目的地へ
音姫に手を引かれながら、目的地に向けて進んでいるのだが、未だについてきている彼らをどうしようかと考えていた。
(オトメは完全に後ろからついてきているのを忘れているみたいだし、どうやって撒こうか……)
「あの二人…まるでデートっぽいよな……」
「デートっぽい、というよりデートだよあれ」
手を繋ぎながら進んでいく空達を追っていた洸夜と優雅は二人の姿を見つめながら、思ったことを口にしていく。
周囲の人達も同様に見えているようで、かなり視線を集めている。
「それにしても…空がデートか……。羨ましいよ……」
「へ〜。洸夜君もそんな風に思うんだ」
「俺も男だからな。羨ましく思ったり、嫉妬したりする時だってある」
「へ〜」
洸夜の言葉に少し感心する優雅。
空もそうだが、洸夜も空程ではないが、恋愛に対する話題もかなり少ない。空のように人と少し距離を置いているわけではないはずなのだが……。
「洸夜君は誰かとお付き合いをしようとは思わないの?」
「う〜ん、今のところはないかな」
「……そうなんだ」
羨ましいとは思うのに、今のところはってどういう意味なのだろうと思いつつも、空達の方に一瞬視線を戻すと、突如曲がって姿がなくなった。
優雅達は急いで空達の後を追って二人が曲がった道へたどり着くと、その先に空達の姿はなかった。
「流石の人間も、魔装での高速移動には流石に追い付くのは無理だろうな」
そこははるかに上空。
手を引いていたオトメを無理矢理引っ張って道を曲がった瞬間、人認識するよりも早く鉄の馬にまたがり、空高く駆け上がった。
「……」
「? どうしたの、オトメ?」
「……いえ」
音姫は短くそう返すが、当の本人はそれどころではなかった。現在、音姫は空と同じように上空にいる。
彼女は空のように飛べるというわけではない。しかし、彼女は空と一緒に上空にいる。
(は、はずかしい……というか、顔が近い!)
「?」
現在、音姫は空に抱きかかえられている形で上空にいた。言うなれば、お姫様抱っこである。
「……まあ、空を飛んだついでにこのまま一気に目的地まで向かうとしますか」
「え! ちょ、ちょっと、きゃあぁぁぁあ!!」
空は跨った馬に指示を出すと、上空に駆け上がったのと同様の速度で駆け下りる。当然、人の目には見えない程の速度なので、かなりの速度が出ており、それを肌で感じている音姫はただただ悲鳴をあげるしかなかった。
二人はその勢いのまま、目的地であるとある墓地の近くに落下していてった。
*
「ありがとう、トロイ。助かったよ」
『この程度であればお安い御用です。またいつでもお呼びください』
鉄の馬だったトロイはその体ごと光となって僕の体の中に戻っていった。
「……で、そっちは大丈夫?」
「だ、大丈夫じゃないよ。急にあんな速度を出して……。びっくりして立ち上がれないよ……」
舞い降りたトロイが僕の中に戻るまでいた位置とは反対側にあった木にもたれかかるオトメが、ぷるぷると震えながら、木を支えに立ち上がろうとしているが、腰が抜け、木にしがみつく様な形で僕に文句を言っていた。
「なんだったら、また抱きかかえてやろうか?」
「…………………。そっちの方がびっくりするから、もう少しだけ休ませて……」
「う、うん……」
休めば良くなるとのことなので、少しの間オトメを待つことにしたのだが……。
その長い沈黙は一体なんなの? あとそっちの方がびっくりするってどういう意味なの?
怖くて聞けないんだけど!
その後、オトメが立ち上がるまで回復を終えると、すぐに移動を開始した。と言っても、立ち上がったばかりのオトメが疲れない程度にゆっくりと移動する。
しばらく歩いていると、ようやく一応の目的地である僕に到着した。
「なんだか、気持ち的に長かったなぁ……」
「ここが目的地なの?」
「一応ね」
そう言って墓地の中を進んで行くと、突如誰もいない周囲が騒がしくなる。
「お、大空くん……」
「オトメ。離れない様にな」
誰もいない墓地からうめき声の様なものが聞こえ始め、その声に怯えるオトメ。僕の体を影にして、背に隠れる。離れない様に指示を出すと、聞こえていた声に怒気が混じった様な声色に変わる。
「……オトメ。ちょっと失礼するよ」
「はい? それどういう?!」
僕はオトメの了承を聞く前に彼女の体を抱き上げる。オトメは驚きの声をあげるがそれをあえて無視する。
すると、怒気が混じった声をあげていたうめき声が明らかな殺意の込められた怒りの声に変わる。
「……お前ら、話があるからさっさとでてこい」
返事は…ないか……。
「だったら、もっと色々とするが…止めないってことでいいな」
「い、いろ?!」
「「「待てやごら!」」」
簡単にかかった。
あえて妄想の広がる言い方をしてみたものの、まさかこんな簡単につれてしまうとは……。
「テメェ! 俺達を見ることが出来る上でそこにいる激かわの女の子をあんあん言わせて俺達の反応を楽しみたいのか!」
「いや、喘ぎ声を聞くならベットの上がいい」
「?!」
野外露出は興味ないんだ。
「ということは、すでにやっている関係ということか!」
「??!!」
「このモテ男が! モテない男達の恨みを思い知れ!」
幽霊達はなぜか勘違いをして襲いかかってきた。
僕としては誰かとお付き合いするつもりないし、するとしても、好きな人に一度も会ったことないし、そもそも彼女にはすでに旦那さんがいる訳で……。
……脇役がグダグダ考えていても仕方ないな。
「とりあえず…目の前のやつから!」
一番先頭を切って襲いかかってくる目の前の男に対して、空いている右手を振り上げて男を殴り飛ばした。
男は襲ってくる他の男達を飛び越えて遥か後方に吹き飛んでった。
幽霊の男が飛んで行った方に男達はガタガタと振り返り、横たわる男を見る。男は地面に横たわったまま、痙攣でも起こしたかの様にビクビクと震えている。他の幽霊達はその姿に少しずつ顔を青ざめていく。
「今から、襲ってくる全員をこの拳で叩き潰します。それでも構わないというやつがいるのなら、かかってきなさい」
「「「ヒイ!」」」
拳を構えて、それを幽霊達に突き出すと短く悲鳴をあげて逃げ腰になる。
「だが、僕の話を聞いてくれるというのなら、叩き潰すことを考え直さなくも……」
「「「申し訳ありませんでした!」」」
「……」
ない。と言い終える前に幽霊達は一斉に頭を下げて、謝罪をしてきた。というかほとんど土下座の状態でした。
「我々がお教えできることがあれば、なんでもお答えします。ですのでどうか、これ以上、痛い思いは嫌なのです!」
「死ぬ前も苦しい思いをしたのに、これ以上苦しい思いなんてしたくはないんです!」
「「「ですので、どうか!」」」
「わ、わかりました。わかりましたから。顔をあげてください。話を聞きいてくださればそれ構わないですから」
僕がそういうと、幽霊達は嬉しそうに顔を上げて喜びの声あげていた。
……あれ?
そういえばさっきからオトメが静かだな……。
僕は気になって未だに抱き上げているオトメの様子を確認する。
「べ、ベット…や、やって……」
「お、オトメ? オトメさん!」
オトメは先程の幽霊達の会話で意識を失っていた。
僕は意識を失っているオトメを意識を取り戻すためにさらに時間をかけることになるのであった。