闇の襲撃者
向かってくる男に向けてソラは容赦なく引き金をひいた。
ソラが後退しながら放った魔力弾は斬りつけた鉄の剣が簡単に折れてしまうような硬い岩盤に風穴を開けるような強力な一発であった。
仮面の男はその強力な弾をいとも簡単に弾き飛ばした。
強力な弾丸を弾き飛ばされ、顔を歪める。しかし、それは驚きからではなく、「やっぱりか!」と納得した様子だった。
男が振り上げられた鎌を見てソラは強く大地を蹴り、後ろにあった木の幹に飛び退いた。木の幹に足をさせるとすぐに枝の上へ乗り移る。
枝の上に乗り上げると、木に大きな衝撃が走る。根元を見てみると、仮面の男がソラが乗っている木に向けて鎌を振り下ろし、幹を両断していた。
「嘘?! そんなのあり?!」
ソラは倒れ始めている木から別の木に飛び移り、巻き込まれるのを回避する。男はソラが別の木に飛び移るの下から確認してそちらの後を追う。
(ヤベェ……。あいつ…もしかすると、僕よりも強い!)
ソラがそう感じることが出来たのは特訓を繰り返していた二年間と外に出て数度の戦闘から予測されたものだった。
二年前は、自分よりも強い者達に対し、常に勝負を仕掛け続け、特訓を行なっていた。外の世界へ戻ると、その感覚が鋭くなり、自分よりも強い者と弱い者を皇国での数回は戦闘でわかるようになっていた。
そして、自分よりも強いという感覚が追って来ている仮面の男からビリビリと伝わって来ていた。その感覚は数日前のキッドとの死合い、野太刀を抜いた時と全く同じ感覚だった。
(最初は野太刀から伝わってくると恐怖心からかと思っていたけど…強者っていうのは嫌でもわかるんだな)
力の差を理解しているものの、あっさりと敗北を認める気にはならなかった。
(強い相手と戦うのは慣れてるし、そんなことで身を引くぐらいならもう一度特訓のやり直しだな。……それより、ここだと見晴らしが悪いな!)
そんなことを思いつつ、ソラは仮面の男に向けて再び引き金を引く。放たれた弾丸は、同じく鎌に弾き飛ばされる。予想できていたことだが、ソラはさらに二度と弾丸を放つ。それも当然のように弾き飛ばした。
しかし、放たれた三発の弾丸は敵の意識を完全にソラに向けることに十分であった。
(真っ暗闇の夜に林の中。この状況で的確に自分を狙われるのなら、後ろの方にいるコレット達の方に向かえば、確実に背後から狙撃されることをうまく植え付けられたはず。今はこのまま、林を抜けて迎え撃つ!)
木から木へ飛び移りながら林を抜ける。抜けた先は誰もいない無人の荒野であった。
ソラは林の方に振り返りながら地面に着き、ブレーキをかける。荒野の上で停止すると、リボルバーのバレルを開き、クリアプレートを取り出して差し込もうとするが、林の中から飛んで来た鎖に弾かれてプレートを後ろの方に手放してしまう。
「な! ック!」
プレートを手放してしまったソラは、すぐに銃口を鎖の方に向けるが、鎖が一気に引き戻され一部か体に触れそうになり、やむなく横に回避する。
引き戻された鎖には先程放してしまったプレートが絡み付いており、そのプレートごと仮面の男の手に戻ってしまった。
「魔装を使う…か……。やはり、貴様と戦う事は正解のようだな」
篭ったような聞き取りづらい声がソラの耳に届いてくる。それが仮面の男のものだというのを理解するのにそう時間はかからなかった。
「様子を見に来ただけのつもりだったが、どの程度成長したのかを見るのもまた一興だろう」
そう言って手に持ったソラのプレートを返すように投げた。
「……どうしてだ?」
ソラは投げ返されたプレートをしっかりと掴むと、それを返された理由を尋ねる。
仮面の男はその理由を簡単に、そして簡潔に答えた。
「お前を倒して、あの女をもらうためだ」
その瞬間、ソラの中の何が外れた。
ソラは無言でプレートを挿入口に差し込んで、容赦なく引き金を引いた。放たれた弾丸は少しずつ形となっていき、四つの盾が出現する。盾を放ったリボルバーから光が降り、その光に包まれたソラの体には自身の魔装である青黒のコートに身を包んでいた。
(魔装の力が込められた弾丸と魔装の武器だ。魔導を知っているのなら、その弾丸の威力とその盾の意味はわからなはずないよな!)
わからないならわからないまま勝ってくたばってろという思いで放った弾丸を当然のように避ける。避けた仮面の男を逃すまいと、四つの盾を操作し襲いかかる。回避された弾丸は先程まで男がいた場所を過ぎ去って後方にあった木に直撃する。木に触れた瞬間、一瞬にして大きな風穴を開けた。
ソラ自身は、弾丸の威力を理解していた為、破壊力そのものにはあまり驚かなかったが、それなりの速さのある弾を避けられたという点では小さく舌打ちをした。
視線を男に戻すと、四つの盾に対して一つの鎖が繋がれたら鎌でその全てをさばいている。この程度はできて当然の実力がある事は分かっていたソラはすぐに拳に力を込める。
すると、ソラも予想していなかった緊急事態が起きた。
「やはり、魔装は面倒だな」
そんなことを呟きながら鎖を大きく振り回すと、手にあるものを持っていた。それは自らソラに投げ返した本来持っているはずのないものだった。
「?! クリアプレート?! どこでそれを!」
「クリアプレートを持っているのが君だけだと思うな」
男は手に持ったプレートを自身に突き刺し、プレートが体の中に沈んでいった。すると、仮面の男から凄まじい稲妻が走り、浮かんでいた四つの盾、全てを撃ち落とされた。
撃ち落とされるのを見ていたソラは手をまっすぐかざし、全ての盾を引き寄せる。しかし、プレートを差し込んだ男から強い光が放たれ、目を開けていることが出来なかった。
やがて光が治ると、光の中心にいた男が真っ黒な姿になっていた。黒色の体を覆い隠せるような大きなローブで姿を隠し、手に持っていた鎖鎌が大きな大鎌に変化していた。
「魔導錬金……ってわけじゃないよな。持っていた鎖鎌を魔装の一部としてその大鎌に変化した。そう考えるのが妥当なのかな」
「その理解で間違ってないな。この魔装の名前は『闇狩る大鎌』。こいつで貴様を狩る」
「闇を狩る大鎌で三日月か……。言葉遊びが過ぎるな」
ソラが言う言葉遊びとは仮面の男の姿や武器があるものを示していたからであった。
あるもの。それは「夜」である。
真っ暗闇を表す真っ黒なローブと照らせることで光輝く三日月を表す大鎌。その二つが夜を象徴し、ソラはそれを言葉遊びだと言った。
だが男はそれを鼻で笑い、「当然だろう」と言い放った。
「魔装の名とは本来、その力の意味をわかりやすくする為の表すための力だ。そんなことも知らなかったのか?」
「?!」
ソラはその問いかけに言葉を返すことが出来なかった。ソラは自身が身に纏っていた魔装の名前を知らなかったどころか、名前があるという事すら始めて知ったのだ。
「ふん。そうか、お前のそれにはまだ名前がないのか」
「くっ!」
「可哀想にな。まだ自分の獣を飼い慣らしていないとは……。しかし、これでも一応勝負だ。名前の無い魔装ごときに負けてやるつもりは毛頭無いがな!」
その瞬間、突如ソラの目の前に仮面の男が立っており、大鎌を力強く振り下ろされるのだった。




