必殺技故の弱点
振り下ろされる鎌先が喉を掠める。あの数センチで頭と胴体が別々になろうとした瞬間、それを防ぐように手に持っていた盾を首と鎌の間に割り込んだ。
「……盾?」
「お前が撃ち落としてくれたおかげで、転移ができるまでの範囲まで盾に接近することが出来た!」
「転移……。そうか、『アポート』を使ったのか。あの魔導は生物に対して使用できない。だが、アポートを使うには引き寄せたいものと同価値のものではないと意味をなさないと思うが」
「僕の魔力で作られた魔導の盾と魔力を込めて放つ事が出来る近未来兵器。等価交換には十分だ!」
そう言って仮面の男がいる最も近くにあったはずの盾の方に視線を移すと、盾があったはずの場所に先程まで持っていた筈の銃が無造作に置かれてあった。
ソラは盾を鎌ごと男の体を押し退け、体をくるりと回し、十字の先端で薙ぎ払う。男は押しのけられるのと同時に背後に下がり、ソラから距離を取る。その一瞬を見逃さず、等価交換でアポートしたリボルバーをすぐさま回収する。
銃口が自分に向けられると、先程のように一気に距離を詰め、先程より速い速度で鎌を振り下ろそうと考えるが、周囲にフワフワと三つの盾がソラを守るようにして浮かんでおり、攻めきれないと判断した男は手に持った鎌をぐっと握りしめ、態勢を整え身構えた。
対してソラは現状を突破する手段が思い浮かばず、頭を悩ませていた。
(今の押し飛ばした感覚…明らかにわざと後ろに下がったよな……。遊んでいる…というよりは、やっぱり試しているという言葉の方が合点が行くな。今の追撃もまるでそうすることがわかっていたようなかわし方だったし……。つくづく力の差を理解させられるな……)
どっと肩の力を抜き、少し項垂れながら半目で目の前にいる仮面の男を見つめる。男は鎌を構え、じっとソラを見つめているが、警戒を一度たりとも緩めない。
そんな姿を見ながら、盾を握っている手に視線を移す。
(なんだ…さっきのは……)
先程あの鎌を強く押し飛ばした時、妙な現象が起こっていた。それはまるで何が流れ込んでくるような感覚がソラを襲っていた。
あの不思議な感覚と冷たくて凍えてしまいそうな感情。そしてそれを包み込んでくれる誰かに似ているあの温かさ……。
さらに興味が湧いた。
「お前…名前は?」
「……Ⅳ」
「そうか。さっきの言い回しからしっていると思うけど、ソラだ。よろしく…はしなくていいけど……。色々と聞きたいことが出来た」
「ほう」
「だから、どんな手を使ってでも倒させてもらうぜ」
その言葉と共にソラは引き金を引いた。当然避けられる。意識を逸らす為の弾丸ともう一つの布石の為の発砲だ。別にかわされても構わないという一発であった。
ソラはリボルバーを仕舞うと浮いている盾を手に取ってⅣとなった男に回転を付けて投げ付ける。Ⅳは一つを鎌でさばき、ジャンプして回避をするも、盾は自分の意思で操作できる為、避けられた盾とさばいた盾で再び攻撃を仕掛ける。Ⅳもそれに気付き、再びかわし、弾き飛ばす。
二つの盾を操作して何度もアタックを仕掛けているうちに、盾を一つ掴み、その盾と共に魔力を一つに集めていく。
ソラがやろうとしているのは自分が唯一、必殺技と呼べるような技、《ジャッチメント・ブレイザー》を放とうとしていた。
放つことが出来れば、殆どの敵は一撃で倒す事ができるあの技は、ドラゴンの姿となったクロエに致命傷を負わせるほどの威力を持っていた。まあ、クロエの強大な再生力でものの数分で対して意味を成さなかったが……。
おそらく、当たりさえすれば、自分より強者であろうと、致命傷程度は負わせる事ができ、技自体の範囲も大きく、地面に放たさせすればその余波どころか、直撃も出来るであろう。
当然そんなことをすれば、ソラ自身のの命の保証はできないし、もし生きていたとしても、まともに生活が出来る体であるかもわからない。そもそも、それをした後、自分が大好きな彼女が悲しむのなら、あの子が笑っている為に戦っている自分にとっては本末転倒である。
