コレットの戦闘技術試験
中央国にある三国協同の魔法学校、中央国協同魔法学校。その校庭から突然現れた、天に向けてそびえ立つ巨体な炎の柱に、その光景を目の当たりにしたもの達は腰を抜かし、ぺたりと座り込み、大きく口を開けながら、顔を真っ青にしていた。
その炎を作り出した張本人は、その炎をしばらく見つめ、背後にいるコレット達の方に振り返り、歩き始める。そして、コレットに少しずつ近づきながら魔法を解除し、炎の柱を消滅させた。
「残りの試験って、戦闘技術だけだっけ?」
「うん。そうだよ」
「そっか…ああ〜! 早く試験、終わらないかな〜!」
この場にいる全員が、唖然として腰を抜かしているというのに、コレットとその原因を作ったソラは何事も無かったかのように話をしていた。
「ま、待ちなさい!」
「はい?」
「こんなもの認められるものか!」
そんな中、一人の試験官がどうにかして立ち上がり、ソラに向けて訳のわからない言葉を言い放った。
「……それはどういう意味なのでしょうか?」
「こんな結果認められるものか! 貴様のような落ちこぼれが、こんな魔法を使えるわけがないんだ!」
そう叫んだ試験官は、落ちこぼれであるソラを見下している貴族派の人間であり、王都での成績の悪さを知っていた故に、先程のソラの魔法が作り出した炎の柱を理解する事が出来なかった。
そんな中、その言葉を聞いたソラ…ではなく、コレットはその表情から笑顔が消え、真面目な顔になると、横にいるソラの横を通り過ぎて前に出ようとする。
「ちょちょ! 待て待て待て待て!」
ソラは前に出始めたコレットを急いで止めに入る。コレットの手を引いて、制止をかけ、コレットも自身の手を引っ張られ、自身がやろうとしている行動に気付き、恥ずかしそうに顔を赤らめて俯いた。
「……。あの、それはどういう意味ですか?」
「意味も何もない! 貴様のようなコンバットが、この由緒ある中央国協同魔法学校に編入する事など許せるものか!」
試験官が言った言葉は、コレットをさらに不機嫌にしていくもので、少しずつ怒りの表情が露わになっていく。
流石のソラでも、少しずつ怒り始めているコレットを誤魔化すのにも限界があった。
「魔法も使えないゴミが! 優秀な生徒を上回る強力な魔法を使えるはずがないだろうが!」
「! ……リシア先生、本当なんですか?」
「はい? ええ…まあ……。先程の魔法に及ぶようなものは、私が務めてから一度も見た事がありませんね……」
怒れる試験官の言葉にコレットは真意を確かめるべく、リシアに本当なのかどうかを問いかけた。
リシアはその問いに疑問に思いつつも正直に答え、それを聞いたコレットは試験官を見ながら嬉しそうなニヤケ顔を浮かべた。
「へ〜〜。つまり、ここにいる生徒さん達は、私達とは比べ物にならないほど弱いという事でね」
「?! ど、どうしたんですか、コレットさん?!」
「え〜。なんでもないよ〜」
いやいやそんな事ないでしょう! と思いつつも、それをあえて口には出さず、グッと言葉を飲み込む。
しかし、時すでに遅く、試験官の尾は切れていた。
「……ふざけるな! ならば、証明してもらうじゃないか!」
その言葉を皮切りに、ソラの戦闘技術の試験にて特別な試験が行われる事となった。それに最もやる気を出したのはソラ本人ではなく、手を引いているコレットであった。
コレットは、望むところだという態度で試験官に相対し、リシアはそんな二人を交互に見ながら、ソラの目には珍しくオロオロしているように思えた。
そんな中、たった一人だけ、見るからに不機嫌な…面倒そうな表情を浮かべていた者がいた。中心に人物であるソラである。
ソラはコレット自信が耳打ちをしたデートをする為に早めに終わらせようとした結果、このような事となり、余計に面倒を引き起こしたので、どっとうなだれるのであった。
*
ソラ達は戦闘技術試験を行う為に、試練闘技場へとやってきていた。
「それでは、ソラ君の代理試験官がこちらに到着するするのにもうしばらくかかりますので、先にジェラード様の試験を行います」
「は〜い。それじゃあ、行ってくるね♪」
「お〜。がんばれ」
審査担当の試験官であるリシアに呼ばれたコレットは、闘技場の隅にあるソラに向けて挨拶を済ませ、トコトコとステージに駆け足で向かって行った。
(まあ、コレットが負けるとかはまずありえないし、今回のコレットの試験で相手の実力を把握出来るし、問題ないだろう……)
隅の方で闘技場のステージを見つめるソラ。
(そういえば、こういうところでの戦闘は初めてだっけ……)
そんなことを思いながら闘技場にいるコレットを見守っていた。
闘技場にいるコレットは、試験官の登場を待ちながら、軽い柔軟運動を行っていた。そんな姿を見た試験官や男子生徒達はおお〜……とその揺れる果実に注目を集めていた。
そんな男達は異様な寒気が襲い、散り散りに去っていく。
不意に聞こえた舌打ちの音とともにガチャリという音と共に、その寒気が無くなった。
コレットの軽い柔軟運動が終了すると、闘技場に試験官の先生が現れた。
「それでは、編入試験を開始させていただきます。ジェラード様の担当はこの私、ミリアーナ・ファルキスが行わせていただきます」
そう言って自身がかけているメガネをくいっとあげ、見下ろすように闘技場のステージの床を持っていた鞭で叩いた。
ほとんどのものがその鞭の音で、驚きの声を漏らすが、一部のものからは、その鞭の音に息を荒げ、顔を赤くし、涎を垂らす男達がいた。
ミリアーナは、見るからに男を魅了するような引き締まったスタイルに男が愛するような巨大な象徴をデカデカと揺らし、子供には見せられないような露出の高いボンテージを着こなし、崩れていない顔に赤いフレームのメガネと口元にできた黒子がさらに彼女の妖艶さを強めていた。
故に、
(ユニ…あの試験官さんを、早く倒そう。ユイちゃんの教育に良くないし、それに、彼女にソラの視線が向くことなんて絶対に許さない!)
(はあ……。わかりました。手短に終わらせてくださいね)
コレットの心は決まった。
コレットがミリアーナを見つめながら、床に向けて手を広げると、一本の矢とコレットが魔装で使用する弓が出現した。
それを見た試験官達は食い入るようにコレットを見つめ、とある疑いの目を向ける。
対して、隅にいたソラも弓を出した事に目を丸し、言葉を失っていた。
「それでは先生、お願いします」
「……は! わ、わかりました。……お互い、準備はよろしいですか?」
二人は互いに見合いながら、静かに頷く。
「それでは……、はじめ!」
リシアがそう言うと、すぐさま動いたのは、ミリアーナであった。
ミリアーナは自身が持っている鞭に魔力を流し、その魔力に電流が流れる。
「《サンダー・ウィップ》!」
「……電撃の鞭…ですか」
「ええそうよ。この鞭は、一度でも触れれば、巨大な熊ですら、感電死させられる程の強力な力を持っているのよ」
「そんな鞭を生身で持っていられるはずがありません。かなり、魔力操作の練習をさせられたんですね」
「あら、あなたにはわかるのかしら」
「はい、わかりますよ。なぜなら、自分の魔力を完璧に操れる様に、眠る暇も惜しんで特訓明け暮れた、私の大切な人の背中を見続けてきたんですから」
「……そう。でもそれに、なんの意味があると言うのかしら?」
「私の勝ち、ということです!」
コレットは手に持っていた矢に燃えたぎる炎と、強い冷気を放つ氷を渦状に纏わせ、弓を引いた。
ミリアーナも弓を引いたと同時に電流が帯びた鞭を振りかぶる。コレットは、その鞭が振り下ろされるよりも早く弓を引いて、矢を放った。
矢は真っ直ぐにミリアーナに向かって飛んでいき、身の危険を感じたミリアーナは標的をコレットから、自身に飛んで着ている矢に変更し、鞭を振り下ろした。
それを確認したコレットはすぐに距離をとって、地面に座り込み、それ見ていたソラもすぐに身を隠す。
そして、振り下ろされた鞭がコレットの矢先に触れた瞬間、突如として強い爆発を引き起こした。
ステージは爆発によって白い煙に包まれ、戦いの様子を確認する事が出来なかった。
多くの者がステージの様子を伺い中、隠れていたソラが姿を現し、静かにステージに向けてゆっくりと歩き出した。
ソラがゆっくりと進んでいく中、少しずつ煙が払われていき、ステージの様子が明らかになっていく。そして、煙が払われたステージの上で、コレットはゆっくりと立ち上がり、自身についた砂埃を払う。対して、爆発を間近で受けたミリアーナは仰向けとなって地面の上を転がっていた。
そして、戦闘技術試験は、多くの観衆が理解できないまま、コレットの完勝によって幕引きとなった。




