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空っぽの武装魔道士δ  作者: 火琉羅
未来を知る者たち
152/246

舞い降りた生物

 撮影が終わり、廃病院の外で空達が戻って来るのを待っていると、音姫達は無事に里美達の元へ戻ってきたのだが、そこには空の姿はなかった。


 話を聞いてみると、何か大切な用があるという事でさらに奥の方へと進んでいったらしい。


 里美はすぐに空を追いかけようとしたが、スタッフに強く止められて病院内に向かうことはできなかった。止められているスタッフに視線を向け、睨めつけようとすると、視界の端でとても不安そうな表情を浮かべた音姫の姿が映り込む。


 今にも飛び出していきたい。廃病院を見つめながら、そよ思いをグッとこらえ、空の帰りを待つ彼女の姿に里美は冷静さを取り戻していった。


 私が中に入っていってもより危険な目にあう。そう理解して、静かに空の帰りを待つことを選んだ。無事であるとそう願いながら……。


 しばらくして、空は静かに廃病院から出てきた。


 里美達はすぐに空に駆け寄り、心配したぞと声をかけたり、逆に叱ったりする。空は笑顔で、されるがまま頭をわしゃわしゃとされたり、叱っている人の声を聞いていた。しかし、頑なに中での出来事を話そうとはしなかった。



 *



 夜が明け、日の出と共に動き出す一人の男がいた。その男は一言書き置きを残すと、静かに部屋を後にする。

 書き置きには『少し用ができたので、出かけます。そこまで遠くまで出かけないので、ご飯等は先に済ませておいてください』と書いてあった。


 太陽が少しずつ登っている中、男は旅館を後にしようとした時、


「こんな朝早くからどうしたの?」


 背後から突然声をかけられた。


「……君こそ、こんな時間になにしているの? それよりも、仕事は?」

「仕事なら昨日の分で全部終わり。こんな時間に起きているのは、昨日のあなたが気になったからだよ」


 聞き慣れた声にゆっくりと振り返りつつ、尋ねる男。

 振り返るとそこには外出用のおしゃれな格好をした音姫の姿があった。


「私はいつも仕事の時に何かあったのかを教えるのに、大空君は教えてくれないんだ」

「いや、あれはオトメが勝手に……」

「ふ〜ん。私のせいにするんだ。ふ〜ん」


 拗ねたような態度を見せる音姫に空は困り果て、大きなため息を漏らした。


「……わかった。わかりました。話します。話せばいいんでしょ!」

「うん。ふふふ」


 空は渋々話さなければならなくなった為、頭を抱え、再びため息を漏らす。対照的に音姫は笑みをこぼしながら、空の手を引き始める。空は驚きつつも、手を引いている音姫の背中を追いかけた。



「流石は青花さん。すごく可愛いですね」


 二人が外に出て行く姿をエントランスの端の方から眺めている一人の女性の姿があった。


 名前は河瀬。音姫のマネージャーを務めている人だ。


 彼女は同室していた音姫が着替え、慌てて出かけので、すぐに後を追った。


 エントランスホールに到着すると、二人の男女、自前の可愛い服を着た音姫と、そんな彼女が()()()()()である大空 空の姿があり、まるでデートに出かけるような雰囲気で外に出て行った二人の姿をしっかりと目に焼き付け、それに満足した河瀬はその後、静かに部屋に戻っていった。



 *



 ……その幽霊に連れられてとある部屋にたどり着くと、変な妖が居たんだ。


 妖が?