(それに、撃って奴に致命傷を負わせたとしても、奴自身がまだ動けるとしたら、それにあれをかわされたとしたら、僕が勝つ事はまず不可能だ)
魔力を集めながら、ソラにとってあの技の致命的な弱点に思考を悩ませる。
ソラにとっての必殺技、《ジャッチメント・ブレイザー》の弱点。それは放つ前ではなく、放った後である。
ドラゴンに対して致命傷を負わせたり、辺り一帯吹き飛ばしたり出来るこの技は、実のところ加減が出来ない。文字通り全身全霊の一撃である。その為、放った後、ソラは丸一日は魔力を一切使用する事は出来なくなる。全て使い果たし、魔力が空になるのだ。
故に、耐えられる事、そしてかわされる事は何としても避けなければならない。
(でも……避けられそうだな……)
だってあいつ、まだ魔装としての力全く使ってないし……と、Ⅳを観察しながらその結論に行き当たった。
魔装にも当然その姿…Ⅳが言ったように名前としての力当然存在する。
ソラの魔法には名前が無いが、盾・光と言った防御主体の魔装であり、攻撃として使っているものの、攻撃よりも防御主体に使う方が強力である。コレットの魔装も遠距離主体の武器であり、やはり遠距離戦、そして自身が得意としていた魔法戦が得意としている。
だが、Ⅳは持っている鎌を振り下ろしているだけで、それ以外のアクションは一切ない。つまり使うまでもない敵という判断をされたのだろうと思っていた。
そんな相手に全身全霊の必殺技という最終カードを切る事はソラは出来なかった。その為に思考する。あいつに勝つ為にどうすれば良いのかを。
だったら……あれで行くか。あまり得意ではないが……。
ソラが何かを思い付き、行動を起こそうてしている時、Ⅳは煩わしい二つの盾を回避するのに対し、飽きを感じていた。
(動きが単調でわかりやすいな……。まあ、遠隔操作でここまでコントロールできるのなら、上出来だろう。何か真剣に考え事をしているようだが、そろそろ決めさせてもらう)
その考えに至ったⅣは迫り来る二つの盾をさばこうともせず、その場に立ち尽くす。正面と背後から襲い掛かる盾。それを何もせずに鎌を握りしめる。そして二つの盾がⅣの体に直撃しようとした。
その瞬間、黒い霧となってこの世界から姿を消した。
盾は黒い霧となって消滅したⅣの体を通り過ぎ、盾同士が互いに衝突した。ガシャン!と盾が地面に倒れ落ちた。
地面に盾が落ちる音同時に上空で霧状となった体が再生させられ人の形となる。そして再び上空で消滅、そしてすぐさま体を消滅させ、ソラの背後で体を再生させた。
手に持った大鎌をソラに向けて振り下ろそうとすると、ソラが盾の裏を強く押し当て、逆の手を引いている姿が目に入ってきた。
だが、関係ない。ソラが振り返るよりも前に振り下ろせば それで終わり……。
そう思っていた。だが、ソラはその行動をあらかじめ予測していた。Ⅳが攻撃してきたいくつかは不意打ちでの攻撃が多い。自ら視線を盾で隠していれば、背後から狙ってくるとソラは予測していた。
別に左右からでもそれは同じ。直線上にある円から消えれば、一番無防備なのは背後だ。だからこそ、
「っ!」
「!?」
ソラが背後に振り返り、盾に押し当てていた手をⅣ向けるとⅣは驚愕した。振り向いてくると予想していなかったからだ。
ソラが振り返った時、同時に残りあった二つの盾も同時に振り返り、十字と逆さ十字の形で手を中心に少し距離を開けた。その手と二つの盾がソラの魔力で結ばれ、まるで弓の様な形となる。そして引いていた手が押し当てている手にかけて矢の状態に変化した。
「《ジャッチメント・アロー》!」
《ジャッチメント・アロー》これが必殺技とは言えないが、ソラのもう一つ技だ。この技は威力こそあるわけでは無いが、あの技以上の速度と貫通力があり、硬化な敵や長距離の敵に有利であり、カウンターでの一撃が最も強力であった。
「いっけぇぇえ!!」
ソラは確実に倒せると判断した上で矢を放った。事実、何の抵抗もなくヒットすれば、間違いなく倒すことができた。
何の抵抗もなければ……。
「『冥界斬首』!」




