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空っぽの武装魔道士δ  作者: 火琉羅
未来を知る者たち
160/246

それぞれの想いを

 あれからどれくらい歩いただろうか……。


 御神木のある観光スポットから出て、人通りが多い道を抜け、近くにあった森をまっすぐに抜けていく。


「なあ、オトメ。本当にこの道であったの?」

「うん。間違ってないよ」


 僕の腕を引いているオトメは僕の方に振り返ることなく、淡白にそう答えて腕を引く力を強めていく。

 何故手を引く力を強めたのかその理由はわからない。でもそれが、なんだかとても寂しくも思えた。


「オトメ……」

「? 何?」

「……いや、なんでもない」

「え〜」


 何もないと言うと、なんだか嬉しそうに口を尖らせるオトメ。だけど、僕は彼女に何を言っていいのかわからず、結局何も言うことはできなかった。




 その後も、森の中を進んでいくと、突然不自然なほど広い野原に辿り着いた。


「……ここは」

「この野原の中心が、あの()()()()()()()()が現れた大きな亀裂の真下なんだよ」

「……そうか」


 オトメはそう言って、僕を野原の中央に案内しようとする。僕はただ、オトメの後を追って野原の中央に向けて歩き始めた。


 森を抜け、野原の中央に向けて歩き始めた時には、もうすでにかなり日が傾いており、見える山々の影に太陽が隠れ、日の光がもうほとんど見えていない。


 そんな大きな影に隠れているこの野原に一人、テレビでも有名な女性が笑顔を浮かべてながら、こちらを振り返る姿は、とても幻想的で、本当に()()()()()()()()()()()()()()美しいと思った。


「……オトメ。何か…あった?」


 ようやく絞り出した言葉は前を進んでいたオトメの脚が止まった。

 その後ろを歩いていた僕の脚も当然止まる。



「……どうして…そう思ったの?」

「なぜか…そう思って……」

「そっか……」


 オトメは僕の方に振り返らず、夜になり始めた空を見上げる。その姿はやはり寂しそうに僕は思えた。


 やっぱり…何かあったんだ。


「オトメ、何があったのか、ちゃんとはな……」


 して、と言いかけた時、オトメは開いていた距離を一気に詰めて僕の懐に飛び込んできた。


「オト…メ……?」

「……」


 一瞬、何が起きたのかわからなかった……。


 オトメは僕の胸に顔を埋め、名前を呼ぼうとも見上げる事はせず、胸元の服をぎゅっと握りしめる。


 そしてしばらくお互いに何も言葉を交わす事なく静かに立ち尽くしていた。


 オトメが口を開いたのはその数秒後であった。




「……大空君は」


 ポツリポツリと音姫が口を開き、なにかを確かめるようにして空に問いかけていく。


「大空君は…まだ、夢の女の子のことが…好きなの……?」


 空は音姫の問いかけの真意について、なに一つわからなかったが、その問いに、自分の長年間募らせてきた想いを偽る事はできなかった。


「……ああ。好きだよ……」

「……!」


 音姫の問いかけの意味に悩みながらも、まっすぐに答えた空。その言葉にオトメは返事を返すのではなく、掴んでいた胸元に無意識に力が込められる。


「……でも、一度も会ったことがないんだよ。なのに、好きって言い続けるなんて…おかしいよ……」

「たしかにそうかもしれない。でも…この想いを偽って嘘をつくのだけは嫌なんだ」

「なら…なら、桜井さんはどうするの!」

「桜井さん?」


 音姫が絞り出したのは、二人の友達でもある桜井 曜の名前であった。


 空は突然なぜ曜の名前が出てきたのか、わからなかった。


「桜井さんは…桜井さんは、きっと…大空君のことが好き!」

「!?」

「好きだから、一緒にいたいと思ったし、好きじゃなければ、こんな遠いところまで一緒に行こうなんて言わないよ!」

「……」

「そんな桜井さんの気持ちをどうするつもりなの!」

「……」


 空は洸夜や里美達から鈍感などと言われ続けてきたが、それでも、曜が自分に向ける好意に気付けないほど、鈍感ではなかった。


 だが空は、そんな想いに対して、()()()()()()()()をした。


 自分の中にあり続けた想いが、誰かの好意で簡単に曲がりたくなかった。というのもあったが、その想いが、()()()()()()()()()()と確信していたからであった。


 対して、空に向けて言った言葉に音姫は心の底から嫌悪していた。


(卑怯な女……。誰かを利用して、彼の本心を聞き出そうとするなんて……)


 音姫は空が答えるであろう回答について、少なからず確信があった。それでも、少しでも揺らいで欲しいと、少しでも、()()()()()()()入り込めたらと、そんな甘い希望を持っていた。


「……オトメ」


 だが、


「僕はね、どんな人がなんと言おうと……、たとえ、死んだとしても、彼女のことを心から愛しているだ」


 空の心は決して揺らぐ事はなかった。


「……だから、それまでに心残りを全部、無くしておきたかったんだ」

「え?」


 そこで音姫はようやく空の方へ顔をあげてその表情を覗き込む。その表情はとても寂しそうで、少しだけ、涙を浮かべていた……。


「いっぱいの心残りがない様に、自分がしたい事を散々して、沢山の思い出を作って、楽しい毎日を過ごしてもやっぱり心残りが沢山のあって……ほんっと、なにやってんだろうな……」


 目頭に溜まった涙がつーっと流れ落ち、とても悔しそうな表情を浮かべる。


 本当は、もう少しだけ……一緒にいたい……。


 そんな言葉が溢れそうになるのを必死堪え、飲み込む。これは自分にしかできない事だと…自分がやらなければならない事だと言い聞かせる。


「……さっきの…どうするのかっていう答えだったね……変わらないよ。僕は、彼女のことが好きだと言う。それだけだ」

「……大空…君」

「それに、もうその気持ちに答えるような時間は、もう残されていない。そうだろう、()()()()

「?!」


 その名前を口にした瞬間、音姫は驚いたような表情を浮かべ後すぐに険しい表情に切り替わり、空から一気に距離をとった。


『「……なぜ、わかったのですか?」』

「わかっていた…というのは、説明不足かな?」

『「はい。できれば、しっかりとした説明をお願いします」』

「説明といっても、文字通り、()()()()()()()なんだけどね」


 音姫の声が誰かと重なったような声で空に尋ねてくる。空はその問いかけがわかっていたかのような言葉を口にして懐に入れてあった馬車の模様が描かれたクリアプレートを取り出そうとするが、それが何処にもなかった。


「あれ? おかしいな……ここに直したはずなのに……」

「もしかして、これですか?」


 クリアプレートを探していると、重なったような声が無くなり、元どおりの音姫の声で、見せてきたのは、音姫が持っているはずのないクリアプレートであった。


「……なるほど、取られたのか」

「うん……。トロイさんの力は私も知っていたから……」


 音姫はプレートを見せながら、それを奪った理由を口にする。


「そうか。でも、それを取られたからって、どうにかなるなんて、思ってないよね」

「思ってないよ。だから……」


 音姫がそういうと、キラキラとした淡い光に体が包まれ、その光が払われると、胴体巻かれた真っ白な布を布を回した両肩で止め、帯を締めた女神のような姿で、背中から生えた桃色の透明な翼を広げた。


「ヴァルゴさんの力を使って、あなたを止めます! それでも止まらないというのなら、」

『「私があなたを殺してでも止めます!」』




『「この世界を、()()()()()()()()!」』

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