 そう。一瞬人かと思ったんだけど、頭から大きな二本のツノと長い尻尾が生えていた。小悪魔とか西洋の妖の部類だと思う。そこまで詳しくは知らないんだ。


 へ〜……。


 話を続けるよ。その妖は部屋の隅の方で隠れるようにして蹲っていたんだ。まるで何かに怯えるようにしてね。


 僕はその妖に取り敢えず話を聞いてみる事にしたんだ。


「なあ、どうしたんだ?」


 妖は僕の声に振り返ると、顔を真っ青にして口をパクパクと開き、目の焦点が全く合っていなかった。


「お、おま! おまままま!」

「はい落ち着いて。深呼吸深呼吸」


 取り敢えずまともに言葉を出すことができてなかったから、まずは落ち着かせる為に深呼吸をさせることにした。


 深呼吸をして少し落ち着いてきたので、再び話を聞こうと試みた。


「君はどうしてこんなところで蹲っていたんだ?」

「………はわわわわ〜」

「はい落ち着いて〜」


 僕は再び妖を落ち着かせる為に同じような指示を出す。しかし、これでは話が進まないと頭を悩ませていると案内をしてくれた幽霊が僕の耳元で呟いた。


「こいつ、実は俺()が死んでここで住み着くよりも前からここでこうしているんだ」

「死ぬよりも前って事は、霊体になる前。しかも、達って事は、あの足軽さんよりも昔からここにいるって事?」

「そうなるんだが、あいつに対して「足軽」って言わないでやってくれよ。気にしているみたいだからな」

「了解。……で、この妖がこんなところでどうしているかなんだけど……」


 取り敢えず、現実に戻ってきてもらおう。


「……妖さん。そろそろ話してもらわないと、()()()()潰してしまいそうになってしまうよ」


 その一言を聞いて、怯えていた妖は顔を上げて僕の顔を見つめた。


「話してくれるかな。君に一体何があったのか」


 僕が真剣な表情で尋ねると、妖は怯えた表情を浮かべながら、ポツリポツリと呟くように語り始めた。



 *



 妖はかなり昔、この地域あった小さな村を襲い、畑を壊し、家畜を食いつぶし、人の中を貪っていた。


 そんな日々を過ごしていたとある晩。


 その日もいつものように村を襲い、食料を奪ってやろうとそう考えていた。


 そして夜道を歩く小さな子供を発見した。その子供を見つけた妖はうまそうだとヨダレを垂らしながら、前菜としてはちょうどいいだろうと、襲いかかろうとした。


 しかし、それが叶う事はなかった。


 突然、空に巨大な亀裂が走り、その亀裂が何かにぶつかったような音を立てながら砕け散った。


 空間を砕いた破片が月明かりに反射してキラキラと舞い散りながら、落下してくる大きな生物はとても美しい姿をしており、その姿に目を奪われる。


 その姿を眺めていると、突如姿が見えなくなった。


 次の瞬間、視界がずれ、斜めになったのち、景色が逆さまとなった。


 逆さまとなった景色となってようやく自分が切られた理解した。なので自分の体を再生させて、立ち上がろうとすると、再生した腕が食いちぎられた。。


 無駄な事だと再び再生させるが、今度は両足と右目がえぐり取られた。


 再生。右肩と左腕と左足、そして顔の四分の一がえぐり取られた。


 再生。左腕から胸にかけて切り裂かれ、体と分離し、右足が吹き飛び、左顔半分が消滅した。


 再生と消滅を何度も何度も繰り返され、まだ続くのかと思われたその時、左脇から体の七割ほどが消し飛んだ。その消し飛んだ体は再生する事なく、妖はその場に倒れ伏した。


『貴様の再生の能力を封じさせてもらった。貴様からは人の血のにおいがしたからな』

「そ、それだけの理由で!」

『それだけ? 誰かに死をもたらすのなら、己が死ぬ事を理解した上で言えよ』


 そう言って妖の目の前に現れ、覆い被さるようにしてね現れた大きな生物は猫のような前足の爪を立て、妖の口の中に手を突っ込み、舌を引きちぎった。


「ああああああああ???!!!」

『喧しい』


 舌を引きちぎられた痛みでとても大きな悲鳴をあげるが、耳障りと感じた生物は声を出している喉を踏み潰した。


「あ……あが……!」

『……たった今、再生の能力を解放した。さあ、さっさと再生しろ。そして()()()()、貴様の悲鳴を俺を聞かせてくれ』

「ひぃぐ!」


 凶悪な笑みを浮かべながら見下ろされ、呼吸もままならなくなり、抵抗する意思も消滅した妖は死を覚悟した。


 だが、


『?!……ッチ! 相変わらず、貴様は甘いな、()()()() ()()()()よ』


 そう言い残し、生物はその場から姿を消していった。



 *



「これが……あの時の、」

「……おい、ふざけるなよ」


 ツバサ? ツバサだと?


「あの人がそんな事するわけないだろ!」


 地面を強く殴りながら、ギリッと歯を食いしばった。


「ヒィ!」

「答えろ! その生物は何処へ行った!」

「そ、それは……」

「いいから答えろ!」

「し、知らない! それは怖くてあの場から動く事すら出来なかったんだ」

「……くそ!」


 僕は悔しさのあまり、それ以上声を発することができなかった。



 *



「その後、僕は一言妖達に挨拶をして廃病院を後にしたんだ」

「そうだったんだ」


 空が話し終えると、音姫は昨日あった妙な違和感に納得していた。


「オオゾラ ツバサって確か……」

「ああ……。予想が正しければ、僕を引き取ってくれた人だ」


 空が何より動揺していたのは、足軽が生きていた時代よりも前に自分を育ててくれた人の名前が出てきた事と、優しいあの人が妖を殺す事を楽しんでいる生物と一緒に行動していたこと、その二点であった。


「……同姓同名って可能性は無いの?」

「なくもないけど、『大空』なんて苗字、そうそういないから、多分本人で間違いと思う」

「そっか……」

「それに、どうしても信じられないんだ。あの人が妖を楽しんで殺すような奴が知り合いにいるなんて」

「空……」

「だから、取り敢えず調べたいんだ。伝承や妖怪伝説を調べて、あの人の話を聞きたいんだ」


 空は両手をぐっと握りしめながら、とても怖い表情を浮かべる。無実を証明する為の強い覚悟を持って。


「……なら、私も手伝うよ!」

「……え?」


 突然音姫がそんな事を発して空は驚いて音姫の方を見る。


「私の仕事もひと段落だしたし、それに今日一日お休みをもらってるから問題無いし、今まで相談に乗ってくれたお礼も含めて手伝わせて」

「い、いや、悪いよ。それは僕個人の問題だから、君が気にするような」

「私がそうしたいの。それとも…ダメなの?」

「……いいのか?」


 覚悟を決めたと言っても、それでも不安が残っていた。だが、それでも不安半分は残っていたが、音姫がそう言った言葉にその不安が和らいでいた。


 音姫は敢えて返事を返すことはなく、空の手を包み込んだ。


「……なら、お願いしていいかな?」

「うん。任せて」


 かくして、空の父親であるツバサの無実を証明するために二人は、村中を回るのであった。

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