頼む!
間違っていたのだろうか……。
あまかったのだろうか……。
救いたい命のために、守りたい命のために、自分の命まで削って過去にやって来たのに……それが、無駄だったのだろうか……。
「無駄じゃないよ」
「無駄じゃない。君おかけで、わずかながら希望が見えて来たんだから」
針に糸を通すぐらいの希望だけどね。と目を覚ました私にソラ・オオゾラはとても優しそうな表情を浮かべながら、私を見つめていた。
*
「ヴァルゴさん!」
『音姫さん……ッ!』
空に体を切られ、意識を失っていたヴァルゴが目を覚ますと、それを見ていた音姫は目を覚ましたヴァルゴの顔を覗き込んだ。それを見たヴァルゴは自身の体を起き上がらせようとしたが、体に鋭い痛みが走り、起き上がらせることが出来なかった。
「動かな方がいい。致命傷は避けたとは言え、かなり深めに攻撃したから。……それに、君ほどのものなら、安静にしていれば、ものの数分で動けるぐらいには回復できるだろう?」
『……本当に、多くのことを理解しているのですね』
再び動き始めようとしたヴァルゴに空は動かないように諭し、それに納得して浮かしていた頭をゆっくりと降ろした。
『……なぜ、』
「はい?」
『なぜ、助けたのですか?』
「……えっと、すみません。言葉の意図が見えないのですが……」
『あなたは、音姫を巻き込まず、私だけを攻撃した。その力があれば、戦う力を失った私を容易く倒すことが出来たのではありませんか?』
ヴァルゴは説得をしたとはいえ、音姫を操ったことに変わりない自分自身をなぜ空は倒さないのか疑問に思い、空の顔を見上げながら尋ねた。
「……さっきも言ったように、君にはオトメを守って欲しかったから……」
『それだけの理由で友人をを傷付けた敵を許すなんてことはありえません』
「だったら聞くけど、君の言葉を聞いたオトメは心から本当に傷ついたの?」
空のその言葉で尋ねられたヴァルゴとさらに、ヴァルゴの姿が見えていない洸夜や優雅も空の言葉で音姫に顔を向け、視線を集める。
「……ヴァルゴさん。私、あなたのせいで傷付けられたなんて思っていないよ」
『?! 言っていたではありませんか! 殺さないと、出来ないと!』
「うん。確かにそう言ったよ。でもね、私やあなたが、私にとって大切な人である空くんを手にかかることが出来ない。させちゃいけないって思った。それは私の意思で、思いで、私がそう願ったこと。それを誰かのせいにするつもりなんてないし、ましてや、それであなたに傷付けられたなんて思ったことなんて、全然ないよ」
『……あなたは、本当に優しいですね』
だからこそ、私の力があなたに届いたのでしょうか……。
音姫の真っ直ぐな瞳と視線が重なり、ヴァルゴは安心したようにそっと胸をなでおろした。
「あの〜……」
いい感じに話がまとまったところで、ついに現在のこと状況が全くわからない洸夜が話が終わった思い話しかけてきた。
「二人…三人?の話がまとまったのは大変よろしいのですが……俺達は話がまるっきりわからないのだけれど……」
「ちゃんと教えてくれますよね? さっきのことも、今までのことも、全部」
「幽霊とかの事も空の事もちゃんとわかっている俺達に隠し事は無しだぜ」
「ふふ。うん、わかった。時間もないし、手短でよければ」
空は真剣な表情で尋ねてくる二人に思わず笑みをこぼして二人の問いかけに答えることにした。
「未来のことについては、僕の口からは正直語ることは出来ない。未来を知っているが故のタブーだし、口で言うだけより、それを見せる力を持つ人の方が説得力のある説明になるからね」
「それは…なんとなくわかる。未来を知らない人からすると、口だけで説明を聞いて、はい、そうですか。なんて納得はできないだろうから」
「それだけわかってくれればいいよ。ただ、僕がそれ知るきっかけとなった時の事を手短に話すよ」
あれは…だいたい一年前ぐらいだったかな……と、空は当時のほんの数分の出来事を思い出しながら四人に向けて語り始めた。
*
彼と出会ったのは夏の日差しをカンカンと浴びて倒れてしまうのではないかと思われた太陽ががようやく傾いて、みんなが眠り始める真夜中に彼はやって来た。
彼は僕に向けてこう言った。
