嵌められたウィザードと姫様の自己紹介
王都入り口
「・・・これはあれね。嵌められたやつね」
入り口に来て1時間、もしくは2時間ぐらい経過しただろうか。2人がやってくる気配が全くない。
それどころが多くの商人がやってくるも、彼らと同い年ぐらいの子供がやってくる来なかった。
私を嵌めるとはなかなかやるじゃない。
「カンナよ、どうしたのだ?そんな気持ち悪く笑って」
聞き覚えのある貫禄がある声に後ろに振り返る。そこにいたのは普通ならここにいるはずのないこの国の国王・クロスフォードであった。
「国王の方こそ、いったいどうしたのですか?あなたがこんなところにいるなんて珍しいじゃないですか?」
「何。我が国きっての宮廷魔導師殿の帰りが余りにも遅いものでな。様子を見に来たのだ」
「・・・私はあなたに支えたつもり記憶はありませんが?」
目の前にいる国王を見ながら、はっきりと言葉を返す。例えなんと言われようが、私の王は彼らなのだ。そこは譲れない。
「そう睨むでない。そんなことはわかっておる。じゃが、ひと時の間は私の宮廷魔導師という契約を忘れるでないぞ」
「・・・わかっておりますとも。全く、食えないお人だ」
国王の図太さに呆れるような手振りで答える。
ほんと、すごいお方だこと。
「それで?お主はどうしてここにおるのだ?」
そして本題に入り、国王はどうしてここにいるのかを尋ねて来た。
「ええ。先程、全国手配中である姫君を発見しまして」
「ほう。お主が逃すとは珍しい。どうしたのだ?」
「実は発見した時、私以外にももう1人いまして、其奴の罠に嵌りました」
男の子に言われた言葉は流石に恥ずかしいので、そこは誤魔化し、落とし穴の誘導トラップのことを話した。
「なんと?!お主を罠にかかるとは…して?其の者の名は?」
「名前は聞いておりませんが、特徴は茶色い髪に黒い瞳をしている少年。と言った所でしょうか」
私が男の子特徴を言うと、国王は目を丸くし、突然笑い出した。それに今度は私の方が唖然とし、国王になぜ笑い出したのかを問いただした。
「な、なぜ笑うのです?!」
「いや、何。1ヶ月前に全く同じような特徴の少年を耳にしたものでな」
「同じような?」
「うむ。実はな……」
*
「探せ!探し出して始末しろ!まだ近くにあるはずだ!」
近くだ聞こえる馬の足音に身を縮めて私の姿が見えないように隠れる。
声を殺し、涙を我慢し、自分の身を必死に隠した為か、発見されずに済んだ。
「どうしてこんなことに……」
小さく呟いた私は、城を出る直前のことを思い出していた。
皇国の姫として育てられた私は、姫であることを除けば、料理が好きな女の子だと思っている。
皇国でお父様とお母様に愛され、何不自由なく育てられた私は、あの晩。自作のお茶を持って王室に向かった。
いつも大変なお父様に少しでも元気になってもらおうと思って作った自信作だ。
王室の前までやってきた私は部屋の扉を叩き、中に入ろうと扉を叩こうとすると、
「うああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
突如起こった叫び声に手が止まる。
私は何事かと思い、静かに扉を開け、中を覗く。部屋の中には国王であるお父様と宮廷魔導師さんがおり、お父様はとても苦しそうに声を上げるが、逆に宮廷魔導師さんは何やらブツブツに何かを唱えていた。
そしてしばらくしてお父様が静かになると同時に宮廷魔導師さんも唱えるのをやめる。
そして宮廷魔導師さんが驚きの言葉を口にした。
「これでこの皇国は我々魔族のものだ!フハハハ!!!」
ま、魔族!?
