死合い2
瞳の色を青色に変化させたソラはその場で軽くトントンと跳ねると足に少しだけ力を込める。
込めた力で地面を蹴ると、ソラは横に揺れるようにしてる姿を消した。キッドはその姿を捉えることができず、すぐに辺りを見渡す。
だがそれでもキッドの通常の眼ではソラを捉えることは出来なかった。
そんな中、ソラが消えた周囲ではなく、ただ静かに空を見上げる者がおよそ三名。
背後からゾッとするような強い寒気が体全体を覆い尽くす。避けられない! そう判断したキッドは体を大きく動かし、刀を使って守りの態勢を取る。
刀を構えた瞬間、上から降り注ぐ強い衝撃と共にソラが姿を現した。
ライト達は姿を消したソラが突然現れた事に驚きましたが、それ以上にそれに反応したキッドやソラが現れた事で、その中心から地面が凹み、クレーターを作り出したソラの力やそれを耐え切ったキッドの事。自分達とは次元の違う戦いを繰り広げている二人にもはや言葉を口にする事すら出来なかった。
キッドはソラの腕力、体重、降り注がれる重力と勢い、その全てを魔力で覆い尽くした刀とそれを受け止めるだけの力で苦い顔をして防いでいた。
そんなキッドの背後からドスッと貫かれた様な強い衝撃が走る。
後ろを見てみると、目の前にいるはずのソラが少し屈みながら自身の背後に立ち、腹に腕を突き刺している様にして手を押し込んでいた。
顔を上げると、まだ支えている刀の上にはソラの手が刀を押しているが、全くと言っていいほど重さがなく、まるで蜃気楼の様に姿が無くなった。
ソラは自身の勝利を悟ると、押し込んでいる手をゆっくりと離し立ち上がると、頭上から殺気が襲ってくる。
ソラがとった行動は反射的だった。辛く、厳しく、何より一度、本当に死にかけた事への反射的行動。『生』への渇望だった。
ソラは今後の為、自分の目的の為にあいつらとの戦闘以外で使わないと決めていた自分の力の象徴である“魔装の盾”を出現させ、襲い掛かる殺気の方角に盾を構えると、強い力で叩きつけられ後方に押し飛ばされた。
ソラは地面からクレーターの中心までの丁度中間ほどの位置で勢いが静止し、その場に立ち尽くす。手は叩きつけられた力でビリビリと痺れていたが、軽く手を振ったのち、先程自分がいた場所に目をやる。
先程いた場所を見てみると、キッドがソラの方に振り返り、刀を振り上げている。だが、その刀の形は先程持っていた刀の形状とは異なり、先程持っていた刀よりも何倍も長く、刀身にはべったりと真っ赤な血が付いていた。
(まさかあの刀……、魔導錬金で形状を変化させていた?!)
急に現れた真っ赤な刀身の野太刀。使い古され、巻かれている布が擦り切れている柄。刃こぼれの激しい刀身。そして何より、あの野太刀から放たれている禍々しさはレインが持っていた魔剣と遜色が無かった。
いや汗が頬を伝い流れ落ちる。
おそらく、魔剣を扱う者と退治するという危険性は、この場にいる者達の中で自分が最も理解している自覚しているからに他ならなかった。
レインあの魔剣は、触れている者の魔力を全て食らいつく力を持っており、当時は完全な不意打ちの強烈な一発が唯一の突破できる方法であったからだ。
(だが、今のキッドはどうだ……。あの野太刀に形を戻してから、力が爆発的上昇したし、その上、打ち込んだ痛覚が完成に完治しているみたいだし……。厄介だな……)
態勢を整えたキッドはもう既に痛みを感じていないかの様に体を慣らしている。
自分が相対する者の危険性をソラは再認識する。錬金が使えるという事は魔装も使えるという事に。
(……使うか)
ソラが懐から取り出したのは、ウィザードリボルバーと四つの盾が描かれたクリアプレート。盾の影に隠れクリアプレートを開いたリボルバーに挿入し、ガチャンッとしっかりと金具をとめる。
後は魔力を込めて引き金をだけ。しかし、出来れば最後まで引きたくはなかった。
実際のところ、ソラはリボルバーを使わずとも魔装を使う事は出来る。いや、本来はそれが正しい魔装の行い方だ。クリアプレートに内包された力を解き放つ事で魔装を身に纏う。それが魔装だ。
しかし、そうする為にも当然魔力を消費する。魔装の一部解放でも同じだが、発動する為に発動に必要な魔力エネルギーを消費し、人によっては魔装を行えても魔力の枯渇で身動き一つざらな事だとクロエから教えらていたソラ。
だが、ウィザードリボルバーはそのリスクを最小限にすることができる。挿入口に差し込まれたクリアプレートがリボルバーに込められた銃弾一発分の魔力がリボルバー内で増幅され、クリアプレートに内包され力の覚醒することができる。
(まあ、それ以外にも何か力がありそうだけどな……)
ソラは自分が差し込んだクリアプレートの挿入口とは別の…二つ目の挿入口の事を思い出していた。
(この銃はきっと、クリアプレートを二つ同時に使用する事を目的として作られたんだと思う。でないと、挿入口が二つだというのはあり得ないはずだから)
(僕の場合、自分でも使いこなせていないあのプレートを使うって事だけど…大丈夫かな?)
(……もし、また暴走したら…いや、この考えはやめておこう。今はあいつに集中!)
一瞬あの時の彼女の事との最初を思い出して、強張っていた緊張がほぐれ、思わず笑みがこぼれるが、すぐに気持ちを引き締める。と、同時に冷静にもなった。
(一手だ。後手に回る前に確実に殺れる一手をもぎ取る!)
その考えに至った瞬間、頭上からの殺気。だが、反応は出来る!
リボルバーを天に向けて突き付けると、大きく飛び跳ね、上空から刀を振り下ろそうとするキッドの姿があった。
刀を振り下ろされそうなソラ。銃口を向けられ引き金を引かれそうなキッド。二人の間に見えない見えない緊張が走る。
お互いに構えられた武器のソラは引き金を、キッドを振り下ろされる。
「そこまで!!」
そんな声が二人の耳に届き意識を戻すと、ソラはリボルバーを引っ込めて、体を少し逸らしてキッドと衝突しない様に軽めの距離を取る。キッドは刀を振り下ろさず、ソラが出していた盾の一部に足が引っかかり、こけそうになるが、それをなんとか堪えた。
声が聞こえてきた上の方を見上げると、皇王であるアッシュがソラ達を見下ろす様にして立っていた。
「二人の実力はこの目にしかと焼き付けた。それ以上の戦闘は無意味と判断し、両者痛み分けという事でこの場は私が預かる。よろしいかな?」
ソラ達は別段断る理由もなかった為、アッシュの提案を受け入れた。
かくして、アッシュとのわずか五分に渡る激戦は、両者痛み分けとなった。
しかし、この場にいた全員がソラの実力を知り、その強さが瞬く間に皇国領土内に拡散していき、結果、ソラは国を活気を取り戻す事と、ソラ個人の力を示す成功し、中央国に一緒に向かえる様になる許可をゲットすることができたのであった。




