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空っぽの武装魔道士δ  作者: 火琉羅
中央国協同魔法学校
172/246

ソラの戦闘技術試験・開始

「おつかれ〜」

「おつかれさま!」


 ソラは闘技場ステージの上にあがり、コレットがミリアーナに勝利したことを労う。コレットも自身を労うソラの言葉に嬉しそうにぴょんぴょんと跳ね、手を振る。


 その姿を見ていた男達は、おぉ〜……という声を漏らす。


「……」


 ソラはその声が耳に入り、無意識に顔をしかめる。


 コレットを見ている奴らを全員を叩き潰そうとゆっくりと振り返ろうとすると、審判を務めていたリシアが気絶しているミリアーナを倒したコレットを呼んでいた。


「ジェラード様、一つ聞きたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」

「はい、なんでしょうか?」

「あなたは、ファルキスさんがあの鞭を振り下ろそうとした時、すぐに下がって距離を取りましたね。あなたはどうして、あの鞭が爆発することがわかったのかしら?」

「え! えっと……」


 リシアはミリアーナの鞭にコレットの二つの魔法が纏っていた矢が触れた瞬間、爆発が起きた事について尋ねた。


 尋ねられたコレットはどのように説明をすればいいのかわからず、言葉に詰まる。


 コレット自身、原理ついて教えてもらっただけで、何故そうなるのかを説明するだけの知識を持っていなかった。


 困り果てはコレットは、ちらりとソラに向けて助けを求めた。その視線に気付いたソラは、小さく肩を揺らし、コレットの手助けを始めた。


「先生、自分が説明しますよ」

「え?」

「コレット、今の爆発がなんなのかは、わかってる?」

「う、うん。水蒸気爆発……だよね?」

「すいじょうきばくはつ?」


「水蒸気爆発とは、高温のもに水が触れて、気化…空気の物質となって爆発するといった現象です。先程、コレットが放った矢には氷と炎がありました。それがあの雷に触れて爆発したという原理です」

「なるほどね……」

「ですが、爆発を起こすのにはそれだけの条件があります。それが熱量です」

「ねつりょう?」

「簡単に言えば、熱さ、です。ロウソク一グラムの熱量は、およそ四十六です。氷を溶かすためにの必要な熱量はおよそ四十八です」

「それだと熱量が足らないですよ?」

「それ故の雷です。雷の熱量は…まあ、確証があるわけではないので、正確かどうかはまったくの不明ですが、およそ二億五千万です」

「二億五千万?!」

「それだけの熱量が氷に触れれば、一瞬にして氷を溶かすことができます。その後、気化した氷を強い炎で熱したら……」

「炎が膨張して、激しい爆発が起こる……で、よかったよね、ソラ?」

「美味しいところだけ持って行きやがって……でも、合ってるよ」



 ソラ達が先程の説明をし終えると、試験官達は緊急会議開かれていた。


「……今の話は本当なのかね、()()()()()()()()?」

「……」


 試験官の一人として参加していた古代語解析科の先生は、その言葉に答えることができず、俯いて、下唇を強く噛む。


「蒸気やら、熱量やら訳の分からない言葉を並べるのは、古代語解析科(君ら)の専売特許だろう」

「は、はい……」

「本当に、分からないのかね?」


 古代語解析科の先生は、その言葉に対して返事を返すことができなかった。


「まったく……。君達は一体何をしているんだ!」

「……申し訳ありません!」


 先生は試験官に深々と頭を下げる。


 先生が深く頭を下げているものは、財力、そして権力のある帝国の貴族であった。




「僕からの説明は以上です。これ以上の解説はおそらく出来ないと思うので、事細かな物は後日、お互いに時間がある時に、じっくりと話し合いましょう」


 そう言って、ソラはリシアとの会話切って、コレットの方に向き合った。


「それにしても、よくがんばったな」

「えっへん! 私だって、やる時はやるんだよ〜」

「そんなことは、わかってるよ。……本当に、よくがんばったね」

「……うん」


 ソラはコレットの側に近づいて優しく頭を撫でる。撫でられるているコレットは抵抗することなく受け入れ、撫でられ続ける。そんなコレットの表情は、頬を赤くし、嬉しそうに顔を緩ませていた。


 そんな二人の姿を間近で見ていたリシアは、長年ソラを見守り続けていた人物にとって、その光景はとても嬉しい物であり、思わず涙ぐんでいた。


 対して、二人の姿を見ていた男達は、嬉しそうにしているコレット見て、その原因を作ったソラに嫉妬の目を向けていた。


 その視線を感じたソラは、あえてそれを無視して笑顔を浮かべる。


「それではこれより、編集試験番号二番の方、準備をお願いします」


 と、ここで、試験官の一人に呼ばれ、ソラの試験が行われることとなった。


「……大丈夫なの?」

「ああ、大丈夫だよ。だから安心してて」


 ソラがそう言うと、コレットは心配しながらも、その言葉を信じて、


「がんばってね!」


 と言って、ステージを降りていった。



 *



「……まだですか?」

「も、もう間も無く、やってきますので」


 試験が開始されると言われ、しばらく待っていると、いつまで時間が経とうと、対戦相手がやってくることはなかった。


 ステージの側に控えて、見守っているコレットでさえも、最初は妙な気合いのある表情を浮かべていたものの、今では少し飽きたような表情を浮かべていた。


「後どれくらい待てば、試験を開始できますかね?」

「ほ、本当に、もう間も無く……! き、来ました!」

「すみませ〜ん。遅れました〜」


 現れたのは、なんとも言えない妙に顔の整ったチャラチャラとしている金髪男が現れた。


 現れた金髪男に数名の女子生徒達はキャー!という歓声をあげた。


(ああ…なるほど……。この完全アウェーな空気で戦うのか……)


 大きな歓声が聞こえたのと同時に少し頭を抱えたくなったソラは、とても気だるそうに長いため息を漏らした。


「ビンス様! 一体どこで何をしていたのですか!?」

「おやおやこれはリシア先生。今日も実にお美しいですね〜」

「ふざけないでください!」


(…あのちゃらんぽらんなナンパ野郎の相手をしないといけないなんて……リシア先生も大変だな……)


 本当に困ったような表情で叱りつけるリシア先生の姿に同情するソラ。しかし、叱られているビンスは、その言葉を全然聞き入れておらず、何事もなく流していた。


「それよりもリシア先生。どうですか? 今度ゆっくりとお茶でも?」

「いい加減しなさい! それでも、()()()の人ですか!」

「……十騎士?」


 聞き慣れない言葉が耳に入り、知っている?という視線をコレットに向けると、コレットは知らないと首を横に振って応えた。


「(そうか……)あの、リシア先生。十騎士ってなんですか?」

「ああ、ソラ君。すみません……。えっと…十騎士とは、この学校で全学年含めて最優秀である十人の生徒与えられる称号でありまして、ここにいるアスタ・ビンス様は貴族出身であり、さらに、この学校で最優秀生徒の七番目に位置するほどの実力を持つほどの生徒です」

「……へ〜……」


 それを聞いたソラは、口元を隠しながら不敵な笑みを浮かべた。そのことに気付いたもの、その後ろ姿から何かを感じ取ったコレットだけであった。


「これは…()()()()……」

「? 何か言いましたか?」

「いいえ、何も言っておりませんよ。さあ、時間も押しているところですし、早く始めるとしましょう」


 ソラは手早く終わらせるために、リシアに早く始めるように呼びかけると、軽い目の戦闘態勢を取った。


 それを見たリシアもすぐさま始めようとアスタ・ビンスから離れると、ソラとビンスとの距離の中心で立ち止まった。


「それでは、戦闘技術試験、二回戦を始めます」


 リシアが堅苦しくそういうと、ソラは自身の右手首を振って、体を慣らす。


「ああそうだ。おい、お前」


 体を慣らしていると、目の前にいるビンスがソラに向けて話しかけきた。


「はい? 何ようですか?」

「お前みたいな平民のゴミには用はねぇよ。お前、さっきから後ろのお姫様と仲がいいみたいだな」

「……ええ、まあ……」

「よし…この勝負、俺様が勝ったら…いや、俺様が勝つことはわかりきっているから、この勝負が終わったら、()()()()()()()()()()

「……はあ?」


 ビンスのその言葉に思わず聞き返したいしまうソラ。しかしビンスはまるで取り合っていないように話を進めていった。


「お前のようなゴミに、彼女が釣り合うはずないだろう。彼女は俺がもらって、俺無しでは生きていけないような体にしてやるから、彼女をよこしな」

「……そうか…よ〜〜〜く、わかった」


 聞く耳を持たないビンスの言葉にソラは、


「それでは、始め!」


「叩キ潰ス!!」


 殺してでも、喋れなくなるほどに叩き潰すと誓い、戦闘技術試験が開始されるのであった。

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