魔族とは数百年前より以前に存在していた種族で、長年人族と戦い続けたとされる一族である。
魔族の残虐非道な行いから、当時存在したとされる勇者に滅ぼされたとされていた一族であった。
私は驚きのあまり、手に持っていたトレイを落としてしまう。
「!?誰だ!」
宮廷魔導師さんの声に殺される!と子供にしては瞬時に理解した私は震えながらも、ただただ逃げた。
城を国を飛び出し、山の方に逃げた私は何も持たず、土だらけになるのも気にせず、必死に逃げた。
そして現在
皇国から来たであろう騎馬隊の者たちに正に追い詰められ、やり過ごしたところだった。
騎馬隊が行ったのを確認すると、私は急いで騎馬隊向かった方とは逆の方に走る。
これで逃げ切れる。
そう思っていると、突然上から馬の足音が聞こえる。嫌な予感を感じながら、顔を上げると、そこには馬にまたがる騎馬隊の人がいた。
騎馬隊の人は持っていた槍を私に向けて振り下ろす。私はそれに恐怖し、へたりと座り込んでしまう。
座り込んだ私に、騎馬隊の人は槍を私の方に突きつけながら迫り、どんどん近くの崖の方に追い詰められていく。
そして、騎馬隊の人は持っていた槍を高々と振り上げ、それを振り下ろした。
*
「きゃああぁぁぁぁぁ!!!はあ…はあ…」
目を覚ますと、そこは見たことのない石の部屋だった。
へ?・・・夢?
理解の追いつかず、あたふたしていると、この部屋に唯一ある重苦しい鉄?の扉が開き、1人の同い年ぐらいの男の子が中に入ってくる。
「うん?ああ、目が覚めた?」
「ヒィ!」
私は思わず悲鳴をあげる。
悲鳴あげるつもりはなかった私は、悲鳴をあげたことをすごく後悔した。
「あらゃらゃ。ひょっとして、嫌われちゃったかな?」
「あ、いえ、そ、そんなつもりじゃ……」
「大丈夫。別に気にしてないよ。でも、とりあえず、君のドレスは洗濯してるから身体を隠してもらえるありがたいのだけれど……」
「へ?・・・き、きゃあああぁぁぁぁぁ!!!」
男の子が顔を赤くして言ったことに、私は私の身体を見る。私の格好は、着ていたドレスを纏っておらず、下着とシャツだけ着ている状態だった。
私は今度こそ恥ずかしさのあまり本気の悲鳴をあげて、思わず毛布で身を包む。
包んだ毛布はかなり上質なのか、とても柔らかく気持ちがよかった。
「アハハ…それだけ元気なら、あんまり心配する必要はないな」
そう言いながら、部屋の中に入ってくる。
彼の手には丸いトレイ?を持っており、その上には少しのパンと1つのスープカップがあり、そのカップから湯気を上げている。
そのカップからは漂ってくる美味しそうな匂いにとても鼻をくすぐってくる。
男の子はトレイをベットの横にある机に置き、丸椅子に座った。
「さて、まずは自己紹介と行こう。俺はソラ。気楽にソラって呼んでくれ」
彼・ソラは椅子に座ると、自分の名前を名乗り、次は君の番だよっと私が名乗るのを待つ。
「こ、コレット・フォン・ジェラード…です」
警戒しながら名乗ると、しまったと思った。
騎馬隊に追われていたことを考えると、おそらくもう全国的に手配されいるだろう。そう考えると名乗るべきではなかったと焦る。
きっと通報される!そう思い、目を強くつむり、身を縮める。
「コレット…ね。うん。俺は嫌いじゃないな」
・・・?
「それじゃあ、コレットって呼ぶな」
私は彼を見る。そして彼も私の方を見て、なぜ私が見ているのがわからず?を浮かべていた。
「・・・ど、どうした?俺、何か変なこと言ったか?」
「い、いや……」
「そ、そうか……。それじゃあ、ご飯でも食べながらでも、君が倒れていた理由を教えてくれないかな?」
彼がそう言うと私は机に置かれたパンとスープカップを見て、そして再び彼を見る。
「?…ああ。俺のことは気にしなくてもいいよ。それとも食べさせて欲しいのか?」
「い、いえ結構!」
「そうか。それと倒れていた理由はご飯を食べた後で話したくなったらでいいから」
「・・・いただきます」
話すと決まったわけでないが、あまりにも美味しそうな匂いと、空腹に耐えきれず、キュルルルル…と鳴るお腹にパンと美味しそうなスープを口の中に運んでいった。
パンはよくあるものだったが、スープはとても美味しくて思わず嫉妬したくなるほどだったが、それ以上にスープと同じように感じられる彼の暖かさに、ポツポツと涙がこぼれ落ちた。
そんな私を見て彼はすぐさま後ろを向き、私の涙を見ないようにしてくれた。本当に優しいのだろうと思いながら、スープを心の底から味わうのだった。