決着の後日
ソラが圧倒的敗北を味わい、受けた痛みで意識を失った後、しばらくの間目を覚ます事はなかった……という事はまったくなく、翌日の朝、日の出とともに大きな欠伸をしながら目を覚ました。
「……ふぁ〜。……おはよう」
「おはよう、ソラ」
「カメ〜」
「おお、カメ助。なんだな久しぶりだね」
あまり姿を現さないカメ助に少し驚きながら挨拶をした。
「起きて早々で悪いけど、わかってるよね?」
「……はい。ごめんなさい……」
ソラは今にも涙を流してしまいそうなコレットの我慢している表情での問いかけられ素直に頭を下げる。
「どうしてあんな無茶をしたの?」
「……僕も彼に気付いたのは、深夜に目を覚ました時だ」
ソラは昨夜戦う事になった経緯を語り出した。
「目を覚ました時、最初は気の所為だと思った。気配があまりにも微弱だし、殺気とは全く違う感じだったから……。それでも、気になって演技で林の中に入ってみたら、感じる気配が殺気に変わったんだ」
そして戦いまでの経緯を語り終えた。しかし、それでもコレットにはソラがそこまで無茶をして戦う理由がわからなかった。
「経緯はわかったけど、やっぱりソラがどうしてそんな事になるまで無茶をしてのはわからないよ」
「それは…その……。嫌だったんだよ」
「何が?」
「あいつ…「あの女をもらうため」って言ったから……、それがコレットの事だと思って嫌だったんだよ」
「! そ、そうなんだ……。ヘェ〜、そっか……」
ソラの恥ずかしそうに言ったその一言にコレットは驚きながら、同じ様に恥ずかしそうにそわそわしつつも、嬉しそうな表情を浮かべていた。
「……で、でも、無茶をしてのには変わらない。それは、謝るよ。ごめん」
「う、うん……。これから無茶をしないで…って言いたいけど……するよね? 無茶」
「うん、する。それが僕だからね。無茶はする。無理をする。そこは譲れない」
ソラがまるで我慢の様な言葉を並べて言い切る。コレットはそれに安心しように胸をなでおろした。
「ところで…コレットはあいつに会ったことある?」
「ううん。一度もないよ」
「そっか……。後、ユイちゃんは?」
ソラはⅣを知っているのかと尋ねつつ、いつも一緒にいるはずのユイの姿がない事に気付き、コレットに確認を取ると、Ⅳのことは知らないと答え、ユイら外でいるとのこと。
「そっか……。なら早く、元気な姿を…イテテッ」
ソラが起き上がろうとした時、切られた傷が痛み、うまく体を起こすことができなかった。
「大丈夫?」
「ああ。……魔装で受けた傷は、やっぱり治りが遅いか」
「魔装での痛みは心が傷つけられたって意味だからね。回復魔法や魔導を使っても、傷を塞ぐ事は出来ないよ。痛みを和らげるだけ」
「だよな……。傷が塞がるまでしばらく大人しくするか……」
せっかくいい機会だと思ったんだけどなぁ……と項垂れながら一生懸命立ち上がろうとしていた。そんなソラの脇の下から体を支える様にコレットが腕を回す。
コレットに支えられながらおぼつかない足取りで暗い部屋から外に出ると、昨日いた林の側ではなく大きな河原の近くで休憩を取っていた。
「ここは……」
「エリーゼの判断で、あの後すぐにあの場所から移動したの。あの時、エリーゼが冷静じゃなかったら、みんな大慌てだったと思う」
「そっか…後でお礼を言わないとな……。それで、ユイちゃんは……」
「ユイちゃんならあそこだよ」
コレットが指を指し、そちらの方を見てみると、河原のほとりで本来の姿のミストに跨がりながらオロオロとしていた。跨がられているミストも騎士達に囲まれて移動する足場を失って困り果てていた。
……どういう状況だ、あれ?
「やっぱり、男の人は大きくてカッコいいものが好きらしくて、ミストの姿に感動しているんだと思う」
「……なるほど」
ソラも男である以上、そういった話には同じ様な感動も抱きもする。ソラの場合、ソラが古代語であったというだけの話しだ。
ミストを囲んでいる騎士達をよくよく見てみると、その中にトムやカイ、さらにはライトの姿まであった。三人の姿を発見したソラは予想外の者がいた事に驚き、目を丸くした。
なんだか…見てはいけないものを見た気がした……。
「! 目を覚ましたの、ソラ!」
頭を抱えていたソラは突如そんな声が聞こえてきた。視線をそちらに向けると、驚いた様子でエリーゼがソラを見上げていた。
「おお。エリーゼさん、おはよう〜」
「っ!」
それはとても痛みで意識を失った人とは思えないほど、呑気な柔らかな挨拶であった。
いつもの調子で話しかけられたエリーゼは今まで抑えていた不安が一気に溶け、急いでソラのもとに駆け寄り、ソラの体を強く抱きしめた。
ソラ一瞬、傷の痛みで顔を歪めるが、押し殺す様なすすり泣く声が伝わってきた。
ソラは不安でいっぱいだったエリーゼの震える体を抱きしめて、背中をさする。エリーゼは抑えていた涙をいっぱい流しながらソラの胸で泣き続ける。そんな彼女が落ち着くまで優しく背中を撫で続けるのであった。
*
「もうすぐ、異世界のあいつがこの世界にやってくる。そうなれば、後は人間どもが勝手やってくれる。そうなれば、あの男の望み通り…か……」
所詮世界は神の掌の上…という事だな……。
「『……Ⅳよ』」
そんな事を考えていると、突然脳内に何者かの声が流れ込んだ。知っている声だ。
「……なんでございましょう」
「『もうしばらくすれば、約束の日だ』」
「……」
「『故に、貴様にとある命令を下す。すぐに帰還せよ』」
「は!」
返事を返すと響いていた頭の声が止み、そこには誰もいなくなった。
誰の声も聞こえなくなり、再び歩き始まると、あの男を辛そうとしたその直前に聞こえた彼女の姿を思い出していた。
「……やはり……」
あの子が欲しい……。頭の中で彼女の姿や声が頭の中で何度目繰り返され、欲しいと思う感情を抑える事が出来なくなっている自分がいるのがわかっていた。
「必ず…必ず手に入れるぞ……コレットォォオオオ!!!」
大きな声を上げながら彼女を名前を叫びながら、自身の黒い魔力が大量に溢れ出るのであった。