注がれる愛
ソラがリスト達にうなぎを試食させていた頃、コレットは未だに母であるマリーとエリーゼ達に捕まっていた。
「それで、あなた達は一体どこまで進んでいるのかしら?」
「す、進んでいるって……」
「決まっているでしょう。二人の関係よ!」
「「!」」
「お、お母様! 別に私とソラはお母様が思うような関係では……」
「……私は別に、ソラくんとは一言も言っていないけど」
「あ……〜〜〜〜!!!」
コレットはマリーにそう言われ、少し赤かった顔が耳まで真っ赤となって恥ずかしそうに顔を両手で覆い隠した。
「ああ……まさか自分の娘がこんな可愛らしく恋をするなんて…本当素敵!」
「うぅ……」
「しかもこの反応…少し…いじめたくなっちゃうわね」
「それは、コレット様にあまりにも酷かと……」
「……」
恥ずかしさのあまり顔を手で覆い、俯いているコレット。娘な反応に面白がるマリー。そんな王妃様に呆れながら様子を見守るミン。そんな混沌とした現状で、エリーゼは何も語らず、俯いているコレットにずっと視線を送っていた。
「それで、あなたは…あら?」
「? どうしたのです…ああ……」
「…………」
「ううぅぅぅ……」
マリーは再びコレットとソラの二人の関係を尋ねようとして、話にあまり混ざっていないエリーゼの視線に気付いた。ミンもそんなマリーの視線に気付き、隣を見てみると、自分達の方を全く見ておらず、コレットの方にずっと視線を向けているエリーゼの姿に気が付いた。
「あらあらあら!」
何か面白い物を見つけたと直感したマリー。あらあらと声が漏れ、満面の笑みを浮かべる。
それを見たミン。呆れを超えて嫌な予感が頭を過る。
「コレットが答えてくれないなら……エリーゼさんに聞こうかしらね♪」
「「……え?」」
「エリーゼさん、あなたとソラくんは一体どういう関係かしら?」
マリーの標的がエリーゼに変わり、コレットとエリーゼは顔を上げ、マリーを見つめる。動揺する二人に間髪入れず、マリーは自分とソラの関係を尋ねられるエリーゼ。しかし、質問に答える頃には冷静さを取り戻したエリーゼは、
「関係って別に……私とソラは特に何かある関係ではありませんよ」
そう答えた。
対象にコレットはエリーゼに対して不安を隠しきれないでいた。
ソラは友達や家族…大切な人との境界線をかなりはっきりさせる人間だ。そんな彼が“家族”と言せた人。
もし彼女がそういうことだとしたら……。
「そう…なら仕方ないわね」
その言葉を聞いてホッと胸を撫で下ろすコレット。
「もし話してくれたら、私の一存で、あなたをソラの側室、もしくは妻にしてあげることも考えて良かったのだけれど…残念ね……」
その言葉に三人はあまりの衝撃に開いた口が塞がらず、目を点にして固まった。
三人の中で誰よりも先に冷静さを取り戻したのは三人の中で唯一蚊帳の外だったミンであったが、今のマリーを止めることは不可能だと感じ、三人から少し距離を取り、我関せずの態度をとった。
「なら、またコレットちゃんに話を……」
「ま、待ってください!」
マリーの標的がコレットに変わろうとする直前、エリーゼはマリーに待ったをかけた。
「確かに、何か特別な関係があるわけではありませんが、私とソラは家族です! この中では誰よりもソラのことを知っているつもりです!」
エリーゼは少し力を込めながら、特に、“誰よりも”という部分を力強く言い放ち、チラリとコレットの方を見てすぐにマリーの方に視線を戻した。
「……誰よりも?」
エリーゼの言葉に反応を示したコレットは首を傾げる。そんなコレットを強く睨みつける。
「……ええ。誰よりも知っているつもりよ。学園での演技も、私に迷惑を掛けないようにする優しさも、いい加減にみえて、本当は努力家だったことも、全部知ています」
エリーゼの発言はソラの事をしっかりと見て、知っているものにしか答えられないような言葉であった。その発言を聞いたコレットだが、全く表情を崩していない。それどころか、余裕の笑みを浮かべている。
ちなみに、娘のそんな笑みを浮かべたところを一度も見たことの無いマリーは笑みを浮かべているコレットの姿に少し怯んだ。
「その三つなんて、ソラを知っている人なら誰だって知っている事じゃないですか」
「くっ」
「知っていました? ソラって、少し大人ぶっているけど、本当は少し甘えたがりで、本当に辛い時は甘えてくるんだよ」
「ッ?!」
初めて知ったそれに、嘘だと言おうとするが、それと同時に羨ましいという思いが湧き上がり、言葉にすることが出来なかった。
「それに彼の愛ってとても大きくて、深くて、私一人では受け止めきれないから、いつも最後まで意識を保てないんですよね〜。まあ、その深い愛が私にだけ向けられているから嬉しいんだけどね」
「「な?!」」
「まぁ!!」
その深い愛の意味を理解したエリーゼ、ミン、マリーは悔しさで言葉を出すことが出来なかったり、顔を真っ赤にして顔を隠すが、耳を塞がず、指開いて、話を逃さず聞こうとしたり、目をキラキラと輝かせて目の前にいるほんのりと赤くなった頬に手を当てて、思い出にふけっているコレットのお話が続かれるのを待っていた。
「ソラはいつも情熱的で私にめいいっぱいの愛を注いでくれるんです。見ているだけしかしなかったエリーゼは知らなかったでしょう」
「くっ!」
コレットの最後の言葉にエリーゼは何も言葉を返すことが出来ず、十数分における二人の激戦(?)は圧倒的な経験談でコレットに軍配が上がった。
*
「で? これは一体どういうこと?」
リストさん達と試食会についての打ち合わせが終わり、その時に余ったうなぎの残りを持って帰ってきた僕とユイちゃんは、調理室にうなぎを置き、コレット達の様子を見にきたのだが……。
なんだ…この状況は……。
コレット達がいた部屋に来てみれば、レミュート姉はあたふたしているし、エリーゼさんは見るからに不機嫌ですって表情で机をトントンと叩いているし、コレットは部屋にあった毛布にくるまってジタバタと悶えているし、その中心でほぼ間違いなく暗躍し、この場をかき回していたであろうマリーさんは僕とコレットの方とエリーゼさんの方をくるくると首を回しながらキラキラと目を輝かせながら、楽しそうな笑みを浮かべて観察していた。
「本当に…なんだ。この状況……」
「本当、なんなんだろうね」
「! 皇王様」
「やあ、ソラ君。いい食材は見つかったかな?」
中の四人の様子を観察していると、突然皇王様が僕の隣に並び立った。皇王様は僕の方をガッチリと掴み、尋ねてきた。
「ええ、いいものが見つかりました。それを食べたらとても驚くと思いますよ。……あと、力がどんどん強くなって、正直痛いのですが」
肩を掴んでいる腕の力がどんどん強くなっていき、正直かなり痛いが、そこは堪えてなんだか怖い雰囲気を出している皇王様から視線を晒さない。
「ところでソラ君。一つ聞きたいのだが」
「はい、なんでございましょう」
「……昨晩は、お楽しみだったようだね」
…
……
………
…………(ダラダラダラ)
皇王様の言葉の意味を理解した僕は、額からダラダラと嫌な汗が止めどなく流れ始めた。
「……少し…お話しようか」
その言葉に拒否権はなかった。
皇王様に引き摺られながら連れていかれた僕は、城中に響き渡る程の悲鳴をあげるのだった。