怒した。
この際、学校に編入にすることは別段どうでもいいのだが、自分の好きな人が自分以外の人に靡くことも、自分以外の子供を下ろすことだけは絶対に許さことも、認めることもできなかった。
それ故に、コレットを自分の種馬にしようとしていたビンスを許すことが出来なかった。
ソラは最初に地面に叩きつける直前、一瞬だけコレットの姿が頭をよぎり、思わずビンスの頭を守ったのだが、二度目の一撃を叩き込もうとした時は本当に絶命させることだけを考えて盾を振り下ろそうとした。
まあ、それをコレットに止められた為、ソラは渋々盾を収めたが、ソラにとってはそれだけ彼女に対する思いがとても強かったのだ。
「あいつ…次会った時は本当に……」
「……ダメだよ、そんな事しちゃ」
「っ! コレットは、あんな奴の方を持つのか?!」
気持ちが高まっているソラは、次にビンスと会った時、全力で倒し、さらには命を絶命させても構わないと考えていた。
しかし、それに対して待ったをコレットはかけた。
自分の気持ちをわかってくれていると思っていたソラは、自分に待ったをかけたコレットに、僅かながらに怒りを表に出した。
それのことを充分に理解しているコレットはソラの気持ちをわかっていながら、それだけはしてはいけないとソラを静止させた。
「どうしてあんな奴の為に、君が止まるんだよ!」
「……だって、そんなことをしちゃうと…ずっと一緒にいられないから……」
「……」
ソラはその言葉の意味が理解できず、言葉を返すことが出来なかった。
「この学校の生徒さん達の多くは貴族の出身の人だよ。貴族はいろんな手を使って君を陥れようとするし、下手をすれば、君は犯罪者になってずっといられなくなっちゃうかもしれない」
「……」
「そんな考えをしている貴族達から、私やお父様達が君を守るよ。でもね、君が犯罪者になってしまったら、お父様達でもあなたを守ることが出来ないの」
「……そうか」
「私は、どんなことがあっても君と一緒にいるよ。でも、君を犯罪者なんて呼ばれたくないし、呼ばせたくない」
「わかった。わかったから……」
「それに、ユイちゃん。ユイちゃんには、迷惑をかけたくないし、心配だってして欲しくない。安心して、笑顔でいて欲しいの!だから…だから!」
「わかった! わかったよ、コレット!」
次第に思いが強くなっていったコレットは、ソラを説得しながら、涙を流し始める。自分のこと、そしてユイのことを一番に考えて思いを話してくれたコレットに、ソラは自身の胸にコレットの顔をうずめながら、優しく、そして強く抱きしめる。
「わかったよ、コレット。もうあんなことは二度としない。約束する。だから……」
「……うぅ……」
ソラは、涙を流すコレットの姿に見て、二度としないと心に誓った。そんなコレットは優しくも強く抱きしめられ、腕の中で、服を涙で濡らした。
*
ソラ達が真っ直ぐに闘技場を出て行こうとしている時、この学校の運営をしている代表者、そして三国の王達が編入に対する最終審査を行う為、集まっていた。その場所には当然皇国の王であるアッシュも出席している。
「それでは、先程お二人が受けられた筆記試験の結果をお配りします。主要教科をいっぺんに行った為、一問一点、合計点は二百点であることをご了承下さい」
そう言って、秘書の様なきっちりとした服装の女性が複写された試験結果を表した羊皮紙を配っていく。
この場にいる全ての人間を羊皮紙を配り終えると、女性は淡々と結果について説明を始めた。
「まず、コレット・フォン・ジェラード様の試験結果は百九十六点。魔法、戦闘技術試験においても、他の打ち所のない、完璧と言っても過言ではないでしょう。圧倒的な合格です」
おぉ〜……。と、この場にいる者達は驚きの声を漏らした。しかし、すぐに思考を切り替え、ソラに試験結果に目を通した。
「続いて、ソラ様ですが、試験結果は百六十二点です」
「百六十二点? おいおい、合格点ギリギリじゃないか」
「ソラ様は、試験を途中で参加しており、ジェラード様が試験を開始してそこそこの時間が経過しており、ジェラード様と同じ時に、試験を終了しております。同じ時に始めれば、さらに高い点数を取れたことは間違いないでしょう。点数の減点も小さなミスが目立つ程度でした」
「そ、そういうことは早めにねぇ……」
ソラの試験の結果聞いた一人の代表者が女性に向けて文句を漏らしたが、女性はソラが試験に途中で参加した事を知っており、点数の低さに対する理解をしっかりとわかっていた。その為、代表者にその旨を伝えると代表者は焦った様に口籠った。
そんな代表者達に向けて、女性は間髪入れずに言い放つ。
「さらに、この試験ではある教科だけは通常、満点を取れない様にしてありました。その教科は深い理解をしているものにしか解けないと、採点を行なった先生も申しております」
「深い理解?」
「はい。その教科では、さすがのジェラード様も躓いたのでしょう。四問も間違えておりました」
「その教科とは、一体なんなのかね?」
「古代語です」
女性がその教科名を口にすると、全員が納得した様な声を漏らした。
「当然だな。古代語といえば、旧ウィザード言語と現在では存在しないコンバットの文字が使われているのだ。多くの解析者がその解読に苦戦しているというのに、学生がそれほど高度な解析できるはずもない」
「……ソラ様この試験において、古代語の解読の点数だけ、満点を取っております」
「何?!」
代表者は女性のその言葉を聞いて驚きのあまり立ち上がった。
「さらに言えば、ソラ様の回答は我々が用意していた回答よりも優れた回答をしております。我々ですら解読できなかった部分も含まれた完璧な回答です」
その言葉を聞いた代表者達は、次々に声を漏らし、ざわめき始める。
「魔法、戦闘技術を合わせても、ソラ様は合格に値します。その上、これ程までの解読を行なえるのなら、この学校の解析者達より、優れた解析者になれることは間違いありません。編入させても、こちら側にさらなる利益が望まれるかと」
「……君は、言っていたな」
「ヒィ?!」
「彼は落ちこぼれのコンバットだと……だがこの結果はどうだ?」
「そ、それは……」
女性の説明が終わると、一人のご老人が声を出す。その声を聞いた立ち上がっている代表者は怯えた様に後ずさる。
「我々以上の解析能力を持つ少年を、貴様ら王都の者達は、『落ちこぼれ』と言い放っていたのか?」
「て、帝王、それは……」
「言い訳は良い! そのものを直ちにつまみ出せ!」
衛兵は、すぐさま王都の代表者を捕らえ、部屋の外に連れ出した。その時、代表者は「帝王! どうか、どうかご慈悲を!」と叫んでいたが、帝王は聞く耳を持たなかった。
「……」
静まり返る会場。その原因を作り出した帝王はゆっくりと口を開く。
「皆の者。今回の編入試験、ソラ、そしてコレット・フォン・ジェラード両名の編入を、了承しても構わんかね?」
この場にいる全員が頷く他なった。
「では、両名にはその様に伝えてまります」
「うむ。頼んだ。……アッシュよ。良き娘を育てたな」
「……はい!」
帝王からのお褒めの言葉もらったアッシュは、頭を下げながら、心の中でガッツポーズ取り、二人の合格心の底から喜んだ。
こうして、二人の編入最終審査は幕を閉じた。




