提案
早朝
ソラはベット上で目を覚まし、知らない天井に一瞬惚ける。顔を横に向けると、目の前に可愛く寝息をたてているコレットの姿があった。
ソラは少しずつ意識が覚醒し始め、、現状を理解していく。
(ああ……そういえば……)
そして現状を全て理解すると、ソラの少しずつ赤くなり始め嬉しさや恥ずかしといったなんともいえない表情となる。
コレットを起こさないようにベットから起きると、ソラは一目散に真っ裸になっている自分に服を着させる。空気の暖かさから少しずつ夏になり始めているものの、やはり朝は寒く、ソラは少し身体を震わせながら、服を見に纏っていった。
自身の服を全て身に纏うと、眠っているコレットに視線を向けた。
コレットは昨日とは打って変わって、とても安らかな表情で眠っており、その姿に安心して思わず笑みがこぼれる。ソラはそんなコレットの顔に近づいていき、その顔をしばらく見つめる。そして無意識のうちに頬に向けて軽くキスをした。
「……」
唇をゆっくりと離すと、何も言葉を発さず、部屋を退出していった。
部屋を出たソラは扉の前で蹲り、頭を抱えていた。
(なにやってんだ??!!)
ソラは少しだけ、コレットに対して自身が思っていることとは違う行動する時があるということを理解している。しかし、それを意識的にやめようと試みるも、それをやめることが出来ておらず、のちになっていつも頭を抱える日々が続いていた。
だが、そんな事をいくら続けてもどうしようもないので、ひとまずは落ち着けるような落ち着けるようなところで休もうとその場を離れていった。
「……あ」
「……」
そして階段に向かう為の角を曲がると、アッシュと鉢合わせした。二人は数秒間見つめ合い、次第に嫌な汗が流れ始めるソラ。それを見たアッシュは不敵な笑みを浮かべて、
「ソラ君。少し話があるんだが、いいかな?」
ソラはそんなアッシュの言葉を断ることが出来なかった。
*
皇王様は大広間ではなく、なぜか自室に案内された。
「どうぞ、ソラくん。紅茶です」
「は、はあ……」
「さあ、遠慮せずにいただきたまえ」
いやいやいや! 普通に無理だって!
こんな状況で、その上、コレットの親である二人に見つめられながらそんな悠々となんて出来るか!
「……いただきます」
と、はっきりと言う訳にもいかないので、僕は出された紅茶に静かに口を付けて飲み始めた。
口の中に広がる味わいはすごく絶品なのだろうが、それをしっかりと味わえる程、自分は呑気な性格はしていなかった。
緊張で味のわからない紅茶を静かに飲み、静かに口を離した。
「……美味しいですね」
「あら、ありがとう」
おそらくとても味わい深いのだろうと思い、きっと味わえたのならそう答えるのだろうと考え、その言葉を口にすると、王妃であるマリーさんは大変嬉しそうな表情を浮かべた。
「それではソラ君。そろそろ本題に入らせてもらうよ。昨日は随分お楽しみだったようだね」
「ええ……、まあ……」
「それにしても驚いたよ。まさか、自分の娘であるコレットからあんな声が聞こえてくるなんて……」
「……彼女も女性ということなのでしょうね」
「ふふふ。それもそうだね」
あはは、と僕とアッシュさんは同時に笑い声を漏らした。しばらく声を出して笑いあっていると、
ドンッ!
「……ふざけているのか?」
「………」
机を強く叩かれ、睨め付けられた。僕はその視線に完全に萎縮して身を縮こませる。
「前にも言ったが、私の娘に手を出していいとは一言も言っていないが……その意味がわかっているのか?」
「……」
*
ソラはアッシュの言葉に対してあえて答えることはせず、静かに言葉を受け入れていく。
「確かに君も、それに娘も、お互いに本当に愛し合っていることは嫌でも伝わってくるよ。それについては私もすごく嬉しいと思っているよ」
「でもね、君達まだ子供だ。大人になろうと背伸びをしているんだ」
「どれほど頑張ろうとしても、君達はまだ大人には……」
「僕は、」
アッシュはソラやコレットに対して叱りつけるように話を語っていく。その表情は明らかに不機嫌となっており、指先で頭を抱えてている。
そんなアッシュから少しずつ小言が増えていく。その言葉を静かに聞いているソラだったが、大きく息を吐きながら言葉を放った。
「僕は、彼女を誰にも渡すつもりはありません。どんな婚約者でも、それがたとえ、父親であるあなたでも……。コレットは、僕にとってかけがえのない人で、大切な人なんです。そんな彼女を思うことが、見せかけの大人なフリだと切り捨てるのですか?」
ソラとアッシュの間に静寂が流れる。今まで逃げているような発言をし、誤魔化し続けてきたソラが、心を固め、真剣にコレットの父親に向き合っているひとりの男がアッシュの目の前に居座っていた。
「まあまあまあまあ♪」
そんな静寂を打ち破ったのは、アッシュの妻であるマリーであった。その表情は先程のソラが言った言葉で喜んでいた時とは比べ物にならないほど喜びにあふれた笑みであった。
「ソラくん! ソラくん! ようやく身を固めくれたのね! すごく嬉しいわ!」
「ま、マリーさん。少し、落ち着いて……」
「もう! マリーさんなんて他人行儀なんてやめて! これから、コレット同じ様に、『お母様』と呼んで!」
「い、いえ、あの……」
「ああ、でも…それだとなんだかとても不自然よね……それなら、『お義母さんとでも呼んでくれればいいかしら?」
「えっと……」
少しずつ勢いが増していくマリーに徐々についていけなくなっていくソラ。助けを求めようとアッシュの方に視線を向けると、アッシュも困った様に頭を抱えていた。
「それでじゃあ、早速挙式の準備を!」
もはや完全に結婚までの流れを決め始めたマリーにほとほと困り果てたソラだったが、
「マリー……その辺しないか。ソラ君だって困っているじゃないか……」
そこでようやくアッシュが止めに入り、ソラはホッと胸を撫で下ろして。
「だってあなた。私達の大切な娘が、婚約でも政略結婚でもない。お互いが愛し合って結婚をするんだから。それを喜ばない親がいると思って?」
「気持ちはわかるさ。私だって同じ気持ちだ。だがね、それじゃあ、世間が認めないよ」
「世間がなんだというの! あの子の為に命をかけれる男の子、それも二度も娘を助けた男の子よ! 世間が何と言おうと、彼にはコレットと結婚していい権利が確かにあるはずよ! それにあなたも、ソラくんに婚約者になってほしいって言ってたじゃない!」
「それはわかっている! だけどね、それだと貴族の権力で簡単に押し潰される。だから、それらを黙らせる様な圧倒的な功績が欲しいんだ」
感情的に語るマリーの言葉も……いや、その考えそのものがわかるわけではないが、とりあえず、言い分そのものは理解できるソラだったが、アッシュ言い分も理解できる。
どれほどの権力者が認めようが、それをよく思わない輩は当然いる。そのほとんどの者達は無駄に権力を持て余す貴族達だ。
そんな者達を認めさせる事は皇王であるアッシュの力でも難しいものであった。
次第にヒートアップしていく二人を見ながら、難しいのか……と、考えながら、どうするべきなのかを考える。
……一つ、だけ思い浮かんだ。
「あの……アッシュさん、マリーさん」
自分達の名前を呼ばれ、お互いに言い合っていた二人は自身を読んだソラの方に視線を向けた。
「一つ……思い浮かんだのですか___________」
それを聞いた二人は驚いて、開いた口が塞がらなかった。