『まもなく、終わりの始まりが始まる』
彼は間髪入れずに言葉を続ける。
『それ故に、君には重い宿命を背負ってもらう。誰よりも重い宿命を……貴様自身が世界を滅ぼすその姿を!』
『我が名は正体不明の未来! 真に己の死を望む者なり!』
彼のその言葉を聞いて、僕は意識を失った。
*
「……夢の中で、彼はずっと叫んでた。涙を流しながらずっと……。目を覚ました時、僕も思わず泣いちゃってね。彼の悲痛の叫びみたいなものが僕の心に残り続けたんだ……」
『アンノウン……私は一度も耳にしたことがない名前ですね。その彼は、本当にあの日にその場にいたのですか?』
「うん、いた。彼が見せたあの夢に君の姿ははっきりあったしね」
未来からやってきたとされるヴァルゴは空が言うアンノウンについて必死に思い出してみるが、そのような者がいた記憶は一切なく、本当にいたのかどうかを尋ねると、空はその場にいたとはっきりと答えた。
「……それ踏まえてオトメとヴァルゴにお願いがあるんだ」
「お願い?」
「そう。あの夢では、今後やろうとしていた手順についても語ってくれていた。その手順を行うために、君達の力がどうしてもいるんだ」
空が少し顔を色を変え、まるで焦っているように二人に頭を下げた。
「頼む! 平和な未来にする為に、どうしても二人の力がいるんだ!」
「空くん……」
「頼む!」
深く深く頭を下げる空に音姫は少し困惑したような表情を浮かべ、なんと答えるべきかと悩む。そんな音姫をよそ目に、ヴァルゴはかなり体を動かせるようなったので、ゆっくりと身体を起こす。
『……どうすれば良いのですか?』
「ヴァルゴ…さん……」
『勘違いしないでくださいね。私はあなたの言う針に糸を通すような希望にわずかながら助力するだけです。もしその手順が失敗するようであれば、すぐさまあなたを殺します。それで良いですね』
「! はい! 構いません! もうほとんどの手順が終わっていますので!」
その言葉は空を除くこの場にいる全員が驚きの表情を浮かべる一言であった。
「僕があなた達にやってほしいことは二つあります。一つ目は、エデン計画に抗うのではなく、あえて争わずに第一段階終了まで、抵抗をしないでください」
『な! そんなことできるわけ!』
「第一段階終了後が唯一のチャンスなんです! ですからそれまで耐えてください。そのあとは自由に暴れて構わないですから」
『ッ!』
「そしてもう一つ。正直、一つ目よりもこちらの方が重要です」
『……ひとまず、聞きましょう』
「二つ目は、すごく単純です。コレットに会ってください。そうすれば、あなた程の人なら全てが理解できます」
『? お姫様に会うことがそんなに重要なことなの?』
「ええ。それだけで全てがわかります」
『……わかりました。音姫さんもそれでいいですか?』
「私はほとんどわかっていないから、ヴァルゴさんに従うよ」
『ありがとうございます』
二つ目の理由が全くわからないが空の言葉を確かめる為に、ヴァルゴと音姫は空の言う『コレット』に会うことを決意した。
「それでは、時間がありませんから……とりあえず、ぶっ飛ばして亀裂を超えさせて異世界に送りますね」
『「「「……え?」」」』
空が右拳を構えると、その右腕が真っ赤に燃える。その姿にこの場にいる全員が困惑したような表情を浮かべた。
「『熱風……』」
「ちょ、ちょっとまって!」
「『昇風拳』!」
空がその拳を回転と同時に立ち上がりながら、夜空に掲げると、その周囲を赤い熱が込められた竜巻のようなものを起こし、音姫達を巻き込んで、天高く飛んでいた。
その竜巻はどんどん夜空に向けて飛んでいき、どこまで飛ぶのではないかと思われたその時、突然夜空が割れ、誰かが舞い降りていった。
空が放ったその竜巻は、まさに狙い通りといったようにその亀裂の中に飛び込んでいった。
音姫達は悲鳴をあげながら、その亀裂の中を漂っていくのであった。
『……なんだったんだ、今の?』
『どうかしたのか、キャンサー?』
『いや、なにも。こっちの目的は果たしたしすぐに戻るぜ』
キャンサーと呼ばれた巨大なハサミ思った男は頭に聞こえてくる声にそう答えると、その場に倒れている男を見つめる。
その見つめる先には、大量の血を流した空の姿がそこにあった、