知っている者達
全てが順調に進んでいる……。
何もかもが、予定通りだ。
しかし、何故だ? この不安が拭えないのは……。
「どうした、リブラ。やけに機嫌が悪そうだな」
リブラと呼ばれた男は背後から呼びかけられ、その声の主の方に視線を向ける。
「ああ、キャンサーか……。いや、なに…やけにあっさりとあの男を捕獲できたのに少々驚いていただけだ。今までの奴は、最後まで抵抗していたはずだったのだがな……」
「別にいいことじゃないか。Ⅳの報告通り、今回のあいつは温厚だった。何度も繰り返せば性格だった変わるもんさ」
「……そうなのだろうか」
「そういうもんさ。それに、こいつを捕らえないことには始まらないだろう」
キャンサーはリブラの横を通り過ぎ、目の前にあった銀色の棺の蓋を自身が持つ巨大なハサミでコンコンと叩いた。
「こいつは俺達にとって、最高の道具だ。エデン計画に必要な唯一の存在だ。だからこそ、こいつは生かしておく価値がある。そうだろう?」
「それは…そうだが……」
「だったら迷うな。それに今回だって、お前が予定したバランス通りに進んでいるんだろう? それならなにも問題ないだろう。ちょっとしたズレもすぐに調整できるぐらいの出来事しか起きないんだからな」
「……それもそうだな。我の計画は常に順調に進んでいる。どんな障害があろうとも、我々の敵ではない!」
そう言って、リブラはとても大きな声で笑い、キャンサーもそれに同調して笑みをこぼし、お互いに大きな声で笑い合うのであった。
そんな二人の近くにある銀色の棺中には、一人の男が静かに眠っていた
*
見える景色は全てが闇。誰一人いない虚無の世界。
その世界で一人、未来の行く末を見守っているものがいた。
『全てが予定通りなんて事はありえない』
『だからこそ、人生というのは面白い!』
『さてさて、あの亀裂の先はかなり不安定な時間軸になっているからね……。はてさて、彼女達はこれからどうなるのやら……』
『おや? こちらはようやく目的地にやって来たようだね』
『これから先、きっと彼らは……。ふふふ。死なないといいけどな』
ふふふ、と不敵に笑う黒い影はそのまま真っ暗闇な虚無の世界に消えていった。
*
「……もう、行ってしまったのでしょうか……」
「……おそらくね」
「失敗…してしまうでしょうか……」
「さあね。俺にはそれはわからないよ」
その女性、大空 エレナが話しかけたのは、長い間留守にしていた旦那である大空 翼であった。
「あの子はいつも、誰かに頼ろうとはしない。俺であろうと友達であろうと、他人であろうともね。でも、そんな彼が唯一、心を許した彼女には、自分の全てを捧げようとしている。だからこそ、今回で最後の作戦は今までやって来なかった頼ることを初めてしている。俺個人としては、息子である空の最後の作戦は成功してほしいと心から願っているよ」
「……私もです」
翼の言葉を聞いて、エレナは安堵したような表情を浮かべた。
『ですが、敵は私達と同じ十二星宮です。本当に大丈夫なのですか?』
「アクア。大丈夫だよ」
『そうだ。あいつはこいつの息子なんだ。大丈夫に決まってんだろう』
「……蓮?そう行ってくれるのは大変嬉しいのでけれど、その言い回しは一体何かな?」
『惚れた女のために、命をかけるような奴のその息子なんだ。十二星宮程度に負けはしないさ』
「ふふ。そうだね」
二人しかいなかった縁側に何処からともなく二つの声が聞こえてくる。やがてその声は少しずつ型となっていき、その姿が露わとなっていく。一つの男の声は縁側に座る翼の何倍も大きなライオンの姿の姿となり、女性の声の方は翼とエレナの周りをプカプカと浮かび、宙を漂う人魚の姿となった。
蓮と呼ばれたライオンは話に交ざりながらも興味がなさそうに横たわりながら目を瞑り、アクアと呼ばれた人魚は翼とエレナの周りを漂いながら、蓮の言葉を聞いて嬉しそうに笑みを浮かべていた。そして二人はそんな二人に見つめられながら、エレナは翼の腕にもたれかかり、翼はそんなエレナの肩を優しく抱き寄せるのであった。
*
この世界に救いというものは存在しない。救いたければ、示さなければならない。
故に、彼は示す。
自らの命を代償にあいつを救う未来を必ず掴み取ってみせると